第30話 参考意見

 ビル街に無事到着したアワユキとカルカンは、アクマキ車両整備で夕飯を食べながら対策を考えることに。


 小走りでカジャクが帰ってきた。


「いや~、今日も衝突が激しい。あれだけ砕け散ってるのに機械文明の数が減らないってのも、おかしな話だよ」

「カジャク~、ついでに"ピーガガッビー"拾ってくればいいのに」


「カルカン、使いこなせないくらい在庫あるぞ。動作確認も済んでるから、これ以上あってもなぁ~、社長どう思います?」

「利用価値はあるから、収納困った時はカジャクが使ってる部屋に置く。拾いに行く時間帯もあるからな、掃除ロボが一斉にゴミ収集場所に行く明け方が狙い目だ」


 カジャクが買ってきた袋を開け料理を皆で取り出す。牛すじの煮込み、野菜炒め、玉子スープ、蒸し饅頭マントウ、炊き込みご飯。


「カジャク、このメニュー選びってさ、微妙に外れてなくて、無難な感じ。普段の仕事も、こう収まってくれないかな~」

「待ち時間が少なく、パッと用意してもらえる物を買ってきたんですよぉ。社長が好きな炊き込みご飯もありますし」


 事務所内の応接台を使って皆で食事をする。今日は色々ありすぎて、アワユキはあまり食べようとしなかった。

 ゲタンハがアワユキに言った。


「温かい物だけでも、胃に入れておかないと倒れてしまう。こういう時こそ、食べないと。アワユキちゃん」

「えぇ。視覚から飛び込んできた情報が脳に対しての刺激がありすぎて。それと、お世話になった場所が壊されたのも動揺しちゃって」


「壊された?アワユキ、それどこ?」

「カジャクさん、ウチの隣にある診療所です。おそらく、他の建物にも被害は広がっているようです」


 その話から、崖の街で何が起きたかをアワユキは話し始め、カルカンも自身が見た場面や印象を話した。カジャクは管理者とすでに会っているが、ゲタンハからすれば周りが寝ぼけているような内容。


 一通り話を聞いたゲタンハが言う。


「え~と、なんだ、この世というのが誰かに造られて、ワイらは生かされている。しかし、人間が争いを起こすために滅んでしまう世界があり、管理者って黒スーツ連中が未然に防いでいるが、もう面倒くせぇって、アワユキさんの店で愚痴ったわけだ。

そんでもって、人間は滅亡まっしぐらだから自然環境に任せ、機械文明たちが可愛くてしょうがないって選んだら、ラクガンって奴が浮遊ロボに取り込まれてしまった、という解釈でいいか、アワユキさん?」

「ご理解頂いて助かります。アタシは急に妙な方々に人間には出来ないことを見せつけられて、そういう存在がいることを人々に伝えるよう言われました。」


「しかし、どうしろってんだろうな、その管理者たちの思惑は」

「今、話してみて思ったのですが、伝記や絵本、形に残して欲しいのかな、と。他の世界で起こした人間の愚かな部分を忘れちゃいない、みたいな」


「でもよ、アワユキさん。勝手な意見とも思えないか?勝手に人間をこしらえといて、争うな、でも滅びるな。どうしたいんだろうな?」

「管理者たちよりも上の存在がいるそうで、どういう事をするか見ているようですよ」


 ゲタンハは背伸びをした。少し冷静になりたかったようだ。そして、また話し始めた。


「上の存在ってのは、ワイらが見るテレビの感覚じゃねぇのかな。極端な話、娯楽であり、暇つぶしで見ている。だから、滅んでもらっちゃ困る。管理者たちの意見を直接会ってないワイの所見だな」

「あ~、父さんの言ってるの分かるわぁ。ラクガンって管理者は、『機械文明に知識欲を与える』と言いつつ、ラクガンの欲がまさってんだよ。そうしたら、浮遊ロボがさらに上回って、知識を欲しがった。それなら、『ラクガンを食ってしまえ』ってなったんだよ」


 それに対して、カジャクの発言。


「それじゃ放って置いて、機械文明たちの衝突を安全な所から見るのが最適解だろ?」

「カジャク、何言ってんの?」

「おい、カジャクよ~、アワユキさんが必死で逃げてきて、何が最適解だ。崖の街の北側にある溶鉱炉や再処理工場あるの知ってるだろ?あれ管理してんのは機械文明たちだ。機械化石ノジュールを資源として再活用してるから、浮遊ロボたちの数が保たれてる。いつまで見るんだ?ワイらの寿命より長いはずだぞ」

「・・・カジャクさんの住まい無くなると、奥さんの実家で住むんですか?」


「冷静にツッコまれると・・・なんかすんません。ただ、人間が争わないように管理者たちがしたいんなら、何もしない方がいいのかって」


 カジャクの意見も一理あるのか?とゲタンハとカルカンは考える。そこへ、アワユキが意見を述べた。


「例えば、森の中のような人間が多く住んでない場所で衝突が起きたとして、それは何も関わらない事が良いと思います。ただ、今回は人間の住む場所で暴走して、被害が出ている。やられっぱなしというのを傍観するのは違うのではないでしょうか。アタシは全ての機械文明を敵に回すのではなく、ラクガンさんを取り込んだ浮遊ロボだけでも捕獲すべきかなって」


 そもそも『戦う』事に関連する考え・発想を省かれている人間にとって、なかなか踏ん切りのつかない話し合い。その日は切り上げ、休むことを優先した。



 翌朝、カルカンの部屋で睡眠を取ったアワユキは、カルカンに起こされる。


「おーい、アワユキ。起きる時間だよ」

「ん~」


 なかなか体が起こせないアワユキ。


「大丈夫?辛そうだけど」

「全身痛い。必死だったから、余計な力が入りすぎたんだろうね」


「朝食、入りそう?」

「朝はヤメとくよ。薬問屋ビルに行って、薬草を煎じてもらう」


「それなら、ジブンも一緒に行くよ」

「そうね。カルカンも体力回復のため飲んだ方がいいだろうね」


 顔を洗い身支度をした後、ゲタンハたちに許可を取り、アワユキとカルカンは薬問屋ビルに向かう。ゲタンハに念押しされたのはヘルメットを被って外に出ることだった。

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