第25話 コンテナランチ

 崖の街4階を散策中、アワユキとカルカンはラクガンと遭遇。また昼食に誘われ、4階南東にある貨物用コンテナを改装した飲食街『コンテナ集落』に入っていく。


 ラクガン先頭に、貨物用コンテナが積んであるコンテナ集落に入り、進んでいく。元々、貨物用コンテナの保管場所だったのだろうと思わせる通路。人間がすれ違うにも狭い幅。一つ一つのコンテナは白く塗装され、邸宅に合わせてある。それぞれの店は、入口ドアや窓等、改装してあるが、迷わないためか、屋号がなく番号が割り当てられている。また、どのような店なのかは、料理の写真や飲み物の写真を展示してあるので分かりやすい。

 袋小路と思われる道を進むと、必ず飲食店だけでなく、占いやハーブ専門店も見かけた。しかし、狭い道、窮屈な店が多いにしても人間がなぜこんなにいるのか?というくらいに混み合っている。その隙間をラクガンはスイスイと進み、小柄なカルカンは人の波に飲まれ、遅れだした。アワユキはカルカンの手首をガシッと掴み、ラクガンを追いかける。


 少し先を歩いていたラクガンは立ち止まり、アワユキたちを待っている。そして、アワユキたちが近付いた時、コンテナとコンテナの間を指さして、その方向に入っていった。さらに狭い隙間を横歩きで進むと、貨物用コンテナの横に出入り口がある店に辿り着いた。大半のコンテナは縦長の店だが、ここは横長として店舗利用しているようだ。


 ラクガンがドアを開け、アワユキたちに入るよう、手で合図を送っている。


「いらっしゃいませ、右奥のテーブル席をご利用ください」


 他の従業員が見当たらず、エプロン姿の大柄の男性店主がやっている店のようだ。後から入ってきたラクガンが店主にこう言った。


「悪いが、ワシらがいる間、貸し切りにしてくれるかな?」

「承知致しました」


 店主は、店の外に[貸し切り中]と書いてある看板を置き、ドアの内側にあるカーテンを閉めた。

 アワユキたちは先に入口側に座り、ラクガンが奥の席に座りメガネを外し、胸ポケットにしまう。念の為、アワユキたちは、逃げ出しやすい位置に座ってみたが、貸し切りにされたことで、緊張感が増した。


 ラクガンが店主に言った。


「メニューはお任せで。お二方はお酒構わないかな?赤ワインを頼むよ」

「かしこまりました」


 店主は、ラクガンが座った後ろにある厨房で作業を始めた。

 アワユキがラクガンに話しかける。


「ラクガンさん、こういう感じの隠れ家なお店、よくご存知ですね」

「賑やかなところが苦手なだけだよ」

「え~?ここまで来る通路は、大混雑で大賑わいでしたよ」


「カルカンさんと言ったかな?混み合う通路というのは、姿を隠すのにちょうど良いんだよ。ただ、食事となるとこういう場所が安心なんだよ」

「目立ちたくないのに、その黒スーツじゃ、丸わかりでしょ」


「それが他人は興味がないものだよ、カルカンさん。すれ違った人物の覚えているかい?」

「確かに、色すら頭に入ってないですねぇ」


 話していると店主がやってきた。


「まずは、こちらでお楽しみください」


 ガラス製容器に入った赤ワインにパンとチーズ。そしてたっぷりと盛られたサラダが提供された。

 各々で食べたい分を取り、食事が始まる。


 また、アワユキがラクガンに話しかける。


「あの~、人参色の浮遊ロボってご存知ですよね?ビル街で道案内をラクガンさんが頼んだことありましたが、あの浮遊ロボって会話が苦手ですか?」

「色違いだね。それぞれの個性を持ち始めているところだから、通常見る浮遊ロボに比べれば、能力の均一さはないかな」


「なるほど。時間を聞いたら、大雑把な言い方されたんで」

「その個体は成長段階だろう。自分の行動だけで精一杯」


 間もなくして、事前にオーブン調理されていた丸鶏が運ばれ、テーブルで店主が豪快に切り分けた。香ばしい香り、溢れる肉汁、そして繊細な味付け。皆が夢中になって食べている。

 食べながら、アワユキは疑問に思う。過去の管理者3人は、何かを語りたい時にアタシの前に現れ、伝えてきた。今回のラクガンは様子が違う。単なる食事。見た目は老人だが、食べる手は止まらないし、大いに飲んでいる。初対面のカルカンと冗談交じりに、世代差を感じない話しっぷり。まぁ、年齢は違いすぎるし、存在も違うから、世代なんて気にならないのだろうけど。


 チラチラ見ていたアワユキに対して、ラクガンが聞く。


「なんだい、アワユキさん。何か言いたそうだね」

「あ~、はい。以前のように、次に伝える何かをアタシたちに仰りたくて、お昼をご一緒されてるのかと思いまして」


「ふふっ、今日も偶然なんだよ。たまたま4階にいた。そして、あなた方を見かけた、それだけだよ」

「そうなんですね。失礼しました」


「いやいや、謝ることではないよ。他の管理者があなた方に接触しているから、いろいろ聞いているだろう。それに、ワシは次に進んでおる。それがある程度形になったならば、また、お話しよう」

「・・・」


 アワユキは、ラクガンの言葉に思いを巡らす。どんな変化が起きているか。

 そこへカルカンがラクガンに対して言う。


「あの~、ラクガンさんたちって、ジブンら人間を観察してるんですよね?」

「ん~、ただの観察ではない。高位の存在によっては、この世界をそこに生きるものたちが守って欲しいと考えている。それは気の遠くなる世代を重ねて到達できれば良いがね」


「今ではない、と?」

「ワシらの話を聞き、理解して、周囲に伝えられれば良いが、なかなか知性が追いついておらぬ。だから、ワシが知識を欲するよう興味を与えているが、それも叶わぬかも」


 その話にアワユキが加わった。


「叶わぬって、ラクガンさん、人間には無理なんですか?」

「他世界でも言ってきたが、与えた欲がうまく働いていなかった。所詮、狭い範囲で私利私欲。かと言って、アワユキさんのようにある程度の理解ある人間に伝承を頼んだところで、この世の成り立ちという情報の伝播は途中で途絶える。これも事実」


「あ~、ラクガンさん、結局ジブンらに何をさせたいんです?『この世は作られた世界なんです~』って言って回っても信じてくれないでしょ」

「そうだね、カルカンさんの言う通り。あなた方に知ってもらう当初の目標は、『自ら生まれ、進化したのではなく、作られ生まれた。その生命を自らで滅ぼすな』ということ。それを伝えるために管理者が人間の前に現れ、事実を伝えていった。しかし、変わらぬ。人間の滅ぶ姿を高位の存在は望んでおらぬ」

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