第38話 残った一人
黒色の浮遊ロボを取り込んだ大型作業ロボ[カニクモロボ]が、長い腕を使って作業ロボを行動不能にした。
その状況を見て、アワユキが叫ぶ。
「怪我人はいませんか~!救助が必要な方は何か音を出してくださ~い」
動けない作業ロボたちから、わらわらと作業員たちが操縦席から出てきて、無事を叫ぶ者、近くの者と互いに怪我がないか確認する等している。どうやら、動けない者はいないようだ。
その光景を見たからか、カニクモロボがカシャカシャと足を素早く動かして、作業員たちに急接近する。
「退避!逃げろ~!」
作業員たちは、全速力でサイプレスがいる場所まで走った。
カニクモロボは動かない作業ロボの前まで来ると、4本の腕をバラバラに動かし、作業ロボの原形が分からない程に砕き始めた。作業員が狙いではなく、作業ロボを破壊したかったようだ。
大きく響く破砕音に浮遊ロボの壁が動きを止め、カニクモロボに向かい、バラバラになって飛んで行く。その動きについて行くようカジャクも方向転換し移動する。
アワユキは作業員たちの無事を確認出来たので、自身も少し距離を取ろうと鳥型作業ロボで、トコトコ歩き出した。それに気付いたカニクモロボは全ての腕を大きく広げ、獲物を見つけたクモのようにカタタタタとアワユキ目指して素早く移動。
操縦席内で叫ぶアワユキ。
「あの動きは気持ち悪い!ぞわぞわする!」
アワユキは計器類下部のスイッチを全て入れ、浮遊機能が稼働し、羽のない鳥が飛ぶように走る素早い動きで距離を取った。しかし、カニクモロボの執着心に火を付ける。4本の腕で絶妙に安定をはかりながら、アワユキの後を追いかける。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
無我夢中で全力疾走する鳥型作業ロボは、地下空間の壁まで辿り着いてしまったので、右に曲がり壁際を走る。もちろん、カニクモロボも追いかけるが、曲がりきれず、何度も壁に腕を擦りながら移動する。
その光景を見て、カジャクは進路予想してカニクモロボの真横から腕にしがみつこうと考える。どうにかして接触しない限り、動きが止められない。カジャクはアクセルペダルをベタ踏みして、カニクモロボの右後方から作業ロボを走らせた。
「ほらほら、もう少し!こっちの右腕伸ばせば、ヤツの右腕に引っかかる!」
カジャクは作業ロボの右腕を必死に伸ばす!カニクモロボはすぐに気付き、大きく動く上体を右に捻り、作業ロボに2本の右腕が裏拳を放つように作業ロボに命中した。弾き飛ばされる作業ロボは、背面から地面に叩きつけられ、強化フレームに囲まれた操縦席以外がバラバラに砕け散る。
逃げ回る鳥型作業ロボは、すぐさまカジャクに駆け寄る。
「大丈夫ですかっ!」
安全ベルトを外しながら、操縦席から出るカジャク。
「あちこち打ったが、骨は折れてないし、立てるから、ま、大丈夫だろ」
そこへ、オート三輪がやってきた。
「おーい、カジャク!無事なら早く乗って!それとアワユキ!逃げ回ってないで"黒いの"救出してきて!アンタしか残ってないよ!」
カジャクを回収するカルカンは、再びオート三輪を走らせた。
アワユキは周囲を見渡す。逃げるオート三輪に、サイプレスは作業員たちとこっちを見ている。
「ぁ~、本当にアタシしかいないんだ・・・残ってないんだ。ふぅ~、ふぅ~」
アワユキは呼吸を整え、じわじわ近寄ってくるカニクモロボの方を見た。そして、また距離を取るように別方向に移動を始め、考える。
どうしてもカニクモロボの4本の腕が邪魔。まっすぐ突っ込んでも、こっちが壊される。あの黒色浮遊ロボを取り去ることは無理だろう。それなら・・・。
鳥型作業ロボの進む先には、カジャクが乗っていた作業ロボの四肢が転がっている。アワユキは落ちている片腕を鳥型作業ロボの両手で拾い上げ、方向転換し、カニクモロボに向かって走り出した。
カシャンカシャンと軋む音が聞こえるが、構わず接近し、カニクモロボの前で左へ急旋回。その勢いを使って作業ロボの片腕を投げつけた。
ゴボォッ!
大きな音を立ててカニクモロボはよろめき、後ろに倒れないよう4本の腕をジタバタさせている。迂回して、その様子を見るアワユキ。また徐々に近付いていくと、中心部にある黒色浮遊ロボが少し欠損していた。それを確認したアワユキは、もう一度試そうと残っている作業ロボの腕を拾い、同じ様にカニクモロボに急接近して、掴んでいる腕を放り投げた。
「んあ゛ぁぁぁぁ」
アワユキが放り投げた作業ロボの腕は、黒色浮遊ロボには当たらず、カニクモロボ上体に当たった。しかし、衝撃が強かったのか、またジタバタと大きくよろめきだした。
最後のチャンス!と思ったアワユキは、鳥型作業ロボを走らせようとした。しかし、ギギギという音がして左足の膝関節が曲がったまま伸びなくなっている。しゃがみ姿勢は出来るが、伸びてくれない。『この貴重な時間、早くしないと!』と焦る。
計器類を確認すると、左足だけが問題があって他は大丈夫なようだ。
鳥型作業ロボが片足立ちで身動きしないことに、オート三輪が急加速でやってくる。
アワユキは操縦席の天蓋を開けると、カルカンが大声で叫んだ。
「おーい、アワユキ!故障なら退避しよう!住人に崖の街から撤退するよう言わなきゃいけない!」
「・・・その前に最後の悪あがきをさせてくれない?」
「何すんの?」
「アタシを載っけてちょうだい!」
「そりゃ乗せるけど」
「はい、お邪魔しますよ」
「おい!作業ロボのこと?ちょっと待って、スイッチ入れるから」
「ついでにさぁ~、あのカニ野郎前まで高速移動して、急ブレーキかけて。その勢いでアタシが"黒いの"を救出する!」
「無謀ぉ」
「やるしかないんだよ。やるなら、今しかねぇ」
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