第20話 崖の街で朝食を

 薬湯を飲み終え、アワユキが案内してカルカンを崖の街で朝食に連れて行く。


 [薬草と酒]店から右に通路を進む。朝の風景、人々が動き出し、いろんな声が聞こえてくる。それに対してカルカンが印象を話す。


「いや~、アワユキさ、ジブンが思ってたことって失礼だけど、崖の街ってトタン屋根とか廃材集めたスラム街って感じなんだよ。全然臭くなくて、こんな小綺麗で明るくて、人間の身なりもちゃんとしてる。今、横に見える吹き抜けだってさ、落下防止に頑丈そうな塀が設置してある。住む人間のことを考えて設備が整えてあるなんて思わなかった」

「アタシも崖の街に来るまでは似たような風景を想像してたよ。人間が住み着き出した頃は、廃材で家屋作ってただろうけど、機械文明たちも建築に結構協力的だったって。あ、その吹き抜けの塀でやってる蚤の市は、機械化石ノジュールを機械文明の買い取りに出さずにこっちに持ってきてるから、変わった物が出ることある」


「え、そうなの?」

「その応用が店にある円筒形装置だし」


 歩いて数分、仕事斡旋所の掲示板に到着した。


「まっすぐ行けばあるんだね、掲示板。カジャクの整備店の斜め前じゃん」

「車両用通路の壁を利用しているから、見逃したんだろうね」


 掲示板を見ていると、アワユキが声をかけられる。


「お、アワユキ、戻ってきてたのか。コートっぽいの着てるから違う人かと思ったよ」

「おはようございます、サイプレスさん。紹介しときますね、こちらカルカン。カジャクさんの会社本部の娘さん。代理で整備店にしばらくいるそうですよ」

「ども、カジャクがご迷惑かけてます。ジブンはカルカンって言います」


「カルカンさんね、どうも。ん、アワユキと歳近そうね。ビル街の方?」

「そうです、ビル街のアクマキ車両整備です。歳はアワユキのちょっと下になります」


「伝えることがあってさ、アワユキが仕入れに行ってる間に、この崖の街で停電が起きた日があったんだ。地下の発掘現場が原因らしいんだが次の日から浮遊ロボで色違いがどこかの階層で目撃されている。一応、気にしておいてな。情報共有ってやつだ」

「へ~、ビル街でもいましたよ。人参色な浮遊ロボちゃん。普段見るくすんだ緑色と対立してましたね」


「そうなのか?それなら、こっちでも起きる可能性があるかもな。あ~、オレっちの若い衆に伝えておくよ。んじゃ、事務所に戻るわ。カルカンさん、整備あったらよろしく~」

「は~い、お待ちしてます~」


 サイプレスは駆け足で去っていった。カルカンがサイプレスを目で追っていた。


「どしたの、カルカン。そんなじっくり見て」

「サイプレスって人、カジャクとは違って、出来る男なんだろうなって。ガタイも良いし、『若い衆に伝えておく』って、それほど年食ってないのに。

ボスっていうより、リーダーな感じ。んは~、たまらんですな」


「サイプレスさんは、世話焼きというか面倒見がいいから慕われてるみたい。・・・性別問わずモテてるよ」

「いや~、一気に目が覚めた!さ、朝食行こう!」


 急にやる気を出したカルカンに、ニヤニヤしながらアワユキは道案内をする。

 車両用通路の西側、大きな壁のような柱の反対側に食料品店が連なる。その何店舗が飲食店も兼ねている。崖の街は周囲を海に囲まれているため海産物を使った店が多い。

 アワユキは、朝食メニューのある店に入る。


「すみませ~ん、朝粥を2つお願いします」

「はい、適当に座っておいて~」


 店員に促され、テーブル席に座る。カルカンは店内を眺めた。


「ここって崖の中なんだよねぇ、不思議だわ。ビル街より綺麗な建物。清潔感もある」

「ビル街はいろんな所から人間が集まるから、他と合わせるって難しいんじゃない?崖の街だと、機械文明が先住だから迷惑かけないようにって先にいた人間たちから言われてるからね」


「・・・機械文明に迷惑かけたらどうなるの?」

「実際見たことないもんな~。3~4階の飲み屋街だと、拘束されるくらいあったかもね」


 店員が注文の品をテーブルに運んできた。


「はい、お待たせ。お茶と朝粥ね。熱々だから気を付けて」

「ありがとう」


 運ばれてきた朝粥。白身魚が入っており、連日の疲労した体には胃の負担をかけない良い選択。カルカンが一口食べると、魚の出汁で炊かれた米が柔らかいのに旨味で満たされ、ほぐされた白身魚だがしっかり身を感じる。はふはふ、と食べる手が止まらない。


「カルカン様、満足されているようですなっ」

「いや~、これ繊細な味のに満足感がすげぇ。他の階も美味い店あるの?」


「上の階層に行くと、値段が高くなるかな。2~4階にいろんなお店があるよ。5~6階はロープウェー乗り場、1階は、漁港と地下発掘場所の関連施設だから、あまり用はないね」

「仕事の合間でいいから、案内よろしくね」


「そりゃ、構わんよって話。ただ、崖の街って横長に広いから、結構歩くことになるからね」

「んふふ、楽しみができた。歩くのは筋トレだと思っておくよ」


 その後、カルカンは食料品・日用品を買い、それぞれ店に戻った。



 ある夜の[薬草と酒]店内。カルカンとサイプレスが普通に話せるほど日数が経った頃、低音が心地よく、ゆったりとした音楽を聞きながら、カルカンとサイプレスが薬草酒を飲んでいた。ビル街の話、地下の発掘状況、そんな会話が行なわれている中、ドアが開いた。


「あら、こんばんは。お久しぶりですね」

「ワタシだけなんだけど、席は空いてるかな?」


「えぇ、どうぞお入りください」

「ありがとう」


 シルコが一人でやってきた。アワユキは注文を伺う。


「今日は、何にされますか?」

「以前、ゼンザイが頼んでいたこの店で一番高いものを飲ませてくれる?」


「はい、在庫があるので可能ですよ。しばらくお待ち下さい」

「よろしく」


 アワユキは、薬草調合室へパタパタと走っていった。

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