第16話 早朝の回収作業
誰もが理解できない話を聞かされ続けるアワユキは、カルカンに怪しい薬使用を疑われ、部屋の荷物を見せ、事なきを得る。
翌朝、アクマキ車両整備2階でゲタンハが窓の外を見上げている。
「おはようございます。天気が変わりそうですか?」
「おはようさん。天気は良さそうなんだけど、空が騒がしいんだよ、アワユキちゃん。今日って仕入れとか、あちこち行くのかい?」
「いえ、薬問屋からは数日先に配達受取くらいで、特に用ってないです」
「それなら、今日は外出控えた方がいいな。何か起こるかな」
アワユキとゲタンハが話している所に、カルカンが加わってきた。
「父さんの予感って当たるから、アワユキは不慣れな場所だし単独行動は控えた方がいいよ。映画でも見てて」
「ん~、了解。こっち来てから歩いてばかりだし、休息日にするよ。車両整備も手伝えないしさ」
久しぶりにのんびりした休日となったアワユキ。テレビ映画を見たり、仕入れ薬草の再確認や白衣コートを広げ、同型なのに羽織ってみて、鏡の前でその姿を何度も確認してみた。
その日の夕方、ゲタンハから呼ばれる。
「アワユキちゃ~ん、ちょっと早いが夕飯食べ行くぞ~」
「はーい、今、行きまーす」
いつもの歩いて数分、アクマキ車両整備の前にある中央飲食街の外テーブルに向かった。
「アワユキちゃん、今日は軽めにしておきな。お酒も少なめで」
「はぁ。ゲタンハさん、今日はすごい警戒してますね。何があるんです?」
「すぐに分かるさ。ささっ、注文しなよ」
「分かりました。じゃ、麺類にします」
結局、3人は手短に食事を済ませる。アワユキは急いだため、味がよく分からなかった。
アワユキが口元を拭いていると、カルカンに言われる。
「アワユキ、上、見てみなよ。始まりそうだよ」
「上?うわっ、何この数!」
アワユキがカルカンに言われ、空を見上げると、中央飲食街ビル中層付近に見たことない数の浮遊ロボが集まり、隊列を組んでいる。普段見かける、くすんだ緑色とこのビル街で見かけた人参色の浮遊ロボが上空真っ二つに分かれた状態。
ゲタンハが会計を済ませ、2人に言う。
「ほら、危ないから建物内に入った方がいい。急げ!」
ゲタンハに急かされ、アクマキ車両整備に戻る。2階外階段を上がり始めた頃、ゴッ!ゴツッ!と何か衝突音が聞こえた。アワユキが振り返ると上空にいた浮遊ロボたちが一斉に色違い同士でぶつかりだした。
「破片が落ちてくるぞ、早く部屋に入れ!窓ガラスが割れないよう、シャッターも下ろしておけ!」
慌てて、階段を駆け上がり、ドアを閉める。また、それぞれの部屋も対策を行なう。
その後、キッチンに集まり、小窓を開けて、カルカンが様子を見ている。
「アワユキ、ちょっと来て」
「うん。何が起きてるの?」
「ここ何ヶ月か浮遊ロボの色違いが増えてきて、勢力争いみたいにお互いをぶつけあうんだよ。建物とか人間には危害を加えないけど壊れて落ちてくるものはロボ自身が制御できないから、逃げるしかない」
「うわ~、もう落ちてきてる。あれって燃えないの?」
「今のところ、そういう事は起きてないけど、燃えないとは言い切れないんじゃない?だから、安全な場所に避難しておかないと大怪我する」
「そだね。でも、浮遊ロボがあんな荒々しいなんて・・・。ムクドリやコウモリの大群みたいに群れをなしてぶつかりあってる。あぁ、また落ちたよ」
「そろそろ、窓閉めな。それと、もう寝なさい。一晩中、この音聞こえるはずだから、寝られる時に休んだ方がいい」
「うん、分かった」
「はい、では、寝ます」
ゲタンハが指示したので、2人は従うことにした。
ゴッゴゴッ!グコッ!ボゴゥ!ガゴッ!
真夜中も響き続ける激突音。鈍く響く音に近隣住民は寝られることはなかった。
空が白み始める頃、アワユキはウトウトと寝入りそうだった。
「今がチャンスだぞぉぉ!起きろぉぉ!先手を打つんだぁぁ!皆、起きろぉぉ!」
ゲタンハの叫びで、アワユキはもそもそと起き、毛布を頭から被ったまま部屋のドアを開け、廊下に顔を出す。
「ほれ、アワユキちゃん出番だぞ!早い者勝ちだから、急いで着替えな!掃除ロボが来る前に拾うんだ!」
「はぁ~い~」
どうにか着替え、寝癖を直さぬまま、外に出る。その光景を見ると、一気に目が覚める。というか、冷める。アクマキ車両整備の前にある広い空間が浮遊ロボの残骸だらけ。何体破壊されたのか、ゾッとするくらい破片が散らばっている。
「うわぁぁ、これはひどい・・・」
「アワユキちゃん、これが不定期で起こるんだよ。ただ、ワイらのような手を加える整備をするものにとっては、これが必要」
ゲタンハは、足元に落ちていた浮遊ロボの塊から中身を引きずり出した。片手に収まる銀色の箱状のもの。中央辺りにうずまきの絵がある。
「浮遊ロボはコレで浮くことが出来る。知らないだろ?」
「え、"ピーガガッビー"ってそれですか?」
「何だ、知ってんのか!」
「あ、いや、崖の街の浮遊ロボに『どうやって浮いてるの?』みたいなことを聞いて、答えてくれたんです。実物は初めて見ますけど」
「それじゃ、この"ピーガガッビー"を集められるだけ持ってきてな。掃除ロボが回収始めると、人間のことは無視しして掃除始める。攻撃はされないけど取り合いになる。急いで、この袋に入れちゃって」
「了解です」
アワユキは"ピーガガッビー"の回収を始めた。どれが動くのか分からないので、多少ヘコんでいたり傷があっても、どんどん布の袋に入れていく。立方体が砕けて中身がむき出しの浮遊ロボからは足で押さえ引き抜き、数を稼いでいく。周囲には人影はあるものの、回収作業をする者は少ないようだ。やがて、掃除ロボが少しずつ集まってくる。崖の街と違って、ビル街の掃除ロボは薄型直方体だけでなく、大きく高さがある機体もいて、大型ごみも運ぶようだ。
大型掃除ロボを見かけたので、カルカンがアワユキに声を掛ける。
「アワユキ、急げ~。でっかい掃除ロボが来たら、突進が容赦ないぞ~」
「避けてくれないの~?」
「こんな広範囲に散らかしているとゴミ回収が優先だから、人間は相手にされない。打撲どころか骨折れることもあるから気を付けて」
「ヤダー!この"ピーガガッビー"を渡したら許してくれないの?」
「その部品はすでにゴミ扱いみたい。でも、"ピーガガッビー"を掃除ロボに渡したら、父さんがアワユキを追い回すことになるよ!」
「それも、ヤダ。残り時間わずかですが、尽力致しますっ!」
徐々に増えてくる掃除ロボに気を付けながら、アワユキは大きな袋に半分の量の"ピーガガッビー"を回収した。
ゲタンハの号令がかかる。
「よ~し、引き上げだ!」
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