第10話 ビル街への道中

 ロープウェーを使って無事に対岸に到着したアワユキ。これからビル街に向けて数時間、小型トラックを運転する。


 ビル街までの一本道を進む道中、右側には機械化石ノジュールがむき出しの土壁があり、左側は平原が広がっている。この辺りの機械化石ノジュールは大小さまざまあるが、いつ掘り出しても構わないような鉄くずだそうで、もう長い年月放置されている。そんな光景が視界に入りつつ1時間ほど進むと、平原に大型重機が集まっている場所がある。


「地下を掘ってるんだろうなぁ。建物は見事に壊れて、そのままだし」


 アワユキは呟き、小型トラックを道路の脇に停める。いくつか見える家屋後は崩壊し、自然と馴染もうとしている。その奥に大型重機と土煙が見える。

 この一帯には、昔『辺境の村』と呼ばれる集落があった。アワユキが辺境の村で産まれた時には、すでに限界集落と呼ばれるほど過疎化が進んだ。幼い頃の記憶で覚えているのは、大昔、高い山々に囲まれた場所で人々の往来がほぼない環境だったため、辺境の村と名付けられていた。ある日、朝になると山々が消失しており、集落の周りは草原。近年になり、東の方角に複数のビルが生えた。

 アワユキが言葉を覚え始めた頃、空中に浮かんだ機械と村の大人たちが何やら話をしている光景を覚えている。そこで話し合われた事は辺境の村の地下に機械化石が埋まっているため、機械文明たちが発掘をしたい。そのため、仕事として発掘を手伝う、または、集団移転をしてこの土地を機械文明に明け渡す。機械文明に対しての知識が乏しく、畏怖いふを感じた村人たちは、その土地を明け渡し、いくつかの集団に分かれ他の街に移転した。


 少し感傷的になるアワユキ。車両が何台か通り過ぎ、自分の両頬を両手の指で、ぐにぐにと上下に動かし、改めてビル街へ車を走らせる。

 アクセルをぐっと踏み込んでみるが、たびたび他の車に追い越される。


「んんんん、かっ飛ばしたい気分なのに、なんでこんなに速度出ないのさ!速度計は80km/h出てるのに、体感は30km/hって、どゆこと!」


 さらに、追い越される。もう開き直って、のんびり行くことにした。バス移動なら2時間、カジャクの小型トラックは4時間ほどかかって、ようやくビル街が間近に見えてきた。


 大半の人間が『ビル街』と呼ぶ場所。狭い範囲にビルが密集して建っており、中には反り返って、なぜ崩れないのだろう?という弧を描くビルもある。弧を描いたビルは当然人間は住めないため、他のビルに寄せ集まる。だんだん隣接する建物間移動が面倒になり、2~3階部分を連結させ、補強工事等を行い、ビル同士がくっついた。ビル街の近くに新しい機械化石の発掘場所が見つかり、次第に多くの人が集まるように。やがて、それぞれのビルに専門性が生まれ、住居用、飲食関連、学校といった目的に応じた利用をされるようになった。

 先日あったゼンザイの独白が事実とすれば、他世界のビルがこの地域に寄せ集められたということ。確かに、ありえないほど密集しているので資材運搬や足場を組むということも無理がある。ビルを建設する際、不都合しかない。アワユキは改めてビル街を眺めることで、ゼンザイの言葉を信じるしかなかった。


 ようやく到着したアワユキは、ビル街出入り口の検問所で停車した。


「こんちは~」

「はい、今日は何用でビル街へ?」


「薬問屋ビルとこの車をアクマキ車両整備という会社に届けにきました」

「あ~、それで白衣来てるんですね。どうぞ、通られてください」


 形ばかりの検問を通り抜け、カジャクの地図を頼りにビル街を通る。道なりに進んで1箇所左折する分かりやすい場所に目的の会社があった。[アクマキ車両整備]と文字がかすれ年季の入った看板、その会社の前は広場のように広くなっていたので、通行人や浮遊ロボに気をつけながら、会社前に小型トラックを駐車する。


 シャッターが開いている建物から、車を降りたアワユキに若い女性が駆け寄ってきた。


「こんにちは~、どうされました?故障ですか?」

「カジャクさんから依頼を受けてきました、アワユキと申します」


「あ、そうなんですね~って、ずいぶん車、傷んでますね。これで来たんですか?」

「えぇ、確認したんですけど、カジャクさんが大丈夫だと言いまして」


「うわぁ、ちょっと待ってください。社長呼びますので」


 若い女性は、走って建物内に入り、事務所入口付近で身振り手振りで話している。それから、一緒に年配男性がノシノシとやってきた。


「ど~も~、社長のゲタンハ言います。さっきのは娘のカルカン。で、この小型トラックをカジャクが乗るように行ったわけか~」

「初めまして、アワユキと申します」


 アワユキの挨拶を聞いているのか、ゲタンハは小型トラックの状況把握を始めていた。


「アワユキさん?ちょっと事務所に入って座んなさい。カジャクは、まだ出発してないんかな?」

「今日の夕方に船で奥さんの実家に向かうと聞いてます」


 ゲタンハの誘導で事務所に入り、ソファーに座る。カルカンがお茶の準備をし、ゲタンハは電話をかける。


「もしもし、カジャクか?アワユキさんって姉さん来たぞ、無事にな。あんな車を運転させやがって何考えてんだっ!あのサビ具合でよく部品が外れずにやってこれたもんだぞ!嫁さんがお産だからって、点検サボりやがったな!・・・言い訳するな!嫁さん無事なら、ウチに顔出せ!整備修行のやり直しだ、分かったか!」


 ゲタンハのダメダメ猛説教がこの後もしばらく続き、アワユキとカルカンが黙って対面でソファーに座っていた。


「ったく、カジャクのアホは何も変わっちゃいない。よく姉さん無事だったよ、ホント。あ、アワユキさんだったか」

「はい、アワユキです。カジャクさんは、"適当"ってことでしょうか?」


「そうなんだよ、あの嫁さんがいるからマシになったもんだけど、家は子沢山だろ?カジャクの世話まで出来ないってもんだ」

「あはは、大変だ~」

「ここで働いている時も、カジャクさんは凡ミス多かったもんなぁ」


 娘のカルカンにまで言われるくらいカジャクの適当さが分かり、アワユキは苦笑いをする。

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