第8話 驚き
ゼンザイを探して、シルコが[薬草と酒]店内に入ってきた。さっそくシルコも薬草酒を飲んで酔いだす。
シルコはゼンザイの方を見て、話し出す。
「また、ここに顔出して、余計なこと話したんだろ」
「・・・ひどく酔いたい気分だったんだよ」
「酔えたのか?」
「シルコが飲めなかった一番強い薬草酒、真っ黒で香りが似てるんだ、ボクが統合移設に苦労した大森林の巨木群とさ」
「へ~、あの香りは種族問わず、脳が洗われたように清らかになる。アワユキさん、『ビル街に買い出し』って言ってたけど、どこのこと?」
「この崖の街から東の方に見えるビルが寄せ集まって生えたような場所です。薬問屋ビルに薬草店がいくつかあるので」
「あ~、ビル街って呼んでるんだ。ワタシは、あの場所『ナメコシティ』って名付けたよ。似てるだろ、寄せ集まった感じと、ヌメヌメした見た目が」
「おい、シルコ。ボクが統合した時に『シメジタウン』と決めたんだ。勝手に変えるなよ」
シルコとゼンザイが小競り合いを始め、お互いの両頬を手で引っ張りあった。アワユキは苦笑い、カジャクとサイプレスはウンザリした顔をしている。
隣にいるサイプレスが止めに入った。
「アンタら、いくつなんだよ!子供みたいなことして!大半の人間は『ビル街』とか『ビル群の街』の呼び名で通ってるんだよ。ビルが密集して、ひしめき合ってることには変わらないだろ」
「・・・二桁年齢しか生きてない人間に言われたくはないね」
「ボクらの行動と年齢は関係ないだろ」
「二桁年齢?なんだアンタら、その見た目で100歳超えてるような言い方だな」
「ふっ、ワタシは、5万319歳」
「ボ、ボクは、8213歳。まだまだ若手扱いされる」
サイプレスは驚きのあまり体が固まり、カジャクは薬草酒を吹き出した。アワユキは年齢比較の次元を超えていたのでケタケタと笑い出し、そのまま質問した。
「あはははははっ、お二方の年齢差すげぇ。それじゃ、ラクガンさんはおいくつ?」
シルコとゼンザイは顔を見合わせ、シルコが答える。
「ゼンザイは確か~、62万1475歳だったはず」
「うはははははっ、さらに上!上過ぎ!いひひひひっ」
アワユキは腹を抱えて笑っている。つられて、皆がニタニタと笑い出した。
「それじゃ聞きますけど、『管理者』とか『設計主任』って神的存在ってこと?」
「あ~、そのような存在はもっと高い別の所におられるので、軽々しくワタシたちが名前を出すこともおこがましい。・・・ん、ちょっと待って。さっきから当たり前に"統合"の話言ってるけど、いろいろ話したのか、ゼンザイ?」
「・・・気付くの遅いよ。どこかで話し伝えないと、人間文化での伝承や昔話の形にならないだろ。今日も機械生命体のために残したノジュールでごちゃごちゃ言われるし。統合が甘いとか、この崖の中に機械化石を集めて残しすぎってさ。他の世界が崩壊寸前で、たくさん寄せ集めたから巨大な崖を作ったのに」
「ゼンザイ、これって報告ものだぞ。覚悟できてるのか?」
「報告されたところで、どこの世界でもやってきた現地生物に話し伝えることをしたまでだよ。ただ、今回は旨い酒を飲みながらね」
アワユキが眉をひそめながら、シルコに聞いてみた。
「何か言っちゃいけない話をゼンザイさんが話されたのかもしれませんが、酒の席の独り言ってことにはならないんですか?」
「上司が、どう判断するか次第だよ」
「シルコさん、次、お見えになる時は、一番強い薬草酒をご用意しておきますので・・・穏便にお願いします」
「何だか買収されている気分だよ。処分下るかどうかは、分からない。さて、ゼンザイ、戻ろうか」
シルコはカウンターに前のめりになっているゼンザイの襟元をちょっと摘まんで、まっすぐ立たせた。
「ほら、今日はゼンザイが全部支払いな」
「んぁ~、分かった~よ。もう頭回らないから、皆の代金分を取って」
ゼンザイは黒スーツの内ポケットから分厚い札束をカウンターに置いた。
「はーい、必要分、受け取りまーす」
元気な掛け声でアワユキはお札を数え、代金を抜き取り、残りをゼンザイに渡した。
ゼンザイは札束を内ポケットに収めると、軽く手を振ってドアに向かった。シルコが先にドアを開け、店を出ようとした時、ゼンザイが振り返る。
「ラクガンに気を付けろ。"欲"を管理するものは、したたかだ。これをあげる。何か役立つだろう」
ゼンザイはアワユキに向かって、何かを指で弾いて飛ばした。カウンターに転がったのは、小さな指輪。
「は、はぁ。気を付けておきます。また、お越しくださ~い」
シルコは小声でゼンザイにブツブツ言い、ラクガンの右尻をギュッとつねった。ゼンザイは、ニ゛ャ゛ァ゛ァと奇声を発し、悶絶しながら帰っていった。
店内にいる3人は、軽くため息をついて、グラスを傾けた。
サイプレスがアワユキに言った。
「さっき投げられたのは、なんだ?・・・指輪?、ずいぶん小さくないか?」
カウンターに転がった指輪を手に取り、アワユキが答える。
「これはアタシの小指にも入らない大きさ。宝石が付いてるわけでもなく、銀色の指輪。紐でぶら下げてネックレスにでもしますかねぇ。おそらく人間ではない方からの贈り物なら、何かあるんだろうねぇ」
それに対して、カジャクが言う。
「しかし、アワユキは物怖じしないなぁ。あんな連中、気味悪くてしょうがない。話も訳分からないし」
「酔ってるからってのもあるけど、グラスを自由自在に変形させられると信じるしかないかなって」
「あ~、そうだよなぁ、手品のような道具をすり替えるんじゃなくて、形状を目の前で変えやがったからな。しかし、代金はしっかり受け取ったんだろうな?」
「そりゃ、もちろん。グラスの変形されると、何日か後に割れちゃうから、前回グラス割られた分も含めて多めに頂いております」
カジャクとサイプレスは『当然のこと!』と大きく頷いた。
それから、カジャクとアワユキは2日後にビル街へ向かうという予定を決めて、その日はお開きとなった。
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