第18話 手汗
アクマキ車両整備で大幅に改造されたオート三輪で、崖の街に向かうアワユキとカルカン。
崖の街へ通ずる一本道をカルカンの運転でひた走る。アワユキはオート三輪で走るということに不安が強かったが、乗ってみると全く違った。行きに乗ってきた小型トラックに比べ、圧倒的な安定感で振動が少なく、座席も交換してあるので体が痛くなることが、かなり減る印象。タイヤも車体改良したものに合わせ調整し、最適な太さ、種類を選んだので、『そこら辺の車より問題なし!』とカルカンは言う。あわせてカルカンが言うには、燃料問題があり、ガソリンが気軽に手に入るなら旧車のまま、なるべく純正で残すが、ビル街でもガソリンや液体燃料が十分な供給量ではないため、オート三輪の大改造は仕方ないことだと。
1時間ほど走ると、左側に機械化石ノジュールがむき出しの土壁が見えてきた。
思わずアワユキが声に出す。
「もう、ここまで来たの?すんごい速いね。あの小型トラックでは速度でなくて、土壁と草原をのんびり眺めながら、アクセルべた踏みだったよ」
「確かに、このオート三輪は速いけど、カジャクの手抜き修理車と一緒にして欲しくないよ」
カルカンは笑いながら言った。
さらに進むと、前方の車が急に回避行動を取り、何かを避けて運転した。
「何かあるのかな?」
「わー!カルカン、前っ!塊が転がってる!」
たまにある土壁風化により、車半分くらいの機械化石ノジュールが道路に転げ落ちていた。対向車が来ていないことを確認し、カルカンはハンドルと足元ペダルの踏み変えであっさりと塊を避け、何事もなかったように運転を続けた。
「へ、何で、そんなに慌てず避けられんのよ。落下物と距離があまりなかったじゃないのさ」
「アワユキ、落ち着きなよ。このオート三輪は一般の車と別物に仕上げてんだよ」
「そう言うけど、オート三輪なら急旋回すれば、前方を擦るか、転んじゃうでしょ?」
「標準状態ならば、そうだろうね。さっきの避け方だと右前か右側面に転がってたと思う。でも、改造車だよ。しかも普通じゃない」
「もったいつけた言い方するけど、足回りの調整が良いってこと?」
「いやいや、アワユキも手伝ったじゃん。アレを装備したんだよ、気付かないかな~」
「いろいろ運転・操縦はするけども、整備は分からないし、アタシが手伝ったって、食器洗い、掃除、浮遊ロボの部品回収・・・うそ」
「へへへ、浮遊ロボの"ピーガガッビー"を大量導入しまして、傾き検出装置が反応すると、水平・平行位置を保つよう働くんだよ」
アワユキは運転中のカルカン横顔を凝視した。
「き、機械文明の装置を導入ってやっていいの?」
「誰に断りを入れたらいいの?」
「そりゃ、誰って分からないけど、警備ロボが『コラー、仲間を利用したなー!』みたいに反応しないの?」
「ビル街で警備ロボすれ違って反応しなかったし、『浮遊ロボは生まれ変わりました。ジブンたちと共に生き続けますっ!』って言っときゃいいのよ」
「わぉ。・・・だから、この車内にスイッチがたくさんあるのか」
「そだよ。"ピーガガッビー"を大量導入し過ぎてるから、電気食うのよ。スイッチで制限かけとかないと浪費する」
「だから、カーオーディオがないのか。あ、カジャクさんのカセットテープ、小型トラックに入れっぱなし・・・」
「ラジオとか、そもそも外してるよ。計器類は全部外して取り付けてるから。それに、カジャクのテープてなんなの?」
「奥さんに対しての感謝告白テープ」
「・・・多分、父さんが掃除ロボが巡回してきた時に、処分を頼むと思うよ。感謝は直接言えって話よ」
オート三輪設備の話をしていると、ロープウェー乗り場に到着した。チケット売り場で尋ねると、車両運搬用コンテナの到着待ちで、しばらく待つ必要があるとのこと。その時間を利用して、休憩することにした。
対岸から眺める大きな崖。あの中に多くの人間が住み、機械文明と共存して、機械化石のノジュールの発掘も行なわれている。
「ねぇ、アワユキ。あの崖の中に街があって、生活があるんだよね。不思議だわ~」
「アタシからすれば、ビル街の営みが不思議だった。でも、活気が溢れてるのはビル街かな。崖の街は、作業現場って感じがする」
「崖の街、案内してよ」
「もちろん。ただ、ひたすら歩くから、カルカンでも疲れるかもね」
いよいよロープウェーに乗り込む時間。カルカンの運転で車両運搬用コンテナに乗り込み、車両固定が行なわれ、コンテナが閉じられる。カルカンは、側面が見えるのでキョロキョロし、興奮が隠しきれない。アワユキは、すでに緊張し、汗が止まらない。
ゆっくりと動き出したコンテナは、徐々に陸地から離れ、上っていく。穏やかな大海原が見え、カルカンは興奮気味。
「ねぇ、すごいね、海だよ!広いね~、青いね~!いつもこの景色をアワユキは見てるんだ!ア、アワユキ?」
「ふひ~、ふひぃ~」
アワユキは白衣の裾をギュッと握り、足元をじっと見つめ、妙な息遣いになっていた。
「もしかして、高いところが苦手?」
「上りなら大丈夫かと思ったけど、やぱ、やっぱり怖ぇぇ」
「手をつなぎましょうか、お嬢さん?」
「・・・手汗で、べちょべちょにしてあげましょうか、娘さん」
軽いイタズラ心でアワユキの手を握るカルカン。すぐに後悔した。
「ホントにすげぇな、ぐっちょりしてんじゃん!っ~か離して、強すぎ!軽く握ってよ!」
「車揺らしてんじゃねぇよ、てめぇ!頼むから、そっとしてちょうだい!」
「精神安定する薬草とか調合して、飲んでおけばいいじゃん!」
「アタシには効きすぎて、寝て動かなくなるんだよ!もう少しだから、揺らさないで」
ぷるぷる震えて前のめりになるアワユキを見て、高所恐怖症を改めて知るカルカン。カルカンは、時折、脇を突いて、アワユキの生存確認をし、ようやくコンテナが崖の街に入っていく。
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