第9話 ロープウェー
アワユキは薬草等の在庫を確認をし、ビル街へ仕入れに向かう準備を行なっている。
ビル街へ出発前日の夕方、カジャクが[薬草と酒]店を訪ねてきた。
「おーい、アワユキ。明日って朝早くから出発するんだろ、どの車か教えておこうかと思って6階の駐車場に行かないか?」
「はい、分かりました」
アワユキは店の戸締まりをして、カジャクと6階まで車両用通路を通り、徒歩で上っていく。
「やっぱり、白衣着たままで行くんだな。動きにくくないか?」
「運動するわけじゃないんで、ま、慣れですよ。ただ、車両用通路だけじゃなくて、階段作ってくれたら良かったのにって思う」
「階段だと、掃除ロボは上れないしなぁ。警備ロボも車輪付いてるから、この緩やかな坂道じゃないと困るのさ」
「ふひ~、なかなかしんどい」
時間をかけて上ってきた崖の街6階は、北と東の地域に行けるロープウェー乗り場とチケット販売所、見送り・出迎えをするカフェがある。そして、北側に広い駐車場が設営されている。カジャクは、その5台分を業務上確保しており、今は、1台だけ駐車した車があった。2人で歩いてその車まで進むと、アワユキは少し不安になる。
「・・・カジャクさん、これ大丈夫なの?」
「今これしかないんだよ、荷物も載せられる小型トラック」
「いや、廃棄トラックでしょ。すんごいサビてるけど」
「崖の街は周囲が海だから、ロープウェー運行時は扉が開くから潮風が駐車場にバンバン入ってくる。仕方ないよなぁ」
「サビ止め塗装とかあるでしょ。というか、アタシの身長で乗れる?」
「何言ってんだ、アワユキより大きいオレが乗れるんだぞ?試しに運転席に座ってみなよ」
アワユキは鍵を受け取り、小型トラックの鍵を開けて、運転席に座ってみた。
「・・・ハンドル位置を調整すれば、まぁ、どうにか。しかし、他にないなら仕方ないのかぁ」
「慣れるって。車内が狭く感じるかもしれないが、どうにかなるよ、アワユキ」
『なんだよ、その適当な言葉は・・・』と言いかけたが、カジャクは適当でいい加減さのある性格だったことを思い出し、アワユキは、ぐっと堪えた。
アワユキが小型トラックから外に出ると、カジャクが小さな紙を渡してきた。
「ウチの会社がある場所の地図を渡しておくよ。会社名は『アクマキ車両整備』で、社長の名前は『ゲタンハ』、オレの代わりに来る娘の名が『カルカン』と言う。ゲタンハ社長は、なかなかやかましい人だから、大変かも」
「そうなんですねぇ~、会社ってビル街の西側・・・ビル街ってすごい広いから行ったことないなぁ」
「住居になったビル群の間を抜けるから、案外地味な通りだ。その先にあるし、連絡先も書いてあるから、迷ったら公衆電話探すか、浮遊ロボに聞いて案内頼んでもいいかもな」
「了解です」
一通りの連絡事項を聞いて、それぞれ帰宅する。
その日は店を休みにして、着替え等、必要な荷物をまとめるアワユキ。久しぶりにゆっくりとした夜を過ごす。ベッド近くの小窓から見える通路は、いつしか夜の照明に明るさが切り替わっており、車輪が8ヶついた縦型直方体形状の警備ロボが巡回していた。とても静かな時間にアワユキは、そのまま早めに就寝した。
ビル街への出発の日、朝早くから身支度を整え、店カウンターで紙に書き記す。
[薬草仕入れのため、しばらく休みます]
入り口ドアに紙を貼り付け、白衣姿のアワユキはカバンを肩にかけ、6階に歩いていく。
少し息を切らしながら、6階駐車場に辿り着き、小型トラックに乗り込む。昨日は気付かなかったが、カセットテープが置いてあった。
「カジャクさんが長時間運転で退屈しないよう置いてくれたのかな?」
カセットテープを気にしつつ、小型トラックのモーター始動ボタンを押す。モーター音に若干力不足を感じながら、南側にあるロープウェーチケット売り場に移動する。
チケット売り場では車両の重さを量り、車両運搬用コンテナに何台搭載するかを判断される。アワユキは早朝であったため、他車両とは相乗りせず、単体で車両運搬用コンテナに乗り込むことになった。誘導員の指示の元、コンテナ内に小型トラックで入り、タイヤを固定される。しばらく待つとコンテナ自体が運ばれ、上部4本、下部2本の極太ワイヤーに装着された器具にコンテナが固定された。安全確認されると、扉が左右に開き、ガコン!という音と共にコンテナが前に運ばれる。この車両運搬用コンテナは、前後左右の側面が透過しているため、外を眺めながらロープウェーならではの景色を楽しめるようになっている。
完全にコンテナ自体が崖の街から離れ、空中を極太ワイヤーだけで固定され進んでいく。時より吹く海風、海面より約100mほど上を進む。チケット売り場にあった説明書きを思い出し、アワユキ独り、空を移動中。
「あ゛ぁぁぁぁ、お尻がむずむずするぅぅぅ~、怖ぇぇぇぇぇよぉぉ!外見ると余計に恐怖しかない!外壁真っ黒にしてよ!」
アワユキは叫び続け、たまに揺らしてくる海風に、また恐怖した。どうにか気を紛らわせる方法はないかと車内を見れば、カセットテープ。音楽かけて、目を瞑っていれば、どうにかやり過ごせるのでは、とカセットテープを挿入し、再生させた。
「あのさ、普段面と向かって言えないことをこのカセットテープに録音して渡そうと思うんだ。次が6人目の子供だろ?ホント、ありがとうな。キミと出会ったのはずいぶん前だった。あれから何年経つんだろう。あの頃からの思いは変わらず~」
中身は、カジャクの独白、奥さん宛の愛を伝える思い語り。即、停止して、車内収納場所にそっとしまう。
「カジャァァァァァクッ!こういうものを何故に車内に置いとくんだよ、とっとと奥さんに渡せよ、アホ~ゥ!」
ひとしきり叫んだアワユキは落ち着きを取り戻して、大海原を眺め景色を楽しむ余裕が出てきた。
滞在時間約20分、対岸に到着。
車両運搬用コンテナから小型トラックの固定が外され、無事に対岸の陸地に辿り着いた。係員にロープウェーチケットを渡し、少し離れた場所で車を降りる。
「はぁ、怖かった。地面がある。大地だよ」
アワユキは何度も地面を踏みしめ、振り返る。普段住んでいる崖の街を対岸から眺める。海に囲まれた場所に隆起した巨大な崖。世界各地を探せば、地殻変動で大きな崖はあるだろうが、くり抜かれて人間と機械文明が住み着いた場所はどれくらいあるのだろう。普段、太陽光に当たらないため、軽い日光浴をしつつ、崖の街を見て思い
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