第17話 オート三輪

 浮遊ロボの残骸が散らばる中、明け方、部品回収を勤しんだ。


 すっかり日が昇り、人々が見物している。大型掃除ロボが少しずつ位置をずらしながら平行に並んで大きなゴミを吸い取り、その後からよく見かける掃除ロボが隊列を組んで、仕上げの掃除をしている。大した時間かからず、砕け散った浮遊ロボの残骸が撤去された。


 大きな袋をアクマキ車両整備事務所に置き、ゲタンハが説明をする。


「アワユキちゃんにも、ようやく仕事を頼めるな。この銀色の箱をよく見ると、他の装置との接続部分がある。この接続部分に測定機器を使って、電気が流れるか調べて欲しい。3人で大量に集めても、落下の衝撃で破損しているものが多いと思う。しかし、まずは朝飯だな」

「分かりました。気付けば叩き起こされて3時間も過ぎてる」


「ふはっはっ、この"ピーガガッビー"が欲しくて、ずっと浮遊ロボ抗争を待ってたんだよ」

「それで、空見てたんですねぇ」


 朝食後、再び事務所に戻った3人。


 ゲタンハから測定機器を渡されたアワユキ。


「さっきも話した、この接続部分に測定機器の金属棒2本を順番に当てると、壊れてなかったら電圧が測定される。[動くもの]、[壊れているもの]、[動くけど不安定]

この3つに分けていっちゃって。ワイらは、車両整備に行ってくるよ」

「はい、作業に入ります」


 アワユキは、電圧測定を始めた。見た目にヘコみがあったり、傷があるものは、ほとんど壊れている。落下による損傷だろう。しかし、大量に集めた割には使えないものが多い。それだけ繊細な装置であることを認識し、丁寧に測定を続けた。


 その日の夕方、ゲタンハとカルカンが事務所に戻ってくると、アワユキがソファーに小さくなって眠りこけていた。


「おーい、アワユキ~、起きろ~」

「んがっ!」


「測定終わったんか~」

「んぁ~、それは終わったんだよ~」


 大きく伸びをしながらアワユキはカルカンに答えた。


「アワユキちゃん、あの数、終わったんか?早いな」

「こういう機械に触れるのは、崖の街でも、ちょいちょいやってたんで。後は、作業工程が分かってくるとテキパキといけますね」


「ん、操縦も出来るんだったっけ?」

「はい、カジャクさんに作業ロボ操縦習いましたし、仕事がない時、発掘作業や手伝いで操縦やってましたね」


 アワユキとの会話で、ゲタンハはカルカンの方を向いて、何やら頷いている。


 それから、ゲタンハはアワユキに伝えた。


「アワユキちゃんが乗ってきた小型トラックの代車が、あと2日くらいで完成する。そこで、カルカンと一緒に崖の街に戻るわけだ。アワユキちゃんには、お待たせしたねぇ」

「いえいえ、いろんな問題はカジャクさんが原因なので」


「そうだ、確かに違いねぇ」

「いひひ」


 車両修理の残り日数が決まり、ゲタンハ・カルカン父娘は追い込み作業に没頭し、アワユキは注文していた薬草各種の配達を受け取り、いつでも出発できるよう準備を整える。


 崖の街へ戻るの日が来た。


 アワユキはカルカンから声をかけられる。


「アワユキ~、荷物を下に持ってきておいて。車移動させるから~」

「う~ん、分かった~」


 アクマキ車両整備の出入り口前にいくつかの荷物を置いて、アワユキは車を待つ。そこに、ゲタンハが近付いてきた。


「いや~、待たせたねぇアワユキちゃん。代わりの車も多くはないし、それ以外の整備もあるから時間かかったんだ。本来なら、戻る前にイイ物食わせてやりたかったんだけどなぁ」

「はっはっは、また伺いますよ。仕入れがあるので、ビル街には来ますし」


 ゲタンハと挨拶をしていると、石ころを弾く音がして、何やら近付いてくる。アワユキは音がする方を見ると驚いた。『この車で帰るのか?』と。


「やぁ、お待たせ」


 カルカンが車から降りてきた。


「アワユキ、荷物を荷台に載せて。シートかけて固定するから」

「ちょ、ちょっと待って!この車で行くの?無理じゃないの?」


 カルカンが乗ってきた車は、三輪トラックだった。父娘で何日もかけて、修理と整備を行なっていた車。アワユキには一度も見せなかった車両。


「何が無理なのさ?ジブンらで調整して、中身は大幅に改良したんだよ。すんごい驚く機能があるんだから」

「だって、三輪トラックって昔のだし、カーブ曲がる時に転ぶじゃん。転ばなくても、底面を擦ったり・・・」


「三輪トラック、ま、オート三輪って呼ぶけど、劇的に進化させてるから、もちろんその対処もしてるわよ。ねぇ、父さん」

「あぁ、アワユキちゃんがコレ見るのは初めてだからな、いろいろ疑いたくなる気持ちも分からんでもないが、まず運転席見てみなよ」

「は、はい~」


 アワユキは、オート三輪の運転席を覗き込んだ。古めかしい計器類とハンドルなのだろうという先入観。


「んん?なんだ、これ?ハンドルは握りやすそうな太めで計器類が多すぎる。増設もしてるし、[入・切]って書いてあるスイッチがたくさん。何のため?」

「そりゃ必要だから付けたんだよ。それに長旅でも疲れないよう、シートも交換済みだ。ただ、運転はカルカンにさせるからな。設定が色々あんだよ」

「そうそう、まだ長時間の運転で調整が必要になるから、ジブンが運転するよ。アワユキは助手席でお願い」


「もしかして、車体だけ再利用?」


 父娘は顔を見合わせて、ニヤニヤと笑っている。そして、カルカンが説明を始めた。


「このボディも保護フィルムと塗装で、軽量かつ頑丈にしてる。珍しいエンジン車だったけど、強化モーターで加速はあるし、積載量増加も耐えうる力強さ。他の機能は、それを使う場面がある時に話すよ。それじゃ、ぼちぼち出ようか」

「急に三輪トラック、いやオート三輪がカッコよく見えてくるよ。爽やかな水色が海沿い走ると映えそうだね」


 カルカンとアワユキは荷台に荷物を載せ、しっかり固定した後、車に乗り込んだ。


「んじゃ、父さん、しばらく手伝ってくるよ」

「あぁ、しっかり技術を売り込んできな。アワユキちゃん、しばらく娘をよろしくな~」

「はい、お世話になりました。ありがとうございました~」


 カルカンは、ゆっくりと車を走らせ、ビル街の出入り口検問所を通り、崖の街へ向かう。

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