第24話 崖の街4階

 アワユキの案内で、カルカンは崖の街を散策。3階のたくさん連なる工場こうば一帯を見て親しみを覚える。そして、邸宅があるという4階へ進む。


 4階に上がると、カルカンは車両用通路の位置から疑問に思う。


「ねぇアワユキ、通路って崖の中を掘った跡にしても、ある程度同じ縦位置だと思うんだけど、4階って、なんで壁がそばにあるの?」

「それね、機械文明の存在たちが調査して機械化石ノジュールがないって判断したから、掘ってないんだって。だから、各階層広さは違うし、天井までの高さも違う。この4階は、崖の中心から西側に発掘場所が多かったって事」


「なるほどねぇ」

「人間だと均等に掘ってたかも。ほら、もういくつか見えるよ、豪邸」


 車両用通路の転落防止塀に隣接して、高い壁が伸びている。その壁伝いに歩いて行くと、他の階との違いに気付く。邸宅と囲っている外壁が白で統一されている。この階層が少しでも明るく清潔な印象になるよう、大きな家に住む者同士が合わせているようだ。

 アワユキたちは周囲を見渡しながら歩き進めると、白く塗られた大きな柱が何箇所もある場所に行き着いた。その白い柱の根元には、いくつものテントや組み立て式の屋台が並んでおり、人間たちが多く集まっている。


「お、アワユキ~、あれは市場じゃないの?」

「そうだよ、4階は店舗じゃなくて、申請して許可が出れば営業できる自由市場があるんだよ。一応、誰でも出店できるんだけど、ほぼ同じ顔ぶれになっちゃうよね。新鮮な野菜や加工肉や魚、パンも売ってあるし、おしゃれな服もあったり。でも、質が良いから、値段も高め」


「さっきの3階とは違って、色鮮やかだね。鮮度の良さが見て分かる。それに集まってる人たちの品の良さ。ここって本当に同じ崖の中なの?って思うよ」

「あぁ、別世界。ただ、上見てみ。浮遊ロボちゃんが多いでしょ」


 アワユキがカルカンに目線を上げるよう促す。高い天井付近には、多くの浮遊ロボが一定間隔で飛んでいた。


「へ~、人混みに監視ロボが巡回するのはお互い邪魔になるから、浮遊ロボで監視してんのね」

「即通報して、治安を守ってくれてる。もしくは、人間全体を見てるのかもね。あの人参色の浮遊ロボちゃんもいる、まだ数体だけど。圧倒的に数の差があるから、浮遊ロボ同士の小競り合いは、まだ先かな」


 アワユキたちは自由市場を抜け、邸宅が建ち並ぶ場所に行く。3階建てもいくつかあり、驚かされる。また、背の高い平屋の建物もあるが、アワユキの[薬草と酒]店の5~7倍くらいありそうな横幅。敷地の壁を辿っていくだけでも、歩き疲れるほど。しかし、あまりウロウロすると邸宅周辺には警備ロボ1体が後ろから付いてくる。周囲を巡回するよう頼まれているようだ。


 警備ロボが気になり、邸宅の多い場所から少し離れることにした。しかし、邸宅が大きすぎて、歩いても歩いても離れるには時間がかかりすぎる。気付けば、警備ロボ2体、人参色の浮遊ロボ1体が付いてきていた。

 アワユキは考える。4階住人ではないが、いきなり確保されることはないだろう。十字路を左折ばかりで歩いているから、このまま行けば、さっきの自由市場が見えるはず。ただ、警備ロボがそばにいるというのが、嫌な感じがする。


 アワユキは、思い切って人参色の浮遊ロボに話しかけみた。


「やぁ、こんにちは」

「ヤー」


「今、何時頃か分かる?」

「昼過ギ」


「・・・時間で答えられる?」


 ブーンと音が聞こえるくらい人参色の浮遊ロボは高速横回転した。


「あ~、もう、回るのやめて。分からないなら、『分からない』って答えればいいんだよ」

「朝ト 夜ノ 間」


 会話が成り立たなかったアワユキは手の平を額にペチンと当て、人参色の浮遊ロボに会釈して、カルカンとまた歩き出す。

 ようやく自由市場の辺りまで来ると、警備ロボたちは離れていった。そのまま直進し、自由市場を横目に通り過ぎた辺りで後ろから声をかけられる。


「おーい、アワユキさん」


 アワユキとカルカンは振り返る。そこには、薄く黒色の入ったメガネをかけたラクガンが近付いてきた。


「こんにちは、ラクガンさん」

「やぁ、アワユキさん。買い物かい?」


「こちらのカルカンがビル街から手伝いに来ているので、4階を案内中ですよ」

「そうかい。カルカンさん、初めまして」


「どうもです~、ラクガンさんと言われるんですね。その黒スーツ・・・シルコさんと同じ系統の方?」

「おや、シルコをご存知とは。アワユキさんのお店で出会ったのかな?」


「そうですよ。一番高いお酒飲んで、酔ってましたね」

「それは同じ管理者が、ご迷惑おかけしたね。どうだろうか、お詫びにこれから昼食でもいかがかな?」


 カルカンはアワユキの方を向き、お互いの顔を見合わせる。


「ラクガンさん、ちょっと待ってください」

「えぇ、待つよ。アワユキさんたちの都合を確認しあってほしい」


 少し下がって、アワユキとカルカンは確認する。


「ジブンは作業予定ないから空いてるけど、どうする?」

「アタシも来客予約は入ってない。でも、今日のラクガンさんは、ちと不気味さがあるよ」


「危険を感じたら、帰ろう。なんか仕掛けてきたら、警備ロボに助けを求めよう」

「そうだね。大声だそう」


 作戦会議を終えた二人は、ラクガンに返事をした。


「こちらの予定は問題なかったので、お昼をご一緒致します」

「分かったよ。それでは、この先にある飲食店を案内するよ」


 そういうと、ラクガン先頭にアワユキとカルカンはついて行くことにした。

 自由市場から離れ、車両用通路の壁が見えてくる。4階に下りた真反対の位置になり、少し薄暗い道。しかし、その先には照明があり、人々の姿が見える。その人々が見える場所までさらに進むと、白く塗られた貨物用コンテナが2~3段積み上げられ連なる場所に到着した。出入り口が2箇所あり、出入り口を照らす灯りがとても眩しい。


 アワユキとカルカンが話しだした。


「なんか、いろんな料理の香りが混ざってるね」

「そうそう。・・・あ~、ウチの近くにある屋台街ビルの匂いに似てるよ」


 その会話にラクガンが入った。


「そうだね、屋台街ビルに似ている。このたくさんあるコンテナの中は、改装された飲食店だ。2階建ての店や、横に繋がった広い店もある。アワユキさんは来たことないのかい?」

「アタシは、こんな奥まで来たことないです。自由市場くらいまでですね」


「そうかい。では、コンテナ集落に入っていこうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る