第16話 木々の帝国

 魔王の魔法によって馬車が壊されてしまったため、俺たちは一旦、王都へと戻った。三頭の馬の背中に乗せてもらって、もと来た道を駆けて戻ったのだ。


――魔王め、島の温泉を訪れた時に、商人のおじいさんの損失分の弁償をさせてやるっ!!


 といった俺自身の憤りや魔王についての恐ろしさを、アナスタシアと商人のおじいさんと話題のネタにしながら、新しい馬車で森の近くの村へ。


 おじいさんとは、しばしの別れだ。



 俺とアナスタシアは、その足で森へと踏み入った。


「枝が邪魔だな……」



 森は、想像以上に歩きにくかった。木々が生い茂っていて、枝葉が行く手を阻む。ときおりスライムや殺人熊などの野生の魔物と遭遇する。だが、そういう戦闘は、アナスタシアに任せきりだった。


「中位階位風魔法、カマイタチ旋風!!」



 アナスタシアの魔力が引き起こした暴風は、風の刃となって発現し、殺人熊の体を周囲の木々ごと切り裂いた。枝葉は四方八方に飛ばされて、太陽の光が覗いた。


――やっぱりすごいな、魔法って。使い方次第では、温泉旅館の建設にも活用できそうだ。



「いてっ」

「だ、大丈夫?気をつけてね」


 さらに深い森の緑の中を突き進んでいると、アナスタシアが木に頭をゴツンとぶつけた。すると、木の幹に亀裂が走り、ドサッと豪快に倒れてしまった。


 これが、石頭エルフ系ヒロインの頭の固さか。


 頭突きだけで、魔王を倒せてしまいそうだ。


「アナスタシアの頭が強いのも、魔法の効力のおかげなの?」

「いいや、違うよ」


 木にぶつけた側頭部をさすりながら、アナスタシアは首を横に振った。その末尾に「生まれつきだよ」と付け加える。



 生まれつき……?


「そ、そういう体質なのか。そうか、そうか……」



 坑道で爆裂魔法を放った時に、崩落した天井の大岩が頭に直撃しても、彼女はたんこぶを膨らませるだけで、ピンピンしていた。大岩よりも固い頭なんて、ありえるのだろうか……


 いや、深く考えるのは止めよう。ここは「異世界」なのだから、いかなる怪異も受け入れなくてはならない。



 木の枝葉をナイフで斬って払って、森をしばらく歩いて、いよいよ日暮れが近くなったとき、開けた場所に出た。


 周囲には、木造の家屋や石造りの鍛冶屋らしきものが散見される。



――紆余曲折あったが、無事に、ドワーフ族の住む村に辿り着いた。



「あ?お前さんたち、どこから来たんだ?」


 さっそく、村人と思しきドワーフ族に話しかけられた。俺は、アナスタシアを隣に伴って、ペコペコと頭を下げた。



「こんばんわ。突然ですみません、わたくし、王国の東のガストフ島というところから参りました、アリマと申します」

「こんばんわ。アリマのお供の、アナスタシアと申します」


 眼下のドワーフ族のおじさんは、頭をポリポリと掻いた。



 ドワーフ族は、みな、背丈が小さい。俺は、身長が168cmだが、彼らは、俺の胸のあたりに頭のてっぺんがある。今回接触したおじさんは、立派な髭も髪も赤毛で、小さい体躯ながら腕や脚は、ガッシリとしていた。背中には大きな斧を携えている。


「用事があって来たんだろ?まあ、そろそろ夕食時だから、長話なら、オレの家に上がってするんだな」

「よろしいのですか?」

「ああ。こっちだ。ついてきてくれ」



 俺たちは、ドワーフ族のおじさんの小さく広い背中に導かれ、ある一つの木造の小屋に招かれた。

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