第34話 いざ、崖の街へ

 崖の街へ戻る日、皆、自然と早く目が覚めた。外は、まだ薄暗い時間帯。


 軽く朝食を済ませた後、すぐにでも出られるよう支度をする。ゲタンハが1階整備場のシャッターを開けると、広場や通路には浮遊ロボの残骸と競い合うように散らばった破片を回収するくすんだ緑色と人参色の掃除ロボが集まり始めていた。


 ゲタンハが声をかける。


「おーい、掃除ロボが増えだした。ぼちぼち出発した方がいいぞ」

「了解です」

「は~い」


 カジャクとカルカンが返事して、早速車に乗り込んだ。オート三輪の助手席に乗ったアワユキは、窓を開け、ゲタンハに挨拶をする。


「それでは、行って参ります」

「アワユキさん、無理はするなよ。そもそも、管理者たちがやらなきゃいけないケジメなんだから」


 アワユキとカルカンは、ゲタンハに手を振り出発した。カジャクも真似して手を振ったが、ゲタンハに追い払われる仕草を返される。


 検問所まで慎重に進む。出発早々、浮遊ロボの破片で車体故障したくないし、掃除ロボの数が多すぎて、タイヤで乗り上げそうだったからだ。

 何事もなく、検問所を通過すると、またロープウェー乗り場までの一本道。2台の車は、作業ロボを載せているため積載量を超えているはずだが、"ピーガガッビー"の浮遊効果により、走行に支障のない重量として快適な走行を可能とした。


 途中のデコボコ道も浮かびながら走行し、難なくロープウェイ乗り場まで辿り着く。そのまま、カルカンは先にロープウェイ係員のそばまで車を近付けた。


「おはようございます。どのくらい待てば、車両2台運んでもらえますか?」

「一昨日からロープウェイの運行停止になってるんです。崖の街で機械文明が異常行動を起こしているとかで、今の所、運搬コンテナやロープウェイ装置に支障は出ていないのですが、ロープウェイ稼働中に事故が起きたら、救助のしようがありません」


「そうなると、海に落下するってことですか?」

「そうです。なので、船しか崖の街に行く手段がありません」


「船って、ここから南東に見える対岸の港ですよね?」

「はい、陸路で3時間くらいかかります」


「ぁ~、分かりました」

「お気をつけて」


 カルカンは車を移動させ、駐車場から一旦離れた。カジャクは、その後ろを付いて移動する。


「3時間移動して船か。かなり予定より遅れるけど仕方ないね」

「アワユキさ~ん、このオート三輪ってどんな改造加えられているか知ってるはずだよね?」


「へ?」

「お忘れかな?」


 カルカンは車の窓を開け、カジャクに大きな声で伝えた。


「カジャク~、ロープウェーがダメだから、飛んでくよ~」

「あいよ~」


 カジャクが返事をすると、カルカンは改めて車の座席に体をぐりぐりと押し込んで座った。


「ははっ、まさか・・・ね」

「アワユキ、『まさか』って、想定外の事やろうとしてると思ってるでしょ?始めから想定してんのよ、こっちは」


 カルカンはパチパチとスイッチを入れ、ニヤッとアワユキを見て、笑みを浮かべる。


「声出すないように。舌噛むよ」

「・・・なるほど。へへっ」


 アワユキも座り直し、覚悟を決めた。


 カルカンはオート三輪を走らせる。ロープウェイ駐車場までの一直線、じわじわと速度を上げ、モーターの高速回転する音がフィィィィンと周囲に響く。途中、異変に気付いたロープウェイ係員が両手を振って、制止を促しているようだったが、カルカンは道を開けるよう、逆に合図を送った。

 さらにアクセルを踏み込んで、速度計を振り切る速さになった時、駐車場の端から車体が飛び出した。アワユキは体を縮めてシートベルトをギュゥッと握りしめる。カルカンは冷静にハンドル右側にある大きなボタンを押した。

 少し高台にある駐車場から海に向かって飛び出したオート三輪は、海面より10mほどの高さで浮遊し、そのまま前進した。カジャクの小型トラックも同様に飛び出し、カルカンの後を追って浮遊した。


 ロープウェイ係員は頭に手をやり、他の係員と顔を見合わせている。


「え~、何だあれ?」

「分かんねぇよ」


「車、浮かんでるな」

「新車って、飛ぶんだ」


「いや、あれ、思いっきり旧車だぞ」

「でっけぇ荷物積んで、もう遠いところまで行ってるな」


 お互い驚きすぎて、あまり言葉が出ず、何も考えられなかった。


 アワユキも似たようなものだった。外を見ることが出来ず、身をかがめて小さくなっていた。


「アワユキ~、もう安定飛行しているから、体を起こして大丈夫だよ」

「・・・また上昇中なんでしょ?崖の街6階の高さまで上がりっぱなしのはず」


「いやいや、荷物積んでるから、さすがにその高度までは上がらないね。計算して無理だったから」

「え、んじゃ、今、どの高さ?」


 アワユキは少しずつ頭を起こして、窓の外を見た。


「うわ、低っ!」

「もう少し低く飛んでもいいかな?って思うけど、波被りたくないし、海鳥より低く、波より高く。そんな感じ」


「後ろ見ると、カジャクさんも同じ高さで飛んでるね。・・・変な感じ。浮かんでるのは分かるんだけど、揺れないからさ」

「せっかくの良い天気だけど、のんびり遊覧飛行は出来ないんだよ」


 やがて崖の街1階外にある波止場が見えてくる。カルカンは進路を少しずつ移動させ、まっすぐ着陸出来るよう調整。港湾事務所の担当者たちが驚きたじろぐ中、無事、垂直着陸した。カジャクも同様に着陸し、車から下りた。

 カジャクは前にいるカルカンの元まで走っていき、運転席のカルカンに声を掛ける。


「どうするんだ?いきなり地下に行くか?」

「まず2階でしょ。ウチの支店とアワユキのお店が気になる」


「あ~、分かったよ。2階だな」

「へ~い」


 カジャクは周囲の野次馬に手を振って挨拶し、すぐ車を移動させる旨を伝えた。


 崖の街の1階に入り、慎重に進む。大型船の着岸があったようで、荷物は港湾事務所の前に積んであった。また、多少、魚も置いてあったので漁に出ることが可能だった者もいたようだ。しかし、活気があるようには見えない。その中をゆっくりと進み、車両用通路から2階を目指した。

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