第37話 機械化石の産物

 崖の街地下発掘現場に集まった人間たち。黒色の浮遊ロボを発見したら、どう対処するか考えるが作戦を練ろうとするとサイプレスは考えることが消えてしまうという。


 サイプレスの言葉を聞いて、アワユキは思い出した。人間はラクガンによって思考の制限がかかっている。

 アワユキは天蓋部分が開いた操縦席から、皆に声をかけた。


「あの~、考え方を変えてみてください。我々人間って、攻撃的だったり、何かを強引に奪って争うことって考えられないよう管理者ラクガンに言われました。『黒色の浮遊ロボをどうやって助けるか?』って考えられますか?」

「何だよ、アワユキちゃん。そんなもん、黒いやつを作業ロボで掴んで、他の色たちが近付かないよう皆で守るってことだろ」


「おい、サイプレス、考え出るじゃねぇか」

「カジャク、オレっち何言った?あれ、おかしいな・・・」


「それじゃ、サイプレスさん、あの機械文明たちと黒色を持ち去って争うとしたらどう考えます?」

「そんなのはさ~、アワユキちゃん。うちの若い衆と作業ロボで・・・こう・・・」


 身振り手振りでサイプレスが言おうとするが、言葉が出ない。


「え~、こんな大事な時に、変な現象に気付くなんて」

「サイプレスさんが、これまで争う状況にならなかったってことですよ。アタシも管理者たちに会わなかったら考えもしなかった」

「だから、発想を変えてみるってことだな。それじゃ、オレが先頭で行ってみるよ」


 カジャクは、作業ロボを前進し始めた。


「はぁ?あの大馬鹿野郎は何考えてんだ!おい!全員カジャクを守れ!」

「アタシも行かなきゃ」


 アワユキは鳥型作業ロボを起動し、荷台から降りる。そして、先に移動始めた作業ロボの後ろをガコンガコンと音を立てながら付いて行く。


 一方、カジャクは操縦席で意気揚々としている。


「は~、壁だねぇ。立方体形状だから、浮いたまま積み上がることできるんだ。お、ちょっと近付いてくるな。それじゃ、一枚壁の端から裏を見るってのもいいし、オレに気を取られて壁が動けば、他の連中が隠してあるものを見ることができる。ヘヘン、やりますか」


 カジャクは操縦席の計器類下部に付いたスイッチをパチパチと入れだした。


「車両でうまくいったんだ。作業用ロボットでも、それは可能ってことだろ!」


 カジャクの乗った人型作業ロボの腰や股関節周辺、足元からフシュッ!フシュッ!と音がして、重心が低く姿勢が変わった。右半身を前にして操縦席足元の専用ペダルをカジャクは踏み込んだ。

 右肩から体当りするような姿勢で、浮遊ロボの壁に急接近し、左に旋回し高速移動した。それに合わせて、浮遊ロボの壁は左側に移動した。


 作業ロボを見守っているサイプレスとカルカンは、カジャクの動きを見ている。


「何だあれ?あんな速く動けないだろ!何をニヤニヤしてんだ、カルカン」

「あれもアクマキ車両整備の技術ぅ~。"ピーガガッビー"を仕込みまして、ちょっと浮いて移動してます」


「なんだと・・・良いなぁ。このターレットトラックも浮かないか?」

「それなら、バイクを改造しません?座れますよ」


「最近、腰痛くてさ楽できる!って、そうじゃなくて、あのカジャクの動きなら、黒い浮遊ロボを助けだして運べるな」

「壁が動いて、なんか見えてきましたね。・・・え~、あんなの、ありえるんですか?」


「あれって、かなり前に見つかった大型の機械化石ノジュールにあったんだよ。動かせるのか、4本腕・・・」


 サイプレスとカルカンが見ていたものは、腕4本、足4本ある大型ロボ。上半身は真っ赤な塗装がしてある。

カニのようで、クモのようでもある。


「カニか?クモか?なんだ、あの足の動き。人間が背中合わせに腰を落とした足の動きみたいだな。うわっ、上半身がすごい範囲で動いてる」

「上半身の可動域が広いですね。ぐるっと一周はしませんが・・・あ!胸元に黒い浮遊ロボくっついてる!」


「カニクモロボを動かしてるのが、あの黒ってわけか」

「とりあえずの呼び方、もっとカッコいいのないんですか?」


「見た目で分かりやすいっての大事だろ?それに迷惑かけられてるのに、カッコいい呼び名はつけたくねぇよ」

「あ~、はい~。我々もカニクモロボに近付きましょうか」


 浮遊ロボの壁が無くなり、作業ロボの集団が近付いてきたため、大型ロボが動き出した。4本腕の重さで大きな機体が傾きそうだが、4本足がカシャカシャと動いて絶妙に支えている。そして、じわじわとお互いの距離が近付いてきた。

 近付いて分かるカニクモロボの構造。上側の右腕先端は発掘で用いられる削岩機、残りは砕いた岩石を掴めるよう猛禽類の爪に似た形状をしていた。時折、威嚇の意味なのか全ての腕を大きく開いて見せるが、その大きさは大型バス1台分の長さほどある。


 作業ロボの1台がノシノシと真正面からカニクモロボに突っ込んでいく。ただ黒色の浮遊ロボを回収することしか考えていないので、カニクモロボと1対1で対峙した時、4本の腕から攻撃を想定していなかった。


「ぅ、うわぁぁぁ、なんだよ!」


 あっさりと下腕で作業ロボの腕を掴んだカニクモロボは、削岩機で作業ロボの両腕を破壊した。徐々に接近している他の作業ロボたちは、操縦者も同様に削岩機によって命を奪われるのでは、と考えた。しかし、カニクモロボは作業ロボの破壊した腕をそこら辺に捨て、それ以上の事はしてこなかった。

 その後、複数の作業ロボが同時にカニクモロボに接近するが、機敏な動きで作業ロボを逆に撹乱し、上体可動域の広いカニクモロボは、全ての腕を広げブンブン振り回し、作業ロボの膝関節を狙ったり、作業ロボ同士を薙ぎ払い衝突させ転倒させた。

 アワユキはその状況を見せられ、どう接近したものか考える。他の作業ロボと一緒に動けば、薙ぎ払いを受けてしまう。まだ浮遊ロボの壁を遠くに誘導しているカジャクの機体と合わせて機動力を活かさないと近付けないだろう。


 しかし、そう考えているうちに作業ロボは、ほぼ全機が行動不能になった。

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