第3話 急なお手伝い

 一人任された薬草店でコツコツと努力を続けるアワユキ。


 薬草店は日中、必ず忙しいわけでもなく、簡単なバイトをして日銭を稼ぐこともある。整備工のカジャクの依頼で機械化石の発掘作業をロボット操縦で手伝うこともあるが、それもまた頻繁にあるものでもない。なので、仕事斡旋所の掲示板を見ることが生活のために重要なこと。他の崖の街の住民にとっても同様である。


 仕事斡旋所は、崖の街2階と3階にあり、2階は主に力仕事、3階は軽作業の求人を紹介してくれる。アワユキは崖の街から離れた通称:ビル街と呼ばれる地域に薬草仕入れに行く際、3階にある掲示板を見て、ビル街方面への配達業務を探し、複数の依頼を受ける。


「話のネタにもなるので、2階のお仕事掲示板も確認しとかないとね~」


 アワユキは、空いた時間に仕事斡旋所へ行った。薬草店から右に曲がり、吹き抜けになった発掘後の大規模竪穴を眺めつつ通り過ぎ、しばらく進むと車両用通路の外壁が見える。その壁を利用して、求人募集をかけている仕事依頼が貼り付けてある。板はないが、壁を掲示板と皆が言い出し、そのまま呼び方が定着した。

 掲示板にある仕事内容は、機械化石発掘や発掘作業で出た瓦礫を運び出す作業、発掘作業用ロボの運転操縦者、発掘された機械化石のこびりついたごみ取り・研磨作業。


 ぶつぶつ言いながらアワユキが掲示物を読み込んでいると、野太い声で話しかける者がいた。


「よぉ~、アワユキちゃん。条件に合う求人あるかい?」

「こんちわ、サイプレスさん。眺めてるだけですよ。まだまだ、この崖の街で分からない事多いんで、求人内容がピンとこないんです」


「ん、そうか?やる事、決まってるけどな」

「あ~、専門用語というか、謎というか。まず、機械化石って、機械部品?がれき?が出土してくるのって、単に産業廃棄物ってことじゃないんっすか?」


「はっはっは、ウチの若い衆と同じこと聞いてくるなぁ。それは、崖の街の歴史と関係してくるんだよ。その昔、陸地から離れたそびえ立つ崖に飛行・浮遊するロボットが群がってたんだ。それから穴開けて掘り出し始め、それが何年も続くんだ。ある時、嵐が来て、この崖に避難した漁師たちが、この大規模空間を発見した。ロボットや機械が、この崖の中で生活してたんだよ。整備や補修といった機械たちには当たり前のメンテナンス作業だろうけどよ。その光景を見た漁師たちが、『機械やロボットたちが文明を築いている』と後に語ったところから"機械文明"って表現が広まったんだよ。だから、崖の街のロボットや機械たちは、"機械文明の存在"って言い回しをされる」

「そういう経緯があるのかぁ。で、機械化石とは?」


「さっき、産業廃棄物って言ったろ?それなら、ただ埋まっているだけ。化石って呼ぶのは、通常の生物化石ってノジュールと言われる化石を覆って固まった塊で見つかる。大きなノジュールが見つかって、丁寧に砕いていくと、その中身がロボットや機械の部品だったんだよ。だから、"機械化石"って呼ばれるようになった。同じ機械でも、車のドアとか車両部品が出てくることがない。腕や足といった部品が見つかるんだが、ま、ほとんど壊れててそのままじゃ動かねぇ。だから、機械文明の連中は人間から買い取って溶鉱炉に運ぶ。崖の街から北方面見ると、煙突見えるだろ?あそこに持ってって、溶鉱炉の隣りにある工場で、新たな機械文明の存在として生まれ変わるわけだ」

「人の手を借りてでも発掘したい重要な事。その機械文明って、元々この地域にはいないですよね?発祥とか知ってます?」


「知らねぇ、というか分からないことだよな。オレっちが、ガキの頃に習ったことって今通用しないんだよ。昔は、他の惑星から来たのが機械たちって教えられて、今は、地底から出てきたとなっている。機械化石がいろんな所から出土しているからだと。そんなわけねぇよな~って思うけど、証明出来ないし、気にしてない」

「あっはっはっは、いずれ分かるんでしょうね」


 サイプレスはアワユキに説明した後、従業員に呼ばれ、仕事斡旋所の事務所に戻っていった。


 それから、アワユキは掲示板を順番に見た後、自分の店に戻ろうとした。


「ちょ、ちょっとアワユキちゃん!緊急依頼受けてくれないか?人手が足りねぇんだ」


 サイプレスが慌てて事務所から飛び出して、アワユキを呼び止めた。


「何なんですか?アタシは薬草店の仕事あるんですよ」

「それがよ、地下の発掘場所で大型ノジュールが見つかって、ガレキ除去が追いついてないんだって。機械文明の存在たちが異様に集まってて、『急イデ、急イデ』って報酬増額を釣り上げたんだと。気が変わらないうちに作業やらなきゃならねぇ」


「そうは言うけど、斡旋所の周りには作業できそうな人たちがいるじゃないですか」

「・・・ここだけの話、今残ってる連中は仕事が雑。時間に余裕があるならアイツらでいいが、今は違うな。どうよ、頼めねぇか?」


 アワユキは、ほんの数秒の間に思考を巡らせる。


 [ アタシの運転技術を買ってくれてて、声をかけてくれている ]

            ↓

 [ 大型ノジュールって、実は見たことなくて、その発掘に関われる ]

            ↓

 [ サイプレスさんは、即金で支払ってくれる ]

            ↓

 [ とりあえず、プラス要素しかないのでは? ]

            ↓

          >> わぉ! <<


 アワユキは、サイプレスに返事をした。


「着替えてから、また戻ってきます!作業参加するので、お待ち下さい!」

わりぃ。即、移動だ」


「いやいや、アタシ、白衣着たままなんですけど・・・」

「ん、そうだな。現場で『アワユキ来てんじゃん』って理解が早まるから、問題なし。ほれ、行くぞ」


 サイプレスは、あれこれ抗議するアワユキの左腕をそっと掴んで、仕事斡旋所前に誘導した。

 仕事斡旋所の建物前には、ターレットトラックという荷台に操縦する円筒形がくっついた運搬車が5台連結された状態で待機していた。


 地下へ向かう作業員の数を確認したサイプレスは、アワユキにヘルメットを渡すと最後尾に乗り込ませ、安全ベルトを装着させた。


「アワユキちゃん、ご安全に!はははっ!」

「何、笑ってんのよ!戻ってきたら、そのモミアゲ削り取ってやる!」


 アワユキの叫びが響く中、ターレットトラックは、ゆっくりと地下発掘場所に向かって行った。

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崖の街、白衣と黒スーツ まるま堂本舗 @marumadou_honpo

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