やることはやる私たちの話

@vast_dahlia

まさか

まさか両想いになれるとは思わなかった

夢じゃなかろうか、と私は今でも思う


「ふ・・・」

息継ぎをしながらキスをする

好きな人とのキス

ああくそ、と思う

なんでこんなに幸せなの

キスすれば少しは夢が覚めて冷静になれるかもしれない、なんて思った私のバカ

「・・・」

じっと私を見つめる彼と目が合う

何か、私に怒っているような、それでいて切ない瞳で

「なに?どうしたの?」

「・・・嫌か?」

「は?」

「俺とキスするのは、嫌か?」

何言ってるんだろうこの人

「なんでよ?嫌だったら私キスなんかしないよ?」

「・・・」

「本当だよ」

「じゃあ、続けていいか?」

「うん」

告白してまだ数日しか経ってないのに、このキス

告白前の私が見たら、どう思うだろう

ごめんね

困ったね私

すごいよ本当に好きな人とするキスって

どうしよう

すごく幸せ

かなわなければ良かった、私の恋なんて

「かすみ」

不意に名前で呼ばれる

告白してから、数日前まで、私を呼び捨てにすることにどこかためらっていた彼が、今までの分を取り戻すみたいに、私の名を呼ぶ

「・・・なに、賢人」

私もこの人を呼び捨てにする

私の呼び捨てはこの人が生まれてからずっとだ

でも、告白前とは違って、気持ちを込めることに罪悪感が薄まっている

このままずっと一生お互いを呼び捨てにしたい

そうしてほしい

「かすみ・・・いいんだな?」

「・・・何が?」

「俺とこのまま、その」

ああもうそんなこと聞かないで

「女を抱く時いつもそんなこと確かめてるの?」

「・・・」

あ、黙った

こいつ肯定してる、そうなんだ

腹立つ

・・・この人は何も悪くないのに、腹立つ

私は腹立てる立場じゃないのに

この人に愛する人ができたらそれを喜ばないといけないのに

でも、誰も愛さないで、ずっと一人でいてほしいと私は願ってきた

全然、偉そうなことを言えない私

「・・・ちょっと、黙らないでよ」

「・・・お前で最後にする」

「は?」

「お前で最後にするから、俺」

二十歳かそこらでそんなこと言ってもあまり説得力が

・・・すごい、泣きそうな目

「・・・嫌か?こんなこと言われて」

「・・・すぐ『嫌か?』とか聞くのやめてくれる?」

「・・・」

「そんなことよりさっさと」

さっさと、なんだろ?

菜に口走ろうとしてるんだ私

いやそりゃすることするつもりだけどさ

こんなこと言う女だと知れたらさすがにこの人も私を嫌いに、嫌いに・・・

「そうだな、もうそんなこと聞くのはやめよう、それより

そう言って、私に少し強引にキスをする

「お前を抱く、抱かせてもらう、もうお前の返事は聞かない」

「うん、そうして、もう聞かないで

嫌ならとっくにそう言ってるから」

「・・・」

ためらいから、まるで、私を睨むような目に、変わった

まるで私を怒っているよう

「服、ちゃんと脱ぐから、待って」

「わかった」

これから、服を脱ぐよりもっとすごいことをすると言うのに、私は彼がじっと見てる中服を脱ぐという行為が、こんなにも恥ずかしい物だとは思わなかったと思いながら、できるだけ平気なふりで、服を脱いでいった


全部脱いで気づいた


「あなたも脱いでよ、あたし一人裸にしないで」

「ああ、すまない」


あなた、って言ったこと、我ながら恥ずかしくなった

気づいたろうか、この人は

いそいそと自分の服を脱いでいる様子から全然気づいてないようなのがわかる


ああ憎たらしい


私はこんなにもあなたの反応一つ一つに怯えているのに



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