第13話 ビル群散策

 中央飲食街ビル1階の屋外席で、ゲタンハ・カルカン父娘はアワユキの歓迎会を始めた。


「カンパ~イ!」


 崖の街では海産物の料理が多く、ビル街の普段見ない食材を使われた料理を前に、アワユキは食が進む。


「いいねぇ、いいねぇ、アワユキちゃん!食べなさいよ~、ワイは、この太いエビをいただきます!んん、ぶりりんって弾けてたまらん!」

「ちょっとがっつき過ぎよ、父さん!アワユキ、ごめんね~。宴の席だと、すぐ酔って、はしゃいじゃうんだよ」

「ははははっ、カルカンも飲んじゃえば?えへへ、いいじゃん!ふはははは」


 飲み進めるうちに、次第に打ち解け合い、お互いの呼び方も、自然と言いやすい名前に落ち着いていった。

 程よく食べて飲んだところで、アワユキは顔がほころび、ヘラヘラしていると、何か視界に入り、ぼんやりと夜空を見上げる。


「あら、浮遊ロボちゃんがたくさんいる~。崖の街じゃ、あんな数いないなぁ」

「最近多いんだよ。高く飛んでるから分かりづらいけど、違う種類が入ってきたんだ」

「そうだな、はっきりした時期は分からんが、機械文明たちが変化した。アワユキちゃん、あいつら、衝突するんだよ」


「衝突?事故ですか?」

「接触事故くらいなら、かわいいもんだ。縄張り争いみたいな抗争を始めてんだよ、深夜にな。昼間だと、人間巻き込んでしまうからって言う奴らもいる」

「結構激しいよ。ゴツン!ゴツン!って音響くからね」


 崖の街では考えられない浮遊ロボの荒々しさを聞いて、あまり信じられないアワユキ。ただ、違う街である以上、起こりうるのだろう。それから間もなく、ゲタンハの眠気がきたらしく、歓迎会もお開きとなった。


 その日の夜、慣れぬ他人の家で寝たせいか、真夜中に目が覚める。なかなか寝付けないでいると、外からゴトゴトという音が気になり、部屋のカーテンを少し開け窓から外を見る。そこには、大量の掃除ロボが集まっており、屋外テーブルで食事し、人間が掃除した後をさらに後始末をしていた。そこでも2種類の色が異なる掃除ロボがいて、お互いに掃除の成果を競うようにぶつかり合っている。やはり、崖の街では見ることのない不思議な光景。

 しばらく眺めていると、また浮遊ロボが窓の前に接近してきた。アワユキは小さく手を振り、カーテンを閉め、また寝ることにした。


 翌朝、外から子供の声で目が覚める。通学の時間帯、これも崖の街にはない風景で、『子供さんは元気だねぇ』と呟きながら着替える。

 食卓テーブルの方へ移動すると、父娘はすでに起きており、朝食を食べていた。


「おはようございます。少し遅れました」

「おはようさん。何言ってんだ、疲れてんだから、のんびりしなよ」

「おはよ。パンあるから、適当な量食べてね」


 顔を洗い、席につく。コーヒーを一口飲んだところで、アワユキにゲタンハから状況説明があった。


「あのな、せっかくビル街来たんだから、カルカンにアワユキちゃんを案内させたいんだが、小型トラックの代わりの車の整備に人手がいる。ここ何日かは、アワユキちゃんだけで散策してくれるか?裏路地とか廃ビルといった、明らかに機械文明が少ない所を行かなければ、それほど危険ではないよ」

「分かりました。アタシはあまりお金が使えないので、やたら買い物することもないので、散歩程度で見物してみます。というより、アタシが手伝えることってないんですか?」


「あ~、アワユキちゃんの出番はまだかな。何かあるか、カルカン」

「まだないね。そのうち駆り出されるから、ここ何日かは遊んでみてよ」

「あら、駆り出されるんだ」


 朝食を済ませると、父娘は作業に入った。アワユキは白衣を纏って、外に出る。


 たくさんの人間が動く流れに合わせ、歩みを進める。改めて、大半のビル2階部分は連結工事がされ、ビル群というより1つの建造物に思える。道路は掃除ロボが動いているのでゴミが落ちていない。しかし、ビルは年季の入った傷みがあり、古さを感じさせる。昨日も聞いたが、ビルは所有者がいるわけではなく、勝手に住み着いたり、自由に商売を始めているので、お店の看板がある所は手書きで屋号や何の商売か分かるイラストが描かれている。見上げてみれば、ビルの中層階で体にロープをくくりつけ、外に身を乗り出し、看板の描き換え作業をしている姿がいくつもある。


 歩き続けると、話に聞いていた煩雑な作りをしたビルばかりではなく、専門性で分かれていることに気付く。住居用、飲食店が集まった所、複合的に集まった百貨店のような場所。ビル街中央付近には機械文明だけが入れるビルもあり、充電やメンテナンスを行なっているようだ。アタシが入ってきた南側検問所の近くには、学校と寄宿舎が合わさったビルがあるし、住み分けとも言えるだろう。


 あえてビル内には入らず、たくさん歩き回ったアワユキは、少々人酔いしてアクマキ車両整備に帰ってきた。


「お帰り、アワユキ。・・・顔色悪いね」

「ただいま、カルカン。人が多すぎて、気持ち悪くなった。ちょっと横になるよ」


「刺激は多いからね、そういう感じにもなるよ。変な物、食べなかった?」

「お昼は、立ち食いの麺をすすったよ。当たった感じはしないけど、休むね」


 アワユキは部屋に戻り、眠りについた。


 翌日、まだアワユキの出来る作業がないため、散策に出ることにした。薬問屋ビルを訪れ、新しい薬草等ないか見学し、店員とも話しして情報交換を行なった。

 しばらくして薬問屋ビルから出て、どちら方面に向かおうか人の流れを見ていると、声をかけられた。


「おや、アワユキさんじゃないか」

「え、こんな場所で何してるんです?」


 薬問屋ビルの前にいたのは、ラクガンだった。やはり、黒スーツに黒ネクタイの格好。


「ワシ担当の仕事があってな。このマイタケが集まったようなビル群で活動しておる」

「あら、そうなんですね(マイタケ・・・)。その格好は、変えられないんですか?」


「あぁ、決まりだから行動中は仕方ない。そちらは何用で?」

「アタシは、薬草の仕入れですよ。あと、車の修理で数日滞在予定です」


「そうかい。時間があるなら、知っている店でお昼でもどうかな?」

「えぇ、構いませんよ」

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