第31話 管理者からの依頼

 崖の街から避難したアワユキは、疲労困憊。そこで、ビル街の薬問屋ビルで薬草を煎じてもらうことにした。


 ヘルメットを被ったアワユキとカルカン。お互いの姿を見て、指差し確認をする。


「アワユキ隊員の安全確認!ヘルメットよ~し」

「ヘルメット、よし」


「カルカン隊員の安全確認!ヘルメット・・・大きすぎない?」

「致し方なしっ!無いよりマシ!」


 ふらつくアワユキを元気付けるために、カルカンなりの気遣い。

 少し遅い朝のビル街は、浮遊ロボたちは少なく、巡回のため飛んでいるかのよう。穏やかなうちに、薬問屋ビルを目指す。通り抜けるビルの間は掃除ロボのおかげでガレキ等はほぼないが、建物の壁や角部分は破損が目立っている。


 薬問屋ビルに入り、1階処方窓口に行った。症状を説明し、煎じた物が店内席でゆっくりと飲める。アワユキは煎じる待ち時間にすでに調合された商品を店員に見せてもらい、いくつか購入していた。

 テーブル席で待っているカルカンの元へ、アワユキがやってきた。


「アワユキ、店内ではヘルメット外しても大丈夫なんじゃない?」

「へへへ、気付いてなかったよ」


「珍しい。うっかり忘れるくらい、疲労してんだよ。薬も買ったんだ」

「そうだよ、疲労回復、乗り物酔い止め、その他」


「その他、何よそれ?」

「問屋さんの専門家が調合するもの。効くよ~」


「・・・瞳孔バッキバキに開いて、フシュー!って言いながら走り回らないでよ」

「そっちじゃねぇよ。でも、頭がモヤモヤする時に飲むとスッキリする。ま、緊張を取る処方がされたものだよ」


「ん?あながち間違ってないような~」

「ほれ、煎じた物が来たよ」


 アワユキたちの前に置かれた煎じ薬は、大きめの急須と湯呑みで運ばれてきて、ゆっくりとたくさん飲むよう店員が説明した。自分たちで湯呑みに注ぎ、フーフーと冷ましながら一口飲む。


「熱っ、苦ぁぁぁぁぁ!アワユキ、よく平気で飲んでるねぇ!」

「似たようなものを普段から飲んでるし。でも、この抽出具合は、やっぱり違うよね。香ばしさだけでなくて、柑橘類の皮が爽やかさを味あわせてくれる。ぼーっとして目が開かなかったけど、少しずつ温かい血液が巡って、頭が冴えてくる」


「へ~。変なもの見えてくるんじゃない?」

「・・・確かに、見えちゃった」


「何、言ってんの?ご先祖様でも見えた?」

「いや、黒スーツのお二方が、外からこっちを見ている」


「え?」


 カルカンはアワユキの言葉で、窓の外に目をやると、黒いスーツを着た金髪と黒髪の姿があった。アワユキは小さく手招きして、テーブル席に呼んだ。そして、店員に湯呑みを2つ追加して、管理者たちにも煎じ薬を差し出した。


「突然伺って申し訳ない。・・・んぐっ、苦っ!」

「ゼンザイ、これはうまいぞ。それほど、苦くない。いや、ちょっと苦いか」


 アワユキは目の前にいるゼンザイとシルコをじっと見て、こう言った。


「すでに状況はご存知なんですよね?アタシたちに言いたいことはなんでしょうか?」


 アワユキの言葉で、ゼンザイとシルコは姿勢を正して話し始めた。


「まず、お二方だけでなく、多くの人間たちに迷惑をかけている。その原因が同じ管理者であるラクガンの行動。ラクガン本人の欲『もっと機械文明を進化させたい』という欲を与えすぎたため、多くの異なる色の機械文明を増やし、機械文明自体が知りたい欲にかられ、元々いた機械文明に対して知りたい内容を奪われまいと、衝突を繰り返した。それでも満たされない機体が、ラクガンを取り込んだ。欲を与えたラクガンなら、もっと知りたいことを満たしてくれるだろう、と」

「ゼンザイさん、それをどうやって知ったのですか?そもそも、こうなると予想していたとか?」


「機械文明の行動は、シルコが機械文明同士の会話から解析した。ラクガンの独自行動が目立ち始めていたのは、数十年前から。しかし、機械文明の成長が追いついてきたのは最近の事。数ヶ月前に見つかった機械化石ノジュールの部品構造が、これまでの知能とは違い知性を発現させた」

「え~っと、それは繰り返しやって覚えたことだけでなく、積み上げてきたことを踏まえて、その場で新たな判断が出来るってことですか」


「そうだね、そう言えるだろう。知能が学習して的確な答えを導き出すなら、知性は学んだことからその個体が独自の行動を示す。全ての浮遊ロボがラクガンを取り込もうとはせず、ひとつの機体だけが、そのような行動を取った」


 そこへカルカンが意見を述べた。


「あなた方は人間にはない力を持ってるんだから、あの真っ黒な浮遊ロボを壊してしまえば、ラクガンって方の抜け殻も手に入るし、元に戻せるでしょ?もう、済んだとか?」

「いや、済んでないし、直接手を出せない。我々にも制限というのがあって、浮遊ロボを解体できない。それと、ラクガンの抜け殻とは?」

「人参色の浮遊ロボにラクガンさんが取り込まれた後、ペラペラの抜け殻が残ったんです。で、黒い浮遊ロボになって、崖の街で建物壊したから、アタシがその抜け殻を投げつけたんです。・・・あ、ゼンザイさんから受け取った指輪をその抜け殻に紐と一緒に巻き付けてます」


 ゼンザイとシルコは、お互いの顔を見合わせ、アワユキにゼンザイが聞いた。


「なんでまた抜け殻に指輪が一緒とは?」

「指輪が小さすぎて入らないから、紐を付けてネックレスにしてたんです。あれ、やたら熱くなるし、ラクガンさんの抜け殻を丸めてまとめるには、その紐がちょうど良くて。あの指輪って、結局なんなんです?」


「ラクガン捕獲の道具。アワユキさんを何か利用しようと企んで、行動に移したならば捕獲するという一つの手段。危険を知らせるために熱をもたせた」

「それじゃ、今はある意味捕獲状態?」


「さすがに、抜け殻にくっついた状態では捕らえられてない。しかも、浮遊ロボの中。それで、本題なのだが・・・」

「はぁ」


 アワユキの左眉がグイッと上がった。ゼンザイは、その眉の動きを見て、顔が少しひきつる。


「アワユキさん、ラクガンを取り込んだ黒色の浮遊ロボを破壊してくれないか?我々が手を下せない以上、人間に頼む必要がある」

「それは、無理でしょ。手段がない。あんな硬くて、空に浮いているものを」


「その方法は、どういったものでも構わない。破壊したら、ラクガンの抜け殻に中身が戻り、ボクとシルコがラクガンを制圧できる。あの指輪で拘束できる」

「安請け合いはしないですよ」

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