第19話 帰宅
高所恐怖に耐えたアワユキ、それを淡々と見ていたカルカンの乗ったロープウェーが崖の街6階に到着した。
カルカンがロープウェーチケットを係員に渡し、ゆっくりと車両運搬用コンテナから車を出し、目の前にある駐車場に一旦、停めた。
「おーい、アワユキさんよ~、崖の街に着いたよ~。頭起こしなよ~」
「ふごっ、着いた?あぁぁぁ~」
アワユキは力が抜けたからか、カルカンの方に体が倒れ込んだ。
「ジブンは崖の街、初めてだからさ、膝枕で寝た状態でアワユキの住まいまで送れないよ」
「ん~、申し訳ない。ここまで高い所ダメって思わなくて、行きはどうにか耐えたのに、帰りはキツかったなぁ。まず、中央にある車両用通路を低速で2階まで下りていって」
アワユキが体を起こして、シートベルトにしがみついている。それを横目にカルカンは、ゆっくりと車両用通路を下っていく。見慣れぬ爽やかな水色のオート三輪が通るので、住人だけでなく浮遊ロボたちも振り返る。
「2階まで来たら、右折して。先にカジャクさんの店を教えるから」
「うん、了解」
2階まで下りて、ゆっくりと右折し一般通路に入る。丁字路をさらに右折する。2軒分進んだ所で車を停めた。
「この左にあるシャッター下りた建物が、カジャクさんの整備店と住居」
「崖の中なのに、こんな大きい店舗なんだ。住まいも広そう。あ、子沢山だから、荷物で狭くなるか」
「うん。だから、子供さんはビル街で学校の寮生活になるんだよ」
「へ~、ジブンの仮住まいにしていいのかな?ま、アワユキの店に行きましょうか」
そのまま直進し、曲がり角に進む。アワユキは久しぶりに見る[薬草と酒]の看板を見て、ものすごく安堵した。『帰ってこれたんだ』と。ロープウェーの往復、ラクガンとの食事、浮遊ロボの抗争。それぞれ、アワユキには生きた心地がしなかったからだ。
先にアワユキが車を降り、店のドアを開ける。カルカンは他の通行の邪魔にならないよう右折して壁際に車を駐車する。それから、荷台から薬草等アワユキの荷物を一緒に店内へ運び入れる。
カルカンは[薬草と酒]店内に入り、少し驚く。
「崖の中なのに、こんなに木材使った建物なんだ。このカウンターとか厚い板使ってあるし、すごいなぁ。その手作り感ある装置もすごい」
「あぁ、円筒形装置ね。隣の診療所のハブタエ先生が考えて、アタシがいろいろ装置を足した感じ。装置は洗浄してあるから、片付いたら来なよ。お好みの薬草酒を飲ませてあげる」
「うん、明日以降ね。今日は、カジャク邸で寝床分の広さを確保しなきゃならないから大変かも」
「無理な時は、ウチの2階で休めるよ」
カルカンは荷物を下ろした後、店の外に出て声を上げた。慌ててアワユキも外に出ると、浮遊ロボと警備ロボが数体、カルカンを囲んでいた。アワユキは浮遊ロボたちに声をかけた。
「こんちは。こっちの人はカルカンって言います。そこの整備店にいるカジャクさんの代理で来た人。覚えておいてね」
「・・・了解。覚エタ」
浮遊ロボが返事すると、浮遊ロボたちは一斉に巡回に戻っていった。
「崖の街って、いつもこうなの?」
「人間が増えるってあまりないから、住人の顔は覚えているはず。それで、アタシがしばらくいなかったし、カルカンの事は知らないから警戒したんだろうね」
「それで、アワユキって浮遊ロボに声かけてるの?」
「そうだよ。あっちも挨拶返してくれるし。あ~、そのオート三輪、駐車するなら6階まで移動しないと。また、警備ロボまで来るかもよ」
「まだ調整が必要だから、整備店の中に入れるよ。多分、入るだろうし」
「うん、分かった。何か分からなかったら電話して。カジャクさん
カルカンは手を振り、車を移動させた。
翌日、朝から電話がけたたましく鳴る。
リン リリリリリン
なかなかの疲労具合のアワユキは、壁に体をもたれさせながら階段を下り、パジャマ姿で電話をとる。
「ふぁぃ、もしもしぃ~」
「アワユキ寝てた?カルカンだけど、ちょっといいかな?」
「どしたの?」
「昨日確認せずに寝ちゃったんだけどさ、カジャクのアホが食料品を残してないんだよ!どこにお店ある?教えて欲しいんだけど」
「うん、分かった。準備するから、うちに来てくれる?まず、薬湯飲まない?疲労回復用に調合したやつならすぐ出せるから、それから動こうか」
「了解。こっちも準備するよ」
電話を切った後、アワユキは円筒形装置を起動させ、お湯を沸かす。そして、身支度をし、白衣を着て、店のドアを開けた。
変わらぬ崖の街の日常。掃除ロボが掃除をし、浮遊ロボが巡回している。日中の照明となった通路、人々が活動を始めている。
「おはよう~、入って大丈夫?」
「ん、おはよう。いらっしゃい、どうぞ」
カルカンがアワユキの店にやってきた。アワユキは、円筒形装置に薬草を入れ、蒸気を当て、薬効成分の抽出を行なう。コップを2つ用意し、大きめのボタンをゴン!と押して、お湯に溶け出した薬湯を注ぐ。
「はい、おまちどうさまです。ちょっと甘いから飲みやすいと思うよ」
「あら、いい香り」
アワユキはカルカンに薬湯の入ったコップを渡した。苦味成分を除去しているので独特の臭みがなく、発酵した茶葉のお茶のようで、一口含めば、丸く柔らかい口当たり。ほんのり甘い味わいと香りが鼻から抜ける。じんわりと内臓から温まる薬湯。
「ねぇ、アワユキ。これって普段お客さんに出すやつ?」
「そうだよ。これをアタシは最初に習ったかな。お酒と混ぜるのは、薬効が溶け出す時間や配合とか、案外ややこしい」
「は~、染み渡るわぁ。海眺めて、これ飲んで、二度寝したい」
「はっはっは、普通に仕事休めば?カジャクさんから引き継ぎ作業とかなければね」
「カジャクは仕事してたのか?ってくらい、道具が埃が被ってた。いざという時、道具が使えないってダメだよ」
「地下の発掘現場で作業ロボ修理やってたんじゃないのかな?もしくは、仕事斡旋所の掲示板見て、アルバイトしてたか」
「え、求人募集の掲示板ってどこ?」
「整備店近くにあるよ。車両用通路の壁を利用して貼り出してあるから、そこ通って、朝食行こうか」
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