第4話 地下の発掘現場

 アワユキは、サイプレスの作業依頼を受け、ターレットトラックにより地下発掘現場へ運ばれていく。


 車両用通路を下っていくと、1階が見えてきた。


 崖の街1階は、魚の加工場、船舶管理事務所があり、他には発掘された機械化石の買取所、小さな飲食店がある。崖の外には波止場が作られており、船からの荷物の積み下ろしが行なわれ、入れ替わるように漁船からの魚の積み下ろしも行なわれる。周辺の街と比べれば、崖の街は沖合にあるため漁場に近く、新鮮な魚が溢れている。なので、良く言えば潮の香り、違う言い方をすれば、非常に生臭い。


 アワユキは白衣の袖で鼻を塞ぎ、ターレットトラックは地下へ向かう。

 地下へ進む通路は下りが長く、それだけ深く掘られている。この地下は他の地域と比べ、機械化石ノジュールが大小関わらず豊富で多く発見されている。そのため、坑道の変化が激しく、地図を作ることが出来ない。人間が関わりだした発掘当初は坑道が整備されていたが、地下何階と階層を分けようと計画されたが、たびたび階層をまたぐ機械化石ノジュールが発見されたため、計画は中断し、地下1階の深さが増していった。

 現在は、車両用通路につながる道を緑色と白色の2色の線で塗り、目印とされている。


 15分ほど運ばれた先に、多くの人間と浮遊ロボが滞在する空間があった。天井は高く、壁に取り付けられた簡易照明の明るさでは、ぼんやりと天井が分かる程度。

 キョロキョロと周囲を見ていると、ハンドメガホンを持った男が近付いてきた。


 その男は、至近距離からハンドメガホンを使って話しだした。


「あ゛~、ガレキ撤去の緊急要員だな!そこの5名、こっちに来て、運転可能な作業ロボに乗って、運んじゃって!流れ作業だから、説明するより周囲の状況見て動いてくれ!」


 ガサガサした声で叫ぶ指示内容に、皆が眉間にしわ寄せながら、渋々歩いて作業用ロボの前に集まる。そこから見える作業内容は、大型ノジュールをむき出しにするため掻き出された土砂・岩石をリレー方式で少しずつ外に出していき、発掘が済んだ空洞へガレキを移動させる。

 人間が作業しやすいようショベルカーといった大型専用機械を導入している時期もあったようだが、大型船で崖の街へ分解して搬入し、地下坑道で組み立てる手間を機械文明たちが無駄な時間と判断したため、発掘用に作られた浮遊ロボ(改)が主力となった。また人間が操縦する作業用ロボは操縦席がショベルカーの運転席に似た見た目をしており、用途に応じて各種ある。発掘された機械化石ノジュールを支えるため、両腕両足が備わった人型タイプや両腕があり、前面に金属板を装着し土砂を運べる三角形の履帯を装備したブルトーザー型、機敏な動作を得意とする逆関節足の鳥型といったものがある。


 アワユキはブルトーザー型に乗り込み、起動スイッチを押し、モーター始動。そして、各種計器類を確認した後、キュルキュルと履帯が回りだすけたたましい音と共にガレキを運び出す列まで移動する。こぶし大の石は当たり前のように転がっており、それを車両の重さで踏み砕き、駆動部分を軋ませながら持ち場につく。

 撤去作業に入ると、流れ作業としてブルトーザーとして土砂の山を運び出し、大きい岩が出てくれば、ロボ右腕に装着された削岩機で砕き、手頃な大きさになったところで両手で掴み、運び出す。


 繰り返しの作業を行ない、気付けば3時間ほど過ぎていた。発掘作業の邪魔になっていたガレキ撤去が済み、操縦席の隙間から入り込んだ土埃によりアワユキの白衣も汚れが目立つ。


「おい、娘さんよ、地下での作業に白衣はマズかったんじゃないか?すんげぇ汚れてるぞ」

「斡旋所のサイプレスさんに着替える暇を与えてくれなかったんすよ。白衣脱いでも結局埃まみれになるし。洗濯代も手当に入れるよう要求します!」


 作業員の皆がこのやり取りを聞いて笑い、緊急作業依頼を無事に終えられたことに和んでいた。


 またハンドメガホンの男が近付いてきて、こう言った。


「今、迎えの車両が来るから、そのまま待機してくれ~」

「あ゛~ぃ」


 作業員たちは、しゃがれ声っぽい返事をして、坑道壁際に集まった。アワユキも移動して、ガレキ撤去された広い空間を見渡す。始めより明るさを強めた照明装置が大型の機械化石ノジュールを照らすのが見えた。そこには作業員とは別の姿も見える。アワユキは目をよく凝らして見れば、複数の浮遊ロボ(改)や何だか分からない機械文明たち、それに黒スーツ姿もあった。


 アワユキは、隣りにいる作業員に聞いてみる。


「あの、ちょっといいですか?」

「なんだい」


「でっかいノジュールの下に、黒い服の人たちが見えるんですが、何者なんです?」

「素性は知らないが、たまに現場に見に来てる。今、一人だけど何人かいるときもあったはず。あの人らがいると、浮遊ロボたちは自然と集まってくるんだよ」


「へ~、そうなんですねぇ」


 最近黒スーツと会話したことをアワユキはあえて言わず、世間話として話を終わらせた。

 それから、迎えの連結ターレットトラックが来たので、作業員たちは乗り込み、2階まで運ばれていった。


 2階の仕事斡旋所前では、先に戻っていた作業員たちが日当支払いを待ち受け、ごった返していた。アワユキも列に並んでいると、サイプレスが人をかき分けてやってきた。


「いや~助かったよ、アワユキちゃん!特別報酬だから、後から渡すよ。この列には並ばず、店に戻りな!」

「え?それじゃ、後ほど」


 アワユキは会釈して、自分の店に帰ることにした。

 その光景を見て、作業員たちがサイプレスに言った。


「おい、サイプレス、早く日当くれよ!燃料切れなんだよ!」

「うっせぇな!あんたら、今日は日当多いんだ、キチンと数えなきゃならねぇだろ!丁寧に仕事させろよ!なんだ、今日は3階で飲むのか?」


「いや、今日は4階で豪勢にイイもん食って、飲むんだよ!」

「はっはっはっはっ!飲みすぎて、掃除ロボに運ばれるなよ~」


 この日は、大型機械化石ノジュールの発見に対して、事前に高報酬が約束されていた。調査・解析結果が余程状態の良い機械化石だったのだろう。

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