第29話 避難と報告
崖の街から、どうにか逃げのびたアワユキとカルカンは、ビル街のアクマキ車両整備を目指す。
ビル街に向かう途中、日が暮れて、ビル街のケバケバしい灯りが遠くまで届き、この景色ですら生きている実感をアワユキは味わっている。
アワユキは後ろを振り返り確認する。
「どうやら機械文明の追跡はなさそうだね」
「車の速度に付いてこれないってのもあるだろうけど、他の機械文明に通信している感じでなさそう。おそらく、ビル街に入って取り囲まれるのもないんじゃないのかな?多分」
交通量の少ない中、無事ビル街の出入り口にある検問所まで辿り着いた。
「こんばんは~、アクマキ車両整備の者です」
「今から入るんですか?」
「えぇ、自宅だし、帰ってきたんです。何かありました?」
「立入禁止ではないんですけど、機械文明の衝突激化している区域もあるので、落下物に注意してください」
「そうなんですか?人間も攻撃されるんですか?」
「それが、人間への直接の危害は報告されていません。しかし、頭上でぶつかりあったら、破片か本体が落ちてきます。また、文句言っても、どうにもなりません」
「あは~、気を付けます」
「はい、ご安全に」
カルカンは慎重に車両を動かし始める。検問所から自宅であるアクマキ車両整備までは比較的近い。その短い時間の中で、たくさんの掃除ロボが道路を行き交っていた。見た目で分かる、破片の数々。浮遊ロボが砕けた残骸、ビル群に衝突し、えぐれた建物部分も落下物として見受けられる。
オート三輪が通った後も、すぐに掃除ロボが群れをなして破片回収作業に勤しむ。その光景を見て、アワユキとカルカンは黙ってしまう。テレビで見た自然災害による被災地や歴史上の紛争跡のようでもあったからだ。
程なくして、アクマキ車両整備に到着。見た感じ、建物の損傷は無さそうだ。シャッターが開いたままなので、1階の整備工場内に入り込む。
カルカンが車から降りると、ゲタンハが走って近付いてきた。
「お、カルカンどうした?連絡もなしに戻ってきて」
「父さん、ただいま。今日、いろいろあって、崖の街から避難してきた。アワユキも一緒だよ」
「避難?お~、アワユキさん、久しぶり~」
「はい~、こんばんわ。へへへ」
「から元気というか、疲労困憊って感じだな。二人共、事務所入りな」
ふらふらしながら、アワユキとカルカンは1階事務所に入っていく。
「ん、アワユキじゃねぇか!カルカンも一緒って、どうしたんだ?」
事務所の中には、出産立会いのために崖の街を離れていたカジャクがいた。
「カジャクさん?もう産まれたんですか?」
「いや、違うんだよ。早産が懸念されて出産立会う予定だったんだが、状態が安定してさ。その報告で、本社に電話したら、社長に呼び出されちゃって」
「当たり前だろう!あんな整備の小型トラックを渡して運転させるなんて、整備を学び直させるいい機会だろ!」
「カジャクは爪が甘いからね。父さんに再指導受けるべきなんだよ」
ゲタンハ父娘の厳しい言葉に苦笑いするカジャク。
まだ父娘のお説教が続きそうだったので、アワユキは小さく手を挙げる。
「あの~すみません、電話お借りしてもよろしいですか?」
「使いなよ、アワユキさん。そっちの机の上にあるから」
「そうだ、着いたら連絡するんだったね、サイプレスさんに」
「サイプレスに?なんでまた?」
「サイプレスさんたちの誘導で、アタシたち逃げ出せたんですよ。空飛ぶとは聞いてませんでしたが」
「何っ!アレ使ったんか、カルカンよ!」
「へっへっへっ、ちゃんと機能して、空中静止も海風に負けない安定飛行。ウチの理論と技術は間違ってなかったよ、父さん」
「そうなると社長、あっちもイケますね」
アクマキ車両整備の面々がニヤニヤ不敵な笑みを浮かべている。アワユキは見なかったフリして、電話をかける。
「もしもし、斡旋所ですか?アワユキです~、サイプレスさんいますか?」
「アワユキちゃんか!無事なのか?今どこだ!」
「ビル街のアクマキ車両整備、カルカンの自宅です。オート三輪が改造されてて、無事逃げ切れました」
「無事なら何よりだ。こっちは、黒いやつが先頭で崖の街中を飛び回っているようだ。人間には威嚇するが、攻撃してきていない」
「そうなんですね。ビル街は機械文明同士の衝突で破壊された浮遊ロボが大量に散らばってます。こちらも人的被害がないそうです。なので、そちらでも衝突が始まってもおかしくないと思われます」
「ん~、了解した。こっちは、水道や空調設備を壊されたくないから、地下の作業ロボを持ってきて、重要な所には警備をしようかと準備しているところだ」
「なるほど。って、ちょっと何、受話器を取ら・・・」
アワユキが話しているところにカジャクが受話器を強引に奪った。
「おい~、サイプレスよ~、数日以内にそっちに戻るからな~。待ってろ~」
「コラ、カジャク!アワユキちゃんと話している途中で電話取ってんじゃねぇよ!そんなんだから、叱られるんだろ!」
「ちょっと待ってくれよ、久しぶりに生存確認じゃねぇか~。ビル街も結構大変なんだぞ。イテェ、なんだおい・・・」
カジャクがカルカンに腕を掴まれ、電話から引き離された。アワユキは、深い溜め息をついて受話器を取った。
「サイプレスさん、こっちでも対応策を考えます。崖の街だと、黒色の浮遊ロボが誘導しているでしょうから、そいつを叩く。診療所壊された仕返しをやらなきゃいけないんで。カルカンやゲタンハ社長の意見を聞いてみます」
「こっちも対策練って、破壊できそうなら色付き浮遊ロボを潰す。元々いる苔玉っぽい機械文明たちと共闘体制になれればいいが」
「はい、了解です。お互い気を付けましょう」
「あぁ、ご安全に」
アワユキが受話器を置くと、カジャクは父娘にまた叱られていた。
「カジャ~ク!人の会話途中の電話を奪い取るって、何様だオメェはよぉ!無事を知らせる内容だろうがっ!」
「カジャク、アンタ子供何人いるの!我先に!って行動を子の前で見せるつもり?手本になれよ、おい!」
「・・・はい、すみません」
「ちゃんとしろ、カジャク!それと、4人分の夕飯買ってこい。アワユキさんたちは混乱に巻き込まれて、お疲れだ。中央飲食街ビルの屋外席が使えないから、宴会が外で出来ない。ヘルメット忘れるなよ、いろいろ降ってくるから」
「はい~、行って参ります」
カジャクはゲタンハからお金を受け取り、事務所を出た。
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