第23話 崖の街3階

 シルコの考え、サイプレスからの業務上の例えが共通の悩みとして一致し、思い出して頭を抱える。


 ゆっくりと頭を起こしたシルコは、サイプレスに言った。


「人間と似たような悩みがあるとは。管理範囲の広さが違っても、存在の種類が異なっても、結局、同じか・・・」

「あんた方が人間を生み出して、どこからか見ているんだとしてさ、社会組織の構造って創り主に似てくるって事だろ。へへっ」


「あぁ、そういうことか。何もないところから作り出すより、模倣した方が作りやすいし、設計主任も化身を置いてみたくなったわけか」

「自分の化身が新たな世界でどう生き延びるか、お芝居見るより、熱い展開が現実に起きている。オレっちたちを作った連中は楽しみでこの状況を観察してんだろな」


「・・・それは、聞ける立場にないから分からない。ただ、そのような発想を持つことは人間も可能なんだ。全ての人間ではない一部の人間種族が我々を失望させた・・・か」

「よそは知らねぇが、崖の街では人間と機械文明が共存している。だから、発想が違ってくるんじゃねぇの?」


「そうだな。ワタシはこの辺で失礼するよ。話が出来て良かった、一番高い薬草酒も飲めたし。皆の分を支払うよ、アワユキさん、ここから必要額を取ってくれ」


 シルコは分厚い札束をアワユキに手渡した。


「おおっと、すごく分厚いですね。ちゃんと代金分だけを頂きますので・・・管理者ってお金を無尽蔵に作れたりするんですか?」

「それは可能だが、ワタシがこの世界で物欲を溢れさせることはない。そもそもの興味が違うから」


「それも、そうですね。ある程度のことは何でも出来るわけですし。では、こちらが残りお返しする分のお金ですね」

「・・・あまり減っていないが受け取ったのか?」


「えぇ、キチンと代金頂いてますよ。その札束が多すぎるんです。なんなら、そこでジッとお金見ているカルカンにお小遣い分を抜き取りましょうか?」

「そういうのは認めない。人間はお金で堕落するから」

「キシィィィーッ!」


 カルカンは歯をむき出しにして、シルコを威嚇した。


「それでは、失礼するよ」

「またお越しください、ありがとうございました」


 アワユキとの挨拶が済むと、シルコはドアに向かい、カーテンを開け、外に出ようとした。


 ガタッガタッ!ガタガタガタガタ!


「あ、失礼」


 シルコは自分自身がドアの鍵を閉めたことを忘れていた。改めてシルコは鍵を開け、店の外に出た。


 その光景を見て、シルコが外に出た後にサイプレスは声を出さないよう口元を押さえ、肩を震わせながら笑いをこらえた。


「あんな冷静なしゃべりをしていたが、しっかり酔ってたんだな。あ、ダメだ、こらえきれない。アハハハハハ」

「そうですよ、サイプレスさん。金髪の間から、ちらっと見える耳が真っ赤になってたんで、結構恥ずかしかったんですよ。ふひひっ」

「カルカンも見てたんだ、耳の赤さ。アタシが作る薬草酒の中で、本当に濃くて強い薬草酒を最初に飲んだから、あんな感じになるよねぇ~」


 笑っちゃいけないと思うと笑いがこみ上げてくるもの。しかも、冷静で厳しい事を言い続けたシルコの意外な一面。人間ではない存在であっても思い通りに事が運ばず、愚痴の一つも吐き出したい気持ちだったのであろう。

 その後、へらへら笑うカルカンを支えながらサイプレスは帰っていった。アワユキはいつも通りの閉店業務を行ない、一日を終えた。



 ある朝、アワユキは仕事依頼掲示板を眺めていた。


「おはよ。臨時の仕事でもするの?」

「ん、カルカン、おはよう。日課だよ。どんな依頼が出ているのか、忙しいなら体力回復の薬草調合多めにしておくか~って考えたりさ」


「なるほどねぇ。あのさ、今日、時間ある?」

「何よ、釣りでも行くのかい?」


「いやいや、船の往来が多いから危なくて、そんな考えにならないよ。2階はさ、買い物とかで動き回ったんだけど、3~4階が行ったことないから案内を頼もうかと思って」

「了解。でも、アタシも細かくは知らないからね。薬草の配達ついでにお茶する程度だし。上の階層も2階と同じ様に横に広いから、仕事斡旋所にあるターレットトラック使えれば楽なんだけど」


「あ~聞いたよ、乗り物があまり通ってない理由。共存をしていくなら、機械文明に対しての配慮は大事。ま、時間あるからのんびり行こうよ」

「うん。準備出来たら、整備店に顔を出すよ」


 アワユキはカルカンに崖の街3~4階を案内することになった。


 準備をしてから、アワユキとカルカンは車両用通路の坂道を上り、3階へ進む。

 崖の街2階に労働者が多く住み、3階は労働者が必要とするものを揃え、それを生業とする者が多く住む場所。例えば、作業服のような衣類製造であったり小規模な工場こうばとして作業分担しているため、横のつながりが強い。また、飲食店が並ぶ場所があったり、診療所や仕事斡旋所も存在している。

 2人は、さまざまな機械の音がする建物の間を歩いていく。大きな荷物を運ぶターレットトラックや台車を押して行き交う人々。それだけ人間が動くからか、掃除ロボの巡回も2階より多く見かける。


 カルカンがこの光景を見て言った。


「ウチの会社周辺を見ているようだよ。いろんな機械音、あれは大型ミシン、向こうで聞こえるのは旋盤。お~削ってるねぇ、金属加工、火花散らしてビル街で当たり前だと思っている景色が、海の上にある崖の中でもやってる。これもまた不思議。そういやさ、3階も匂いが少ないよね。もっと工業的な油とか独特の匂いがこもると思うんだけど」

「ほら、通路の隅に送風機が一定間隔であるでしょ。強制的に空気循環させてるから、窓少ないけど、しっかり吸気と排気をやってくれてんだよ」


「確かに、通路の天井見ると設置してあるね。それにたくさんの配管を見ると、ジブン自体が機械の中に入っているようで、なんか興奮する。へへっ」

「普段の仕事で車両扱ってると、カルカンは、この3階飽きないかも」


「うん、飽きないね。3階の仕事斡旋所で求人探そうかな・・・」

「はっはっはっ、3階求人は大体配達か軽作業だよ。滅多に専門職の枠って空かないからね」


「え、なんで?」

「そりゃ、崖の中で仕事が循環してるし、もっと儲けたかったら、ビル街やよその地域で仕事するでしょ。中には、崖の外に取引先を多くかかえている所もあるみたいだけど。そういう儲けている人たちって、4階に邸宅を構えているんだよ」


「ん?崖の中なのに邸宅あるの?」

「ある。でっかい家ある。初めてみた時、ふあぁ!って、たじろいだ」


「ふふっ、アワユキ。いざゆかん、4階へ!」

「あらまぁ」

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