第22話 酔いが回る
カルカンにシルコの不思議な力を見せつけると、カルカンは驚きすぎて、体が震えた。
カルカンが言う。
「な、なんなの?化け物?アワユキたちも、そうなの?ジブンをどうする気?」
「カルカン、何言ってんだ。アンタがシルコがすること手品っていうから、もっと強烈なもの見せてもらえたんだろ?」
「で、で、でも、サイプレスさん、体が分裂するって」
「分身な。ただ、いいもんじゃないな。オレっちの周りに3人来て、顎や背中とか触りまくって、『いいねぇ』って言うんだぞ。高い声や低い声使い分けて、性別がどれなんだ?って話だ」
それに対してシルコが言う。
「ワタシたち管理者やそれ以上の存在に性別というのはない。見る者によって印象は違うだろう。しかし、良い感じに酔いが回ってきた」
「ははは、やっと酔ってきましたか。ゼンザイさんなら、大暴露のお時間でしたよ」
「ふっ、アワユキさん、ゼンザイとは違うんだよ。余計なことは話さないから」
「そうなんですか?では、伺いますけど、浮遊ロボの色違いが出たことはご存知ですか?」
アワユキがシルコに質問する。カルカンとサイプレスは、黙ってシルコを見る。
「存在は知っているが、どこから発生しているか、分からない」
「では、アタシがビル街に仕入れに行った時、浮遊ロボが抗争しているようで大量衝突がありました。どう思います?」
「浮遊ロボだけでなく、機械文明たちの思考を書き換えるというのは簡単なことではない。人間たちには出来ないことだし。ただ、『考えて行動する』という事に何か足されたように思う」
「では・・・」
「まだ質問するのか?」
「えぇ。何か飲まれますか?」
シルコは気が抜けたようにフッと笑い、注文した。
「気が紛れるような味の違うものを。それを全員分ね」
「はい、承知しました」
アワユキは、蒸気圧を調整し、果実の甘酸っぱさを引き出した炭酸割りを提供した。色は桃の花を連想させ、香りはとても甘く感じるが味は甘さがくどくなく全体的にふんわりとした柔らかさを感じる薬草酒に仕上げた。皆が香りを楽しみ、味わっている。
そして、アワユキがまた話し始めた。
「あのですね、シルコさん。質問を続けるのには理由があるんですよ。たまたまこの場所に来て、薬草酒飲んで、『この世の管理者です~』って聞いてからアタシの周りで不思議なことばかり体験させられる。でも、アタシに対して何か目的があるわけではなく、偶然いたから。ラクガンさんは『人間には制限をかけている』とか言い出すし、何か理解させたいのか、
「本当に偶然なんだ。この街から北にある機械文明の溶鉱炉や再処理工場を調査して、地下の発掘現場を見て、休憩するため、この店に立ち寄った」
以前の話を知らないカルカンが絡みだす。
「あの~金髪のシルコさん、お初にお目にかかるので何者かよく知りませんが、アワユキを口説きたいのか、引き抜きたいのか、どっちっすか?」
シルコは長い髪をかき上げた。深い溜め息をついて、何か迷っているかのようにも見える。
「他の者が入らないようにしているし、以前話した者がいるから、あえて話す。ワタシは種の保存を目的として、生物存亡の分岐点で並行した世界を生み出した。これは設計主任だけでなく、もっと高位の存在が希望されたから。人間だけを残すことが目的ではない。機械文明であっても発展進化した以上、残すべき存在。それでも、人間だけでは争いだけでなく、病に集団で倒れた世界もあった。人間を活かし残すことは本当に難しい。あえて残さない、そういう選択もあるのではないか?そんな話も出ている」
時間が経ち、酔いが回りすぎたカルカンは悪意なく言い放つ。
「なんだか詳しいことは分かりませんけどね~、もう人間を排除したらいいんじゃないです~?その不思議な力でぇ~」
「絡み酒か。アワユキちゃん、水を」
「サイプレスさ~ん、ジブンは、まだ飲むんですぅ~」
「程々にしとけよ」
シルコが答える前にサイプレスがカルカンを制止する。その間、アワユキはまた薬草棚からゴソゴソ選び出し、円筒形装置で抽出し、透明な液体をグラスに注ぐ。それを水割りにしてカルカンに差し出した。
「カルカン、これ効くよ~」
「あら、アワユキ、分かってるじゃないの~」
カルカンは一口飲むと背筋がしゃきっと伸びた。
「酸っぱいし、苦みがあるけど、また飲みたくなる。何これ?」
「深酒した時に、次の日にお酒が残りにくくする調合。シルコさん、ご迷惑おかけしてます」
シルコは手持ちのグラスを飲み干してから言った。
「我々管理者や高位の存在は、直接手を下すことが出来ない。生み出せるが、命を摘むことは、やろうとしても出来ない。だから、その環境に任せる。生き延びられるか、淘汰されるか。別の世界では、人間は機械文明に排除された」
シルコの話を聞いて、3人は少し黙り込んでしまう。
しばらくしてサイプレスが言う。
「シルコさんって、ゼンザイさんより感情がないというか、淡々と話されるんだな。この世界に肩入れしたくないみたい」
「そうだよ。正直、人間のこれからについては自然環境に任せ、絶滅危惧種になるだろうと思っている。ただ、こういう店に入ってしまうと、その考えが揺らぐ。選んで残せないものか?とも考える」
「選別か、間引きか。オレっちは仕事斡旋をやってるから、任せられない奴には断ることもある。しかし、優秀な奴らばかりだと競いすぎて、工期内に終わらないことがあった。いろんな種類を適度に混ぜないと、集団行動はうまくいかないんだよ」
「あぁ、分かる。単一種では、弱いんだ。複合となれば、化けることがある。その化け方が必ず良い方向とは限らない」
妙なところで同じ悩みを持っていたシルコとサイプレスは、何か思い出したようで、二人して頭を抱えた。
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