第39話 作戦

 アワユキの乗る鳥型作業ロボが故障し、片足のみしか使えない。そこで、カルカン運転のオート三輪の荷台に載り、カニクモロボに立ち向かうことになった。


 アワユキがカルカンに考えていることを話した。


「オート三輪でカニ野郎の前に高速移動。急ブレーキと一緒にアタシが片足ジャンプで作業ロボのどこかが"黒いの"に当たったら砕けると思うんだ」

「・・・アワユキも砕けそうだけど」


「やるしかないよ。片足ジャンプに耐えうる浮遊力で頼む。"ピーガガッビー"を最大出力でお願い」

「全部壊れたら、走って逃げる。いいね?」


「サイプレスさんのターレットトラックにみんな乗るんだよ」

「乗れるか、アホゥ。ひひっ、さて、やりますか。カジャクが降りてて良かったよ。さすがに積載量超えちゃうからね」


 カルカンは運転席で浮遊効果のメモリ調整し、確認をしている。その間に、アワユキはオート三輪の荷台のへりを作業ロボの腕で掴み、曲がったままの足を先に載せ、慎重に鳥型作業ロボを積載した。

 カルカンは出発の合図として、クラクションを鳴らした。


 プップーッ!ププ!


「うるさいなぁ、カニ野郎に気付かれるだろ!って、こっちに向かってきてるじゃん!」


 操縦席の中でアワユキは叫び、慌てて浮遊効果のメモリ調整を最大にする。

 運転席で車体が浮き上がるのを感じたカルカンは、アクセルを踏み込んだ。ギュルギュルとタイヤを鳴らした後、どんどん加速していくオート三輪。アワユキは荷台の上で、いつでも飛び上がれるよう、その瞬間を待つ。


 まっすぐ突っ込んでくる車両に対して、カニクモロボは全ての腕を大きく広げ、振り回し、アワユキたちを待ち構えている。その腕を振り回す動作を見て、カルカンはオート三輪の制動距離を考え、カニクモロボの間合いより手前で急ブレーキをかけた。

 ガクンと反動の衝撃が来ると同時に鳥型作業ロボは片足で飛び上がる。アワユキは少しでも浮遊効果で先に進むようペダルを踏み込んだ。


 それを見越していたカニクモロボは全ての腕で掴みにかかる。下側の腕で鳥型作業ロボの足が損傷した。そこでアワユキは鳥型作業ロボの左腕を咄嗟に引いて、右腕を前に伸ばした。鳥型作業ロボの上体がひねられ、回転するように右腕が黒色浮遊ロボに捻り込まれた。まるで、発掘現場の穿孔機ドリルのようだった。


 カニクモロボの全ての腕は鳥型作業ロボを抱きしめるように内側に折られたことで、さらに圧力がかかり、黒色浮遊ロボは粉々に砕けた。

 そして、カニクモロボはカクンと機体が沈み込み、完全に沈黙した。


 カルカンは大急ぎで移動し、車両を飛び降りて、カニクモロボに近寄った。


「アワユキィィィ!」


 鳥型作業ロボの操縦席を抱え込んだ4本の腕で邪魔で、状況がよく分からない。どうにかよじ登ろうとするが、手や足が引っかかる場所が見当たらず、声をかけるしか出来ない。

 そこへ、カジャクやサイプレスたちも集まり、アワユキを探す。


「アワユキ~?」

「アワユキちゃんよ~、返事しろ~」


 ようやく声に気付いたのか、ドン!ドン!と音がした。


「おーい!」


 カルカンがまた叫ぶと、返事があった。


「あ゛~、生命いのちありますぅ~」


 独特の表現でアワユキが答えた。


 アワユキは強化された操縦席に守られ、一時的に気を失っていたが、皆の声で意識を取り戻していた。ただ、操縦席の天蓋が開かなかったため、何度も蹴り上げ、こじ開ける。


「今から、下ります~」


 少し力ない声でアワユキが知らせ、もそもそと動いて操縦席からカニクモロボに移る。その足元には、黒色浮遊ロボの残骸にくっついたラクガンの抜け殻があった。


「すみませ~ん、黒い残骸と抜け殻があったんで、下に落とします~。どなたか拾ってくださ~い」

「分かった~、何人かで受け取るぞ~、アワユキちゃ~ん」


 サイプレスと若い衆が声のする方へ行き、アワユキが足で落とすと、それを若い衆の一人が受け取った。アワユキはそのまま移動して、カニクモロボの足にしがみつき、ゆっくりと地面に下りることが出来た。駆け寄るカルカンに抱きしめられる。


「はぁ~、無事で良かった。ぺちゃんこになったと思ったんだよ~」

「・・・えぇ、アタシもあの抜け殻みたいに、ペラペラになると覚悟したよ。あの操縦席が硬かったから助かった」


「でしょ。ウチの技術、やるでしょ」

「ん~、すんごいねぇ。でも、壊れちゃったね」


「設計図あるし、材料比とか配合が分かってるから、ナンボでも作れる。鳥型があんなに走れるって実績もある。膝関節は要検討だけどさ」

「へへっ。あの抜け殻のところに行こうか」


 カルカンに支えられながら、アワユキは皆が集まっている所に行った。


「これって、素手で触っていいもんですかねぇ?」

「よく分からねぇよな。オレっちも触りたくねぇな」


 サイプレスと若い衆が、ラクガンの抜け殻がくっついた黒色浮遊ロボの破片の中にある金属製のパイプを見て、話をしている。

 アワユキに気付いたサイプレスが声をかける。


「アワユキちゃん、大手柄だな。誰もやれなかったことをやってくれた。何より、大怪我もなさそうだしさ」

「どうにか、無事です。それで、抜け殻に変化はありますか?」


「何も起きない。このパイプに焼け付いたのか抜け殻が離れないんだよ。下手に触ると、パイプから何か出てきそうで」

「そうですよねぇ。浮遊ロボの構造なんて誰も知らないし、妙なガスでも出たら大変」


 サイプレスとアワユキは、角度を変えて見てみるが分からない。


「ん、まず広げましょう」

「何を?アワユキちゃん、それに触るってのか!」


「そもそも、アタシが抜け殻を畳んで丸めましたし」

「うへぇ~、感触を想像しただけでオレっちはダメだな。任せるよ」


 アワユキは抜け殻が解けないよう巻き付けた紐を取り、シーツを広げるかのようにラクガンの抜け殻をバサッとたなびかせた。畳みじわの寄ったペラペラのラクガンが姿を現した。金属パイプとくっついているのは、右頬と確認出来る。


「おーい、アワユキ、無事か~!すげぇ操縦だったな!」

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