第4話 彼女とのデート

 焼きとりが買えなかった私が一人暮らしのアパートで、ヤオン姪浜店で買った「レンジでチンするだけで食べられる餃子」をチンして、アサヒスーパードライのプルトップに指をかけた時、彼女から携帯に電話がかかってきた。


「今日は、黙って帰っちゃって、ごめんなさい。おじいちゃんとおばあちゃんに夕食を作らないといけなかったから」

 と彼女は謝った。私が、

「別に謝らなくてもいいよ。いつもおじいちゃんとおばあちゃんの夕食を作っているの? たいへんだね」

 と言うと、

「いつもじゃないけど・・・今は、おばあちゃんが病気しているから。

ところで、川畑さんは、『とるお』っていうの? 変わった名前ね」

 彼女は、僕が病院で彼女に渡した名刺を見て、そう聞いてきた。


「僕の実家は北九州の若松で写真館をしていてね。僕にカメラマンになってほしということで、僕の名前は、おじいちゃんがつけた名前なんだ」

 私がそう言うと、 彼女は、

「ちゃんとカメラマンになれてよかったわね。おじいちゃんも喜んでいるでしょう」

 と言った。


 それから少し間をおいて、

「いつか会ってくれませ・・」

 二人は同時に、そう言っていた。



 私が彼女と待ち合わせをして会ったのは、その三日後のお昼だった。私と彼女は、ピエトロのペイペイドーム店で会って、食事をしながら長い時間話した。

 もっと気の利いた店の方が良かったのかもしれないが、毎日忙しく過ごしている二人は、気の利いた店を知らなかったという方が正確だった。


 その日、彼女は非番で、私は休みをもらった。

 私たち二人が話した内容は、以下のようなものであった・・・


 彼女は、三年前まで大橋にあるアパートで両親と一緒に暮らしていて、そこから福岡市内にある西筑紫短大に通っていたと言った。

 そして彼女が短大の2年生の時、ご両親が交通事故で亡くなったということであった。彼女は一人娘だったので、両親に可愛がられて育ったと言った。

 両親が亡くなってからは下山門にある祖父母の家に住み、ヤオン姪浜店でパートを始めて二年になるということだった。

 短大では経理の勉強をしていたので、本当は会計の仕事をしたいと彼女は言った。


 彼女から履歴を詳しく聞いたので、私も自分のことを彼女に話した。


 私は、北九州の若松区にある写真館の長男で、妹が一人いるが、妹は小倉にある和菓子屋に嫁いでいることを彼女に話した。

 私のおじいちゃんは、

「店を継ぐんじゃったら、専門学校でよかたい」

 と言ったが、私は大学に行きたかったので、若松東高を卒業すると、北九州市立大学に進学した。両親も、「大学を出ていた方が、つぶしが利く」と言って、授業料を出してくれた。

 私が「福岡毎日日新聞」に就職できたのも、大学を出ていたためであった。

 写真の方は写真館の仕事を手伝ったため、自然に覚えたと彼女に伝えた。

 大学を出て今の新聞社に入ってからは、今宿にあるアパートで、ずっと一人暮らしをしていることを彼女に話した。


 そして私は彼女に、

「僕は、もう27歳になる」

 と言ったが、学生時代にいた恋人を大学の卒業直前に海の事故で亡くしたことは彼女には言わなかった。


 三日前の足場転倒の時、私は身をていして彼女を助け、突発的な出来事とは言え、二人は体を重ね合わせた仲である。

 その日二人が自身のことを詳しく話したのは、お互いに恋人同士になりたいと思っていたためであった。


 食事が終わると、私と彼女は愛宕浜のマリナタウン海浜公園を散歩した。

 やがて靴と靴下を脱いで、二人は足首まで海の中に入って、波の感触を楽しんだ。


 そして僕たちは、夕日に照らされた砂浜で、初めての口づけを交わした。

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