第28話 覚悟を決めな

 色の付いた浮遊ロボたちに敵対されたアワユキ。一時退避するため、カルカンが運転するオート三輪に乗り込んだ。


 サイプレスは、車内にいるアワユキに言った。


「どこか逃げ延びたら、電話くれ。こちらの状況も伝えるから」

「分かりました。サイプレスさんたちも、無理せずに」


 その姿を人参色の浮遊ロボが見ていた。


 ピィィィィ~


 甲高い音がして、人間たちは耐えられず耳をふさぐ。そして、オート三輪へ黒色の浮遊ロボがまっすぐ向かってくる。


 カルカンは、急加速して車両用通路に入り、6階を目指した。階層が変わるたびに鋭角な軌道で通路を通り抜けるが、キュルキュルと音を立てながらタイヤを滑らせ、減速せず上っていける。こういうところでも、車体改造した効果が現れた。

 少しずつ追手との距離を開けて、6階に到着した。カルカンは、駐車場に駐車してあるトラックの間にオート三輪を忍ばせる。


「アワユキ、ロープウェーに乗る段取りってどうやるの?」

「チケット売り場で車体の重さ計測があって、代金払って、車両運搬用コンテナに格納され、ロープウェーが動き出す。ビル街方面から乗る時と同じだよ」


「あ~、でも今は、そんな時間ないでしょ」

「アタシに言われても困る。こんな追いかけっこは想定されてないじゃん。そもそも、ここは海に囲まれた崖の街。1階の船か5、6階のロープウェーしか外に出られない。乗り場の手続きは省略できないよ」


 カルカンは静かにドアを開け、外の様子を伺った。そして、また車内に戻る。


「色付き浮遊ロボが徘徊している。それと、車両運搬用コンテナが見当たらない」

「あぁ、運搬中か」


 アワユキが両手で顔を覆い、カルカンはうなだれる。アワユキが指先で自分のおでこをコンコン叩いて、手を離した。視界に入るのはオート三輪の周囲を取り囲む色付きの浮遊ロボたち。


「カルカン、覚悟を決めて頭起こしな。取り囲まれてる。バッテリー切れになるまで、各階層を逃げ回るしかないよ」

「・・・ヤダ!アワユキこそ、覚悟決めな!やってやる!アクマキ車両整備の技術力を見せつける!」


「へ、何言ってんのぉぉぉ」

「舌噛まないよう注意しなぁぁぁぁぁ」


 カルカンは急加速して浮遊ロボを跳ね除け、駐車場から通路を蛇行し、何度も車両が進む方向を切り替えして、色付き浮遊ロボたちの動きを撹乱する。そして、6階西側の端に辿り着くと方向転換し東側に向け、改めてカルカンはアワユキに言った。


「本当に舌噛むから、しゃべらないように。あと、騒ぐな。しっかり、車内の取っ手部分を握っておくこと」

「な、なんか、嫌な予感しかしないんだけど。この世とおさらばしちゃうの?」


「・・・するか、バカ」

「なんだと、こんちきしょぉぉぉぉ」


 アワユキがカルカンに文句を言い終わる前に、再びカルカンがアクセル全開で一直線に加速した。オート三輪とは思えない高速走行し、カルカンは右手でハンドル操作し、左手で計器の下部にあるスイッチをパチパチと入れていく。


 もう目の前には、ロープウェーの出入り口。係員が両手を振って止まるよう訴えているようだったが、さっと逃げていった。


 加速したまま、色付き浮遊ロボの追跡を逃げ切り、オート三輪は崖の街を飛び出した。


 フォォォォン!と豪快に飛んだ後、もちろん、落ち始める。


 アワユキは、自由落下に意識を失いそうになりながら、走馬灯を見始めた。


 カルカンは、まっすぐ前を向いたまま、ハンドル右側にある大きなボタンを親指でグイッと押し込んだ。



 ぷす、ぷす、こぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、ブホォォォォォォォォォ~!



 車体全体から噴出する音が響き、崖の街4階付近の高さでオート三輪が空中で停止した。


 カルカンが叫ぶ。


「ほぉら、うまくいった!見たか、やったんだ!機械文明の部品導入は可能だったんだよ!ぬははははははははははは」

「ぁ~、あの世って、夕日が見えるんだ~。カルカンも一緒に、あの世に来たんだねぇ~、うふふ」


 カルカンは左手でアワユキの頬をギュゥッ!とつねった。


「痛っいな、何すんのよ!あの世で見る夕日を眺めてるのに、痛い思いさせるって、どういうこと!」

「アワユキ~、生きてるから夕日見られるんでしょ。ゆっくりと、下、眺めてみ~」


 アワユキは言われるままに、助手席ガラスの下を覗き込んだ。はるか下に海が見え、足を閉じ、アワユキは体を小さくした。


「・・・あまりに高すぎて、お尻がむずむずします。なんでしょう、この状況は?」

「はい、説明致しましょう。我がアクマキ車両整備が浮遊ロボの"ピーガガッビー"を大量導入し、オート三輪に組み込みました。その結果が、今の状態。車、飛ぶんです」


「オート三輪が転びやすいから、水平保つために"ピーガガッビー"を取り付けたんでしょ?」

「うん、付けたよ。それがカーオーディオがあった部分に取り付けたスイッチたち。空飛ぶためのものが、その下のスイッチたち。下のスイッチ切ると、自由落下です。試します?」


「絶対ヤダ。もし、切ったら、カルカンの首の骨をどうにかする」

「やらないよ、アワユキは場を和ませようという冗談が分からないかねぇ~?」


「こんな空中で止まった状態で、カルカンのお戯れに合わせられないよ」

「ま、言われてみれば、そうだね。浮遊ロボたちの追跡が来ないようだから、まずは着陸を目指しますか」


 カルカンはアクセルを踏むと、車体は前に動き出した。揺れがほぼ無く、快適な空の走行。海風により揺れるはずだが"ピーガガッビー"の制御機構により、揺れを検知して、打ち消すよう傾きを与える。それには、相当数の"ピーガガッビー"がオート三輪に設置してあることが伺い知れる。


 やがて、陸地が近付いて来た時、カルカンはハンドルの固定を解除し、飛行機の操縦桿のようにハンドル自体を上下に動かし、崖の街の対岸にあるロープウェー乗り場駐車場にゆっくりと着陸。そして、浮遊用のスイッチを切り、車を駐車した。


「へへへ、無事に着いたね」

「カルカン、ちょっと、外に出てもいい?」


「うん、いいけど、どしたの?吐く?」

「いや、地上に下りた感触を味わいたい」


 アワユキは車外に出て、パタパタと小さく足踏みをした後、ドン!ドン!しっかりと大地を踏みしめ、さらに大の字に寝転がった。


「アワユキ、白衣が汚れちゃうよ」

「そんなもん、洗えばどうにでもなる~。アタシ~、生きてた~」


 しっかりとせいを感じるアワユキ。カルカンは空から降りてきたオート三輪を恐る恐る見物している人間たちにアクマキ車両整備が改造したことを売り込んでいた。

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