第21話 化け物
[薬草と酒]店にシルコ一人で来店し、一番高い薬草酒を注文してきた。
薬草調合室からいくつかの薬草を持ってきたアワユキは、円筒形装置に投入して抽出工程を行なう。その姿をカウンターにいるカルカン、サイプレス、シルコが見ている。
アワユキがショットグラスを用意し、計器を見ながら、ちょっとした抽出の待ち時間。そこでシルコが質問した。
「以前は、椅子がなかったのに、今は用意したんだね」
「えぇ、薬草酒なので、サッと飲んでパッと帰る人間がほとんどだったんです。ところが、そこにいるカルカンが『椅子求む!』と駄々こねまして」
シルコがカルカンの方を見た。
「あら、初めまして。ワタシ、シルコと言います」
「ジブンは、カルカンです。ども。というか、アワユキ、立ち飲みで長話って結構キツイんだよ!」
「そうだろうけど、ここって居酒屋じゃないからさぁ。ハブタエ先生も椅子無しの意見だったんだよ」
このやりとりを聞いて、サイプレスはニコニコしながら薬草酒を飲んでいる。
アワユキは、シルコに抽出中である薬草酒の説明をした。
「以前、ゼンザイさんがコレを飲まれた時に、慌てちゃって失敗されたので事前説明しますね。これからお出しする薬草酒は粘度が高く、少しずつ加水して濃厚な味わいと香りを楽しむものです。効能は全般に効くのですが、瞑想状態にもなるので、お酒ですが、しばらくは強烈に冴えます。それで飲み方は水割り、炭酸割りでも楽しめます。原液そのままは、ダメです。どうされますか?」
「喉が渇いているので、始めから炭酸割りにしてもらおうかな」
「分かりました、お待ち下さい」
アワユキは、ショットグラスを下げ、いつものグラスを用意し、円筒形装置の蛇口からドロリとした黒い液体を注いだ。それから、少量の炭酸を注ぎながら粘性の高い抽出液を混ぜ、シルコに提供した。
「お待たせしました、ウチで一番強い薬草酒です」
「では、いただこう」
感想が気になるカルカンとサイプレスは、雑談をやめ、シルコの方を見ている。
コクッ コクッ
シルコは静かに飲むと、目を閉じ、動かなくなった。しばらくして、鼻から息を吐くとニヤリとする。
「これはゼンザイが飲めたことを自慢する理由が分かる。若干枯れた感じもある木の香り、もっと多いな、やはり森林にいるような圧倒的な自然を感じられる。そうだ、土の香りもあるんだ。脳が洗われるスッキリ感。それに、酒としてのどっしりとした強さも、もちろんある。はぁ~、この余韻、うん、うん」
味わっているシルコを見て、カルカンがアワユキに手招きをする。
「あのさ~、アワユキ殿、ジブンもアレ飲んでみたいんだけど、おいくらくらいするの?」
「カルカン様、貴殿が飲んでおられる爽やか薬草酒の30倍でございますの」
「ふざけんじゃねぇぞ、アワユキ!それは高すぎだろ!」
「カルカンよ、それぞれの材料って異国から集められたものばかり。そこら辺の森に入ったところで、薬効やあの感想はもらえないの」
「・・・ぎゃふん」
「分かればよろしい」
また、サイプレスは横でニヤニヤしていた。
シルコが言う。
「カルカンと言われたかな?この味わいは試す価値がある。ただ、強烈に強い。時間が経つほどに、異空間にいるような感覚になる」
「確かに、さっきより顔赤いですけど、大丈夫っすか?」
「椅子があるので大丈夫だ」
「なら、安心だ。アワユキ、おかわりお願いね」
「オレっちもおかわりだ」
「は~い、お待ち下さい」
アワユキは爽やかな柑橘系の炭酸割りを3杯作り、二人に提供した後、自身も飲み始めた。そして、アワユキはシルコに質問する。
「シルコさん、アタシ、ビル街でゼンザイさんに偶然会って、食事しましたよ」
「・・・何か言われたのかい?」
「『人間に細工したのはワシだ』とか『高度な事をさせないようにした』みたいなことを言われました」
「そうか。それを知ったところで何か変化するわけではないから・・・いいかな」
「それで思ったんですけど、アタシみたいな人間に、ぶっとんだ方々が打ち明け話をしてくれるんですけど、いいんですか?ラクガンさんは『たまたま、そこにいたから』と言うんですけど」
「確かに、偶然出会ったことが大事で、我々も相手を選んでいる。ただ、ゼンザイはしゃべりすぎたと思っている」
二人だけの会話にカルカンがボヤく。
「あの~、その話加わりたいんですけど~、ジブンにも分かるように説明してもらえます~?サイプレスさんもそう思いません?」
「オレっちは、前にこの店で変わったことを見せられて、聞かされてるから、なんとなく解釈できる」
「え、ジブン、ビル街から来て何も知らないんですよ。なんですか、変わったことって!シルコの金髪さん、何か出来るんですか!」
「こら、失礼だろ」
絡みだしたカルカンにサイプレスが制止するが、ブーブー言い続けている。
アワユキがシルコに助言をした。
「ひとつ見せたら、カルカンは黙ると思うので。・・・グラスを変えますか?」
「いや、良い酒を飲ませてもらってるから、ゼンザイとは違うことをしてみせようかな」
シルコは席を立ち、カルカンの真後ろに移動する。カルカンは、カウンターから上体を起こし、シルコの方を向いた。
まず、シルコは出入り口のドアに右手をかざして、カチッと鍵をかけ、内側にあるカーテンを閉じた。
「おぉ~、手品、手品。あっははは」
「カルカン、これも手品と言えるかな?」
シルコは、その場で瞬時に体が増殖し、黒スーツ姿のまま10体に分かれた。それから、3体がサイプレスの周りにひしめき合い、口説き始める。1体はカルカンが混乱状態にならないよう見張り、残りの体は踊りだしたり、アワユキに手を振る等、自由行動。
カルカンが顔を引きつらせているので、シルコは1体に戻った。
「これでも、手品と言うかな?」
「・・・言いません。化け物です」
ハッハッハッとカルカン以外が笑い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます