第27話 暴走と衝突
浮遊ロボに吸収されたラクガンの抜け殻を持って崖の街2階に急ぐアワユキとカルカン。
息を切らしながら、どうにか2階に下りてきた。車両用通路の壁際にある仕事斡旋所を通るとサイプレスとその部下たちが立ち話をしている。
「サイプレスさん!今、時間ある?緊急案件!」
「頼むよ、サイプレスさん。ちょっと付き合って」
「なんだよ、アワユキちゃんに、カルカンよ」
「兄さんモテるな~」
「アニキ、何人彼女いるんだよ」
「別宅用意しましょうか?住まわせるには、4階の邸宅並みに広さが~」
「うるせぇな、お前ら!そこの二人!誤解を生むから、向こうで話しすんぞ!」
サイプレスは取り巻きを蹴散らしながら、アワユキとカルカンを誘導した。そして、カルカンがシャッターの鍵を開け、カジャクの整備店に入る。
「何があった?」
「ラクガンって管理者が、人参色の浮遊ロボに取り込まれて、抜け殻だけになった」
「ペラペラだから、アワユキが丸めて持ってきた」
「な゛っ!そのアワユキちゃんが脇に挟んでるのが管理者?オレっちは会ったことない奴だろう?というか、それ生きてんの?」
「そもそも人間じゃないから、どうしたものかと思って持ってきた。4階で襲われたんだけど、多分掃除ロボに回収されそうだったから」
「人参色が黒色になって、浮遊ロボはどこかに移動してる。見ませんでした?」
「2階では見てないな。真っ黒な浮遊ロボなら、他の機械文明たちが反応するはずだけどな。しかしな~、捨ててもいいんじゃないか?」
「一応、知らない間柄じゃないからと思って。アタシの店に来たし、食事もしたことあるから」
「そうは言うけどアワユキ、ラクガンってのは人間よりも機械文明を助ける言い方してたよ。ゴミ廃棄の穴に放り込んで、自然に返してあげたら?」
「管理者たちは面白い連中だが、人間に関わりたくないのは確か。カルカンの言う通り、自然環境に任せても良いかもなぁ。そういや、この室内にカジャクの道具ばかりだろ。タイヤの空気入れあるんじゃないか?膨らましたら、会話できるんじゃねぇの?」
「確かに、空気入れたら、気付けになるかも」
「いやいや、アワユキ、ラクガン眼球飛び出るかもしれないじゃん!それに、どこから空気入れるの!」
「ケツ」
「お尻」
「ハッ!カジャクの道具とは言え、ジブンには出来ません!」
サイプレスとアワユキの意見は、カルカンに却下された。
3人が話していると、外からワーワーと騒がしい。
「アニキ~!来てください!」
仕事斡旋所の若い衆が集まってサイプレスを呼びに来た。
「何だ!何の騒ぎだ!」
「機械文明同士が衝突し合ってます!地下発掘現場や坑道には、回収用のターレットトラックを向かわせています!」
「人間への被害は?」
「確認中です」
アワユキとカルカンは、お互いの顔を見合わせ、ビル街で起きていることが崖の街でも起きるようになったことを察した。
「サイプレスさん、浮遊ロボの衝突や抗争ってビル街では、すでに起きてるんですよ。こっちまで飛び火したみたい」
「マジか、アワユキちゃん。ビル街では、人間や建物被害はどうだった?」
「アタシが滞在している時はなかった。ただ、気になるのは、ラクガンさんを取り込んだ浮遊ロボが何もしなければいいけど」
「黒くなった浮遊ロボの変化ってあるのか?」
「・・・しゃべりが変わってた。考えてるというか、知性を持ったような」
「そうなのか、カルカン。普段いる苔玉みたいな浮遊ロボも会話できるが、別物なんだな」
「うわっ!来たよ、群れを率いてる!」
アワユキが指差した方向には、先頭に黒色の浮遊ロボがおり、続いて人参色の浮遊ロボが10体以上が通路を高速で飛んでいる。通路の南側を進み、角を曲がって、道なりに飛ぶ。そして、アワユキの店[薬草と酒]の前を曲がった時、数体の人参色の浮遊ロボが遠心力で曲がりきれず、その隣りにあるハブタエ医師の診療所に突っ込んだ。アワユキは走って診療所に向かっていく。
診療所の2階から人参色の浮遊ロボが数体飛び出してきた。よく見れば、アワユキの2階住居の外壁も擦った跡が残っている。
診療所前でふわふわと浮いている浮遊ロボたちにアワユキが抗議した。
「どうしてくれんの、診療所が使えないじゃない!アタシの店にも傷つけて!」
黒色の浮遊ロボがアワユキの前にゆっくり近付いてくる。
「高速移動 曲ガリキレナイ 仕方ナイ」
「何が仕方ないんだ!暴走したから曲がれず壊したんだろっ!」
頭にきたアワユキは、黒色の浮遊ロボに思わずラクガンの抜け殻を投げつけた。サッと身をかわし、通路に落ちた抜け殻を黒色の浮遊ロボは覆いかぶさるように着陸し、機体内に回収した。それから、縦方向にグルングルンと高速回転し、『ビィィィィ』とけたたましい音を出し、黒色を先頭に浮遊ロボたちは、アワユキ目掛けて突進してくる。アワユキはその場に伏せて、どうにかやり過ごす。
浮遊ロボたちは、再びアワユキに向かって飛んでくるが、また伏せると避けられた。浮遊ロボが体当たり等、直接攻撃は仕掛けてこない。
この騒動に元々崖の街にいるくすんだ緑色した警備ロボや浮遊ロボが集まってきた。これに対して、飛び交っている人参色の浮遊ロボは、くすんだ緑色に対してゴンッ!と体当たりして鈍い音が周囲に響いた。
アワユキが目立たぬよう壁際に身を潜め、浮遊ロボ同士の抗争を見ている。すると、少し先で腕を振っている姿が目に入った。サイプレスの若い衆がアワユキを呼んでいるようだ。
身をかがめ、とことこ小走りでアワユキは、浮遊ロボたちに気付かれずにサイプレスたちの元に戻ってこれた。
「ハブタエ先生の診療所が壊された。あの色付きたちのせいで・・・」
思わずアワユキは、悔し涙を流してしまう。
「アワユキちゃん、黒いやつに何かしなかったか?」
「アタシの店にもぶつかってたから、文句言った。そしたら、『曲がりきれずにぶつかった』って言ってきたから、あの抜け殻を投げつけた」
「だから、追いかけてきたのか。でも、怪我してなさそうだけど、どこかやられたのか?」
「アタシには、ぶつかってこなかった。威嚇のような動きしてた」
「とりあえず、この場は崖の街から離れたらどうだ?アワユキちゃんを確実に狙っている。おーい、カルカン、準備できてるか~?」
「いつでも行けますよ~」
「でも、あの黒いやつを蹴り倒してやりたい」
「何言ってんのさ、アワユキちゃん。足の骨折れるぞ。今は、緊急退避だ。ロープウェーが動いているうちに、こっそり脱出しろ」
「・・・了解」
アワユキはカルカンが静かに移動させたオート三輪に乗り込んだ。
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