第12話 歓迎会

 薬問屋ビルで新しい白衣を見つけ、しっくりきたアワユキ。


 会計を済ませ、袋に入った予備とこれまで着ていた白衣を受け取る際、店員から質問があった。


「お客様は、この街の方ではないですよね?」

「えぇ、そうですよ。崖の街から来ました」


「あぁ、そうでしたら、白衣は身につけたままの方が良いかと思われます」

「どうしてですか?」


「ここ最近、機械文明の色違いが現れまして、人間の服装で種類分けしているようなんです。あまり汚い身なりであったり、上半身裸でいると粗暴な者や犯罪者と疑われて、湾曲した空きビルに放り込まれるとか・・・」

「へ、あのぐにゃってしたビルに?」


「えぇ、上層階に運ばれて、部屋が傾いているから出入り口には届かず、窓から出ると落下してしまいます。気付かれないと救助のしようがなくて」

「・・・怖いなぁ。話も聞いてくれないわけですよね、警備ロボとか。疑われないよう気を付けます」


 アワユキは薬問屋ビルを出て、ホテルに預けていた荷物を取りに戻った。その際、カルカンからアワユキ宛の伝言が届いており『アクマキ車両整備に来られたし』ということだったので、そのまま、アクマキ車両整備に向かった。


「こんにちは~、アワユキです~」

「はーい、待ってたよ~。って、どしたの、カッコいいな!おーい、カルカン、アワユキさんがすげぇぞ!」


 事務所からカルカンが出てくる。


「はいはいはいはい、もう少し多彩な言葉で表現をして・・・わ!アワユキ、すんげぇ!」


 『ぁ~、親子だな~』という感想にニヤついて顔に出てしまうアワユキ。


「白衣がずっと借り物だったので新調したんですよ。それで、ホテルに寄ったら伝言があったので来てみました」

「代わりの車があるんだけど、ここ何ヶ月って修理改造しててな、重要な部品が手に入りそうだから、7~10日ほどビル街に滞在してくれないか?」

「周期的にそろそろだから、確実に手に入るよ」


「何言ってるんです?『手に入りそう』って部品買うもんじゃないんですか?」

「重要な物がさ、蚤の市に出ると価格変動がすごいんだ。だから、買わずに待つ。その時は協力してもらうぞ」

「ま、荷物置きに行こうか。部屋案内するよ。掃除して、ベッドも整えたから、くつろいじゃって~」


 カルカンはアワユキの背中に手をやり、外階段から2階の住居へ案内した。

 2階の1番奥の部屋、ただベッドがあるだけの空き部屋。何かこの部屋で仕事するわけじゃないので問題なし。荷物を置いて、また事務所まで下りていく。


 事務所に着くと、アワユキはゲタンハに質問した。


「この白衣買った時に言われたんですけど、外に出る時は仕事着のままが良いというのは本当ですか?」

「よその街から来た人間には、それが当てはまるかもなぁ。この辺飛び交ってる機械文明たちに顔を覚えられているなら、服着てれば問題ないが見知らぬ人物には監視されてるな、と分かるくらいに接近される」


「今朝、ホテルの窓に浮遊ロボが貼り付いてたのは、そういうことか・・・」

「ありえるな。でもよ、ホテルに泊まってることくらい、理解してほしいもんだよ。それで、今から歓迎会兼ねた夕飯食いに行くけど、店に移動するくらいはその白衣を着たままで頼むよ」


「食事中でも、この白衣なら問題ないですよ」

「いや、汚しちまうだろ」


「んふ~、さっき知ったんですが、この白衣汚れに強いみたいです。多少薬液かかっても、化学変化せず。洗濯でしっかり汚れを落とすらしいです。なので、シミになるようなものでも気にならない」

「ほぅ、丈夫だな。それじゃ、エビ食うかい?太いエビ、あるぞ。内陸なのに」


「・・・甲殻類食べると体痒くなるのです。他にもあるのですか?」

「ぬははっ、難儀な体だな。エビはワイらが食うとして、肉食いねぇ」


「それなら、イケます!」

「おーい、カルカン、戸締まりしな。向かいの中央飲食街に行くぞ!」

「はぁぃ。気が早いよ、まったく」


 準備が整った3人は歩いてすぐ、中央飲食街という名のビルに到着した。日が暮れる頃になると、アクマキ車両整備と中央飲食街の間にある道路は半分ほどの範囲でテーブルとイスが置かれ、夜風に当たりながら飲食が出来る。

 空いた席に座り、メニュー片手にゲタンハが、どんどん注文していく。アワユキは呆気に取られ、もう任せるしかなかった。なので、外から店周辺を眺めていた。店入口付近に簡易厨房があり、炒め物中心に作られ、火柱が上がっている。手間のかかる料理は店内調理のようだ。天気が良く、星空が見えてきた時間帯、屋外テーブルは空き席がわずかになっていた。ただ、店の屋号が見当たらない。このビルの他店舗は、ビル側面に色分けされた看板と屋号が書いてある。


「アワユキさん、どしたの?キョロキョロして」

「建物見ると看板あるけど、ここの店名なんていうんだろうと思って」


「あ~、ここって名前ないよ。"赤い看板のお店"って呼ばれてる。薬問屋とは違うもっと派手な赤で炎?火力?を表してるんだって。それに"中央飲食街"も誰かが言い出して、定着したみたい。ビル街の中央辺りにまで伸びてるから、西側というより、"中央"って呼んだ方が分かりやすいんだって。ビル街ってさ、それぞれビルの持ち主がいないから、呼び名があっても、必ず建物に名前が書かれていないのよ。薬問屋ビルも、名前書いてないでしょ?」

「うん、色で覚えるわけか。この中央飲食街ってビルは、全部の階が飲食店?住人いるの?」


「電気・水道設備が使える所には、何かしらのお店があるよ。支店を持つお店もあるし、専門店というか特化し過ぎた店もある」

「特化?魚料理専門みたいな?」


「魚料理のような特定食材にこだわった店は普通にあるけど、歌を聴く飲食店、高齢者見合い喫茶店、雑魚寝しながら飲む店とか、独特すぎる店もある。中央飲食街ビルの北側隣りにある屋台街も飲食専門ビルだけど、あっちはお勧めしないね。ビル内がすでに迷宮だし、お腹下す。安さや材料が気にならないなら屋台街」

「屋台街・・・すっごい胃薬と整腸薬を準備してからじゃないとアタシは行けないね」


 カルカンがアワユキに飲食ビル界隈の説明をしていると、次々に料理が運ばれてきた。崖の街にはない色使いの華やかさがある。"料理は目で楽しむ"とかテレビで言っているのを聞いてはいたが、赤・黄・緑、それぞれの発色が食欲をそそる。

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