第35話 惨状

 ビル街から改造された作業ロボを積載して崖の街に辿り着いた3人。


 車両用通路を上り、崖の街2階に到着した。通路の照明が一部消えており、昼間の照明のはずが、夜間照明の薄暗さ。右に曲がり通路を進むと、半壊した店舗と無傷な建物とさまざまあり、突き当たりをまた右に曲がる。

 アクマキ車両整備の支店であるカジャクの店舗。下りているシャッターに何箇所か凹みがあった。後ろから付いてきているカジャクの小型トラックが車のライトをチカチカ照らして合図を送ってくる。カルカンは停車して、カジャクの元に走る。


「何よ」

「気になるから、ウチの店を見ていいか?カルカンはアワユキに付いて行ってくれ」


「あいよ」

「それじゃ」


 カジャクは車を下りて、どうにかシャッターを開けようと試している。

 カルカンが車に乗り込むと、アワユキが両手で顔を覆っていた。


「どした?」

「建物がボロボロなのが見えた。もう、辛い」


 カルカンは車をゆっくりと移動させる。まっすぐ進んだ所にある曲がり角。診療所と薬草店がある場所。そこには、多くの掃除ロボが集まっていた。

 近くまで車を寄せるが、それ以上は行けなかった。ハブタエ医師の診療所は、柱が折れ、1階が2階の重さで潰れ、建物の形を成していなかった。アワユキの店[薬草と酒]の看板が通路に落ち、2階住居部分には大きな穴が開いていた。見た感じ、1階は無傷のよう。


 カルカンがアワユキに声をかける。


「アワユキ、状況確認は必要だよ。車、降りようか」

「・・・分かった」


 すでにアワユキは大粒の涙が止まらなかった。カルカンがアワユキを支えながら、ゆっくり歩く。元の形状が分からない診療所跡を通り過ぎ、アワユキの店の前に立つ。割れた看板の周りに掃除ロボが破片回収をしている。コツンコツンと掃除ロボが看板を押していく。


「大事な看板を傷付けるな!」


 アワユキは看板を持ち上げ、掃除ロボに声を上げる。


「その看板は、店内に入れよう。アワユキ、鍵開けて」


 カルカンはアワユキを落ち着かせるため、最適な行動を勧めた。

 白衣の袖で涙を拭い、アワユキは店の鍵を開ける。1階店舗は多少物が倒れているが、円筒形装置や薬草棚は少しずれ動いた程度。窓ガラスも割れていないようだ。店の看板をカウンターの奥に置いて、奥にある薬草の調合や保管する部屋を通り階段を上がる。


 2階は本棚が壊れ、多くの専門書が床に散らばっている。壁も大きな穴があり、人参色の浮遊ロボが1体転がっている。本を踏まないようアワユキは進み、何が無事なのか確認した。カルカンはアワユキが何かしでかさないよう注意して後ろを歩く。

 通路側の壁まで歩いたところで、カルカンは声をかけた。


「床は無事そう?歪んでたり、斜めになってない?」

「グスッ、グスッ・・・今、歩いた感じでは建物が傾いてない。・・・なんだよ、この穴・・・くそぅ」


 話し声に反応したのか、床に転がっている人参色の浮遊ロボがカタカタ動き出し、触覚のようなアンテナが、びよんびよんと跳ね回っている。

 アワユキは、そのアンテナを両手で持ち、右足で浮遊ロボ本体を踏み、押さえつけた。


「お前がウチを壊したんか!診療所も!ラクガンに何をもらった?人間の住む場所を壊してまわれと言われたのかぁぁぁ!」


 これまでにない感情に支配されたアワユキは、力任せにアンテナを引っ張った。引き抜けなかったため、両手でアンテナを持ったまま浮遊ロボを引っ張り上げ、アワユキは一回転して、開けられた穴から浮遊ロボを投げ捨てる。通路に投げ飛ばされた人参色の浮遊ロボは、その衝撃で完全機能停止し、周辺にいた大型掃除ロボに回収された。


「アワユキ~、投げた先に誰かいたらどうすんの?むしゃくしゃするけど、そこは考えようよ」

「・・・うぅ・・・」


 声にならない怒りでアワユキは、白衣の太もも辺りを握りしめ、また涙が溢れて止まらなかった。その姿を見て、カルカンは破片が散乱しているベッドだったが、アワユキを座らせ正面にしゃがみ込み、握りしめた両手にカルカンの手を重ねた。


 しばらく、同じ姿勢で時間が過ぎた頃、外から声がした。


「おーい、アワユキちゃんいるのか~?」

「・・・アワユキ、呼ばれてる。返事しないと」

「ん、うん」


 アワユキはゆっくりと立ち上がり、開いた穴から通路を見た。サイプレスがターレットトラックで店の前に来ていた。


「サイプレスさんが来てる」

「んじゃ、下りようか」


 アワユキは外にいるサイプレスに聞こえるほどの声が出せず、カルカンに小さな声で状況を伝え、カルカンはアワユキをまた支えながら1階に下りた。


 ゆっくりとドアを開け、2人は店の外に出る。待っていたサイプレスはアワユキを見て驚く。


「どうした、大丈夫か?アワユキちゃん」

「いろいろ辛すぎて・・・」


 また白衣の袖で涙を拭うアワユキ。


「2人とも怪我はないんだな?車が見えたんで来たんだよ。カジャクも戻ってきてるんだな」

「まず、怪我はないです。カジャクは自宅が無事かを確認してます。ジブンがこっちのオート三輪を運転してきたので、そのままアワユキの店に来ました」


「え?ん?ロープウェー使えないはずなのに、どうやって来た?それに、逃げた時もどうやった?船か?」

「へへへ、こっちのオート三輪とあっちの小型トラックはバリバリ改造車でして」

「・・・空、飛んだ」


「涙声で何言ってんだアワユキちゃん。車だぞ。改造したところで・・・カルカン、すんげぇしたり顔で笑ってるけどマジか!」

「はい~、アクマキ車両整備の技術力はすごいんです!」

「・・・でも、元は浮遊ロボじゃん」


「浮遊ロボ?」

「えぇ、浮遊ロボの浮遊装置"ピーガガッビー"を車両に搭載して、使用可能にした技術力!アワユキ、改造っていろいろあるんだよ」

「確かに、使える状態にして助けられたけど、心臓によろしくない」


「ただ、今の状況は使えるものは、なんでも使って黒色の浮遊ロボを壊すべきだと思う。人参色の機械文明が圧倒的に増えてきたんだ」

「ここはひとつ、アワユキにがんばってもらい、浮遊ロボからラクガンを取り戻す」

「取り戻しても管理者たちに渡すだけだよ」


 会話をすることで、少しずつ落ち着いてきたアワユキ。その変化にカルカンは、ほっとしていた。

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