第7話 ぶっ飛んだ話

 ゼンザイの『この世の仕組み』という独白を強制的に記憶に残るよう聞かされた3人。


 アワユキがゼンザイに薬草酒を作っている間に、サイプレスが質問した。


「あの~、ゼンザイさんだっけか?ちょっと聞くが、機械生命体ってその辺にいる機械文明たちのことだよな?今は仲良くやれてると思うが違うのか?」

「現状は共存共栄。この崖の街では良好な関係だと思う。他地域では少しこじれだした、とボクのところには報告が来ている」


「あ、そうなの?確かにな~、発掘されるものがロボット部品ばかりだし、車両は出てこない。最近、アワユキちゃんが質問したことと、つながるんだよな。『発掘されるのが産業廃棄物じゃないのか~』みたいに言ってたやつ」


 アワユキはゼンザイに新しい薬草酒を差し出し、話に加わった。


「そうそう。車のホイールが発掘現場から出てきてもおかしくないのにって思ったんですよ。しかし、ゼンザイさん、機械化石の存在たちは攻撃的じゃないし、そもそも、過去の争いって原因は何だったんです?」

「人間と機械生命体の資源を奪い合った。さまざまな世界でそれぞれ発展した武器というのがあって、生物が住めなくなるほどに汚され、壊滅した。どの世界でも燃え尽きた。だから、設計主任が自然環境すら壊してしまう物質を生み出さぬよう、人間と機械生命体の思考に制限をかけた。今からボクが複数ある物質の解説をしたところで、君たちには考えるということすら出来ないだろう。思考の制限により、頭に思い浮かべることも不可能だ」


「へ~、そういうのがあったんですね。ただ、現状、その物質とやらが想像できなくても、生活には困らないですけどね」

「うん、そうだよな」

「ないものは、いらない」


 3人の回答を聞いて、ゼンザイは『ブフッ!』と吹き出し、笑った。


「そうなんだよ、日々の生活には困らないんだよ。争いの種がないなら、気付きもしない。それなら、何故、他の世界では未だに争うんだ・・・」


 赤ら顔のゼンザイがカウンターに両手を置いて考え込みだした。


 その姿を見て、カジャクが言う。


「種は蒔かねば、芽が出ないだろ。蒔かれてんだよ、道具や対抗する手段が」


 ゼンザイがカジャクを見て口を動かしている。しかし、何か言いたいが言葉に出来ないようだ。

 また一口、薬草酒を飲み、深く息をする。そして、ゼンザイが言葉を発した。


「実は、他の世界でも争うことがないよう知的生物が生まれる時に、脳に細工をしている。しかし、相手を破壊できる道具が生まれてしまった。使い方が分からないのに。結果として、指示されたのか、興味本位か、道具を持ってしまうと使ってみたくなったようだ」


 ゼンザイは自分の髪の毛を掴み、悔しい表情をしていた。

 それを見て、サイプレスが言う。


「あのさ、ゼンザイさん。そもそもの話を聞くがさぁ、これまでの話をオレっちたちにして大丈夫なの?秘密事項ってやつじゃねぇのか?」

「本来はダメだろう。酔った勢いというのもある。ただ、他の世界がどんどん滅亡していって世界の存続が出来なくなっていてたくさん統合していく中、ひずみも生まれる。全く新しい世界を生み出すには、ものすごく労力がいる。だから、並行世界で生物を残していくのも大事なことだし、生き残すために統合世界を作ることも重要なんだ」


「それなら、オレっちたちは何のために作られたんだ?設計主任という奴が気まぐれで模型作るように配置したのか?」

「先々の遠い未来で、ボクらの代わりとなる存在が必要となる。高次元の存在にも寿命はある。考え方の違いもある。知的生物からその世界を存続できる者が現れるのを望んでいるんだよ」


「なんか腑に落ちねぇが、ぶっ飛んだ話とかグラスを目の前でイジくられると、簡単に理解できない事柄があるってことなんだろうな」

「短時間で理解できるのなら、ボクらと同等の存在だと思うよ」


 漠然と理解できそうで、『え、そんな話信じられな~い』という対応をするのもいいのかもしれないが、ぶっ飛んだ話が続いたことで[薬草と酒]店内では、どういう話題を振るべきか皆が困ってしまった。


 アワユキはグラスを洗い、その場を凌ぐ。何か動いた気がして出入り口ドアに目をやると、閉まっていたカーテンが開いていてドアのガラスから誰かが店内を覗いている姿が見えた。


 ギャァァァァァァ!


 その声で皆の体が硬直する。


「なんだよ!びっくりするだろ!」

「い、いや、ドアにカーテンあったのに開いてて、覗かれていると、びっくり・・・する・・・よ」


 カジャクがアワユキに言うと、皆がドアを見た。


「あ、シルコ」


 ゼンザイがトコトコと歩いて、ドアの鍵を開けた。


「やぁ、シルコ。飲みに来たのかい?」

「んんん、探したんだぞ!」


「貸切にしてもらってたんだよ、シルコも飲みなよ」

「反省しろよ。まったく、なんだよ。アワユキさん、強い酒、お願いね」


 ゼンザイの隣、入口側に長い金髪の姿が陣取り、カジャクとサイプレスは瞬時に理解した。


 『この人も、ぶっ飛んだ存在なんだろうな』と。


 アワユキは店内の薬草棚を確認すると、バタバタと隣にある薬草調合室に入っていった。しばらくして戻ってくるとシルコに伝える。


「一番強い薬草酒の材料が足りないんです。ゼンザイさんが飲まれた分が最後ですね。ビル街への買い出しで補充しないと。他ので良ければ、ある程度強めの薬草酒は出来ますよ」

「そうなの?それじゃ、赤い色を出せる強いのをお願い」


「お待ち下さ~い」


 アワユキは、あれこれと薬草棚から取り出し、いくつかの工程を経て、グラスに氷を入れ、鮮やかな赤い液体を注ぎ、シルコに差し出された。


「どうぞ、お待たせしました」

「ほほぅ、さらりとした感触だけど、キリッとした鋭い味わい。果実の甘さと酸味も後から感じられる。・・・内臓が焼ける感じ、すごいね」


 程なくして、シルコはニヤニヤし始め酔いだした。

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