第5話 足場転倒
私はその日、普段より早めに退社して、ヤオン姪浜店に行った。
目的は二つ・・・それは、そのスーパーの店頭に店を出している焼き鳥屋で、「鳥皮のぐるぐる」と「豚バラのねぎま」を買うことと、あの可愛い彼女を探すことだった。
私の目的は、同時に達成された。
私が焼き鳥屋のおじさんに「豚バラのねぎま」を二本注文して、
「一本は塩、もう一本はタレにして」
と、味付けの注文をした時だった。
「新聞社のカメラマンさんも焼き鳥を食べるの?」
という声がした。
横を見ると、私が会いたかった彼女が立っていた。
横に並んでみると、彼女は思ったより小柄だった。
彼女を探すためにこのスーパーに来たのだが、私は、
「どうして、ここにいるの?」
と、とぼけた。
「私、このスーパーの食品売り場でレジを打っているの」
彼女がそういった時であった。
『今日の目玉商品』の看板を取り換えるための足場がこちらに向けて倒れてきた。
「危ない」
私はそう叫ぶと、彼女を抱きかかえて横に飛んでいた。
手首からひじにかけてコンクリートの床でこすれる痛みはあったが、私と彼女は無事だった。
私の顔のすぐ下に、彼女の顔があった。
二人の下半身は、私のズボンと彼女のパンツ越しに完全に密着していた。
動物ならそのまま交尾に至る体位である。
動物的な本能で、私のものは瞬く間に大きくなった。
彼女がそれに違和感を感じていないのは、
(もしかして、彼女、
と私は思った。
私が体を起こして、
「ごめん」
と言うと、
「なぜ、あなたが謝るの。助けてもらったのは私よ」
彼女は、そう言った。
私は彼女の手を引っ張って彼女を起こしてあげた。すると彼女は、
「ありがとう」
と言った。
焼き鳥屋を見ると、おじさんがパイプ足場の下敷きになっていた。
私がその足場を肩にかついで持ち上げると、おじさんはパイプ足場の下から自力で這(は)い出してきた。
それでもおじさんは、胸をおさえて痛がっていた。
すぐに到着した救急車に乗って、おじさんは病院に運ばれていった。
スーパーの中から男性の店員が何人か出てきて、焼き鳥屋をたたみ始めた。
倒れた足場はキャスター付きのパイプ足場で、ストッパーをかけていないと転倒しやすい足場だった。
そして、いくら軽量とはいえ、それが頭を直撃したら死亡事故につながることもあった。
足場の崩落や転倒事故は、人が死なない限り新聞には載らないが、私は車に戻ってカメラを出して、現場の写真を何枚か撮った。
私が写真を撮り終えて気が付くと、彼女は、もういなかった。
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