第33話 試運転

 崖の街からの要請で、早く戻り、黒色の浮遊ロボを制圧する話が進められている。


 ゲタンハがアワユキに対して説明を続ける。


「元々、このビル街向けに改造していた作業ロボというのが数体ある。そのうち、控えとして待機していた作業ロボを崖の街に送る。カジャク操縦するものは、操縦席に長めの腕、低重心とした短めの足が接続された形状。浮遊ロボの浮遊装置"ピーガガッビー"を多く取り付け、少々足元が不安定な場所でも平衡を保つし、長い腕を振っても安定した動きをする。次にアワユキさんが乗る機体、カジャクと同様に操縦席がショベルカーの運転席に似た形をして、ダチョウに似ている。操縦席後部に股関節があり、膝が後ろに曲がる逆関節の足を持つ。腕は操縦席横下部についている」

「あ、あの、勝手な印象なんですが、ダチョウに似ているとなると、操縦席がすごい揺れませんか?」


「カジャクが乗る機体に"ピーガガッビー"を取り付けたんならば、アワユキさんの機体にも当然付けるでしょ。試運転してるけど、ま~、安定してる。足元の不安定さも改善した。オート三輪に乗ったんなら、安定性は同格だよ」

「アワユキ、気になるなら、酔い止め飲んどきなよ」

「カジャクさん、そりゃ飲みますけども、聞いておきたいじゃないですか」


「さて、時間もないし、試運転行くぞ。明日は崖の街に出発してもらうから、今日しか練習できない」

「あ、はい~」


 事務所から整備場の奥まで進む。大きなシートが掛けてある場所が2つあった。手前にあるシートをゲタンハが取り除き、足を逆関節に曲げた作業ロボが現れた。


「あれ、思ったほど大きくない。操縦席も見た目がゴツゴツしてなくて、滑らかな感じありますね」

「だろ~、アワユキさん。この曲線はカルカンがこだわったんだ。滑空するグライダーの操縦席に近づけてさ」

「いいでしょ、これ。曲線でありながら、強度もバッチリある。ほら、アワユキ、乗ってみ」


 カジャクが操縦席の固定を外し、大きく天蓋部分を上に開ける。そして、中に入り操縦席に座るアワユキ。計器類を確認して固定ベルトを装着した。

 そこへカルカンが近付いて、説明をした


「アワユキ~、基本操作は他の作業ロボと同じだから。それと、オート三輪に取り付けたスイッチと同じものが右側にあるから、上の段を入れといて。まだ天蓋部分は閉めずに頼む。声届かないし」

「了解~」


 アワユキは起動スイッチを入れる。正面にある計器類がパパッと通電し、じわじわと明るく表示された。そして、右側にあるスイッチをパチパチ跳ね上げると、スホッという空気を吐き出す音が機体からいくつも聞こえてきた。


「それじゃ、立ち上がるので皆さん下がってくださ~い」


 アワユキは機体近くにいる皆に声をかけ、[乗降]から[起立]に設定レバーを入れ替える。ヴォウォンとモーターとギアが噛み合い、操縦席の目線が徐々に上がっていく。


「おっほ~、高ぇ~っ!」


 アワユキが少し興奮したのか大きな声を出している。


「ちょっと歩いてみます」


 左右の操縦桿を握り、少しずつ足元のペダルを踏み、機体を前進。緊張しながらも、顔がほころんでいるのが、外にいる3人から見えた。


「あ~、大丈夫そうね」

「オレが教えたんだから、機体が変わっても操縦できるさ」

「カジャク、偉そうに言うなよ」


「カジャクは、すぐ調子に乗るし」

「カルカンまで、そういうこと言う?」

「しかし、操縦する時くらい白衣脱げばいいのにな。こだわりかねぇ」


「父さん、アワユキの仕事着だから、忘れてんだよ」

「ゲタンハ社長も作業服のまま、あちこち行くでしょ」

「あ~、そういう感覚かねぇ」


 アワユキの操縦を眺めながら、ゲタンハ、カルカン父娘とカジャクは、軽い息抜きをしていた。


 日が傾き始めた頃、アワユキのダチョウ型作業ロボ操縦は一通り出来るようになっており、整備場だけでは物足りず、アクマキ車両整備前の広場でも軽快に走り抜けている。帰ってきそうにないので、ゲタンハが大きく手を振り、アワユキに戻ってくるよう合図を送った。

 整備場に戻ってきたアワユキは、ダチョウ型作業ロボを元の定位置に戻し、停止ボタンを押して、しゃがみ状態になった。


「アワユキさん、ずいぶん楽しんだようだな」

「えへへ、速く動いても揺れが少ないのが、良かったんですよ。それと、他の作業ロボに比べて、操作レバーの動きが軽くて反応が早い。機動力が高いからですか?」


「いやいや、大体の作業向けロボットというものは、しっかり操作レバーを入れて動かすものだ。ガコッて音が出るほど硬い。操作ミスを減らすためだそうだけど、乗ってる者が疲れるなぁ。それを改善したのが、今乗ったやつだよ」

「もっと小型化したら、車の代わりに移動手段として乗りたいくらい」


「おーい、聞いたか、カルカン、カジャク。小型量産化すれば、良いらしいぞ!」

「あら、ウチの会社が大きくなっちゃう!」

「もう何人か子供が増えても、給料に余裕が出来るな」

「・・・商魂たくましい。お求めやすい本体価格でお願いしますよ」


 再び事務所に入り、皆で明日以降の計画を話し合う。ゲタンハの計画では、カルカンとアワユキはオート三輪にダチョウ型作業ロボを載せ、カジャクは小型トラックに作業ロボ載せ、それぞれ掛けの街に向かう。ゲタンハは会社に残り、ビル街住民と共に地域を守る。特に異論はなく、早朝から移動を行なう、ということで明日に備え、早めに就寝・・・のはずだった。


 ゴッ!ゴツッ!


 ビル街では、浮遊ロボだけでなく、色違いの掃除ロボも衝突が始まり、鈍い音がビルに反響している。

 カルカンの部屋から窓の外を覗くアワユキ。それに気付いたカルカンが毛布にくるまりながら、小声で聞いた。


「どした~?」

「ごめん、起こしたね。あの音が気になっちゃって、どれだけの勢いでぶつかってるのか見ようかなって」


「見ちゃうとさ~、興奮しちゃって寝れなくなるよ。普段とは違うから衝撃的だし」

「ん~、分かった。耳塞いで寝るよ」


 そう言うとアワユキは、床に敷いたマットに横になり、頭から毛布を被った。

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