第11話 裏界
「ぼ、僕が次期天使神王候補って?どういうこと⁉僕は人間だ神なんかじゃない⁉それにここはどこ⁉」
空は困惑していた。
それもそうだろう。いきなり自分は神の子で次期天使神王候補なんて言われて冷静になれる方がどうかしている。
「あゝそのお顔!たまりませんわ!」
セフィエルは興奮しながら言う。
「と……とにかく僕は帰らなきゃいけないんだ。」
空が叫ぶように言う。
「そうですわね。順を追って説明いたしますわ。」
セフィエルが落ち着きを取り戻し、話し始める。
「ここは裏界、わたくしの♡空様は神であり次期天使神王候補ですわ。以上ですわ。」
とセフィエルは締めくくる。
「え?待って!説明が雑すぎない!?」
空は思わず突っ込みを入れてしまう。
「あゝ𠮟責される空様もたまりませんわ❣」
するとセフィエルの背中から羽が生えてきた。
それは天使が持つ白く美しい翼だった。そして、その羽をパタパタさせて浮いてみせたのだった。
「これで信じてくださいました?」
とセフィエルは笑顔で言った。
空は驚きで開いた口が塞がらなかったが、なんとか声を絞り出した。
「わかった、わかったから、あのさ……羽仕舞ってもらっていいかな……あと服着てくれないかな…」
「あら?ごめんなさい。つい興奮してしまいましたわ。」
セフィエルは翼をしまい込むと元の場所へ腰を下ろす。
そして空を見て言った。
「ここがどこか理解できましたよね?」
「……裏界って言ってたね。つまり僕は死んだってこと?」
空は恐る恐る聞く。
するとセフィエルは首を横に振りながら、
「それは違いますわ。あなたは死んでいませんし、ここは死後の世界でもございませんわ。ここは裏界という表世界と対をなす存在。紙の表裏のようなものですわ。だからといって表世界、わたくしたちは現世と呼んでおりますが現世と裏界は一心同体ではなく別物なのですわ。」
とセフィエルが説明する。
「ちゃんと説明できるなら最初からしてよ…」
と空は呆れ顔で言った。
「まあ簡単に言えばここは天国でも地獄でもない表世界の裏側の世界だよ。ってこと?」
と空がまとめるように聞いた。
「その認識で間違いないですわ。流石、空様の理解の速さに感服いたしましたわ♡」
とセフィエルも肯定する。
「それで、僕が神であり次期天使神王候補ってどういうこと?100歩譲って神とか天使とかがいるのは信じよう。何度も言うけど僕は人間だ。」
と空は疑念の目をセフィエルに向ける。
「かつて今の現世の前にも現世があったのですわ。旧世と呼ばれるものでその旧世で旧世の空様、空・バーリエル・テトラト様は旧世が滅びた時にお亡くなりになられました。あなた様はその生まれ変わりなのですわ。空様の所持する特性【転生呪】によって旧世の記憶がない状態で新たな空・テトラト様として生まれ変わったのです。」
とセフィエルは空の目を見つめながら言った。
「僕は僕の生まれ変わり…ややこしいな」
と空は考え込む。セフィエルは相変わらず空をまじまじと見つめている。
「セフィエルさん」
「あゝ❣空様がわたくしの名を❣❣わたくしのことはセフィエルとお呼びください。」
「…セフィエル」
「はい❣」
「その話が本当ならセフィエルはいったい何歳なんだ?」
「乙女に年齢を聞くだなんてひどいですわ❣でもその勇気❣愛おしい♡勇ましい♡疼きますわ❣」
「僕の質問に答えてよ。」
セフィエルのテンションに空はうんざりしながらも突っ込む。
「失礼いたしましたわ。裏界の生き物に明確な年齢という概念がございませんわ。でも、旧世が滅んだ時に肉体の再構築がありましたので肉体年齢は人間でいうところの30歳でしょうか…。皆、肉体年齢は違うと思いますわ。わたくしはありませんでしたけれど精神年齢も再構築されたときの肉体年齢に引っ張られているものもいますわ。実年齢は現世の数え方で旧世をふくめ約100億歳といったところだと思いますわ。」
とセフィエルはすらすらと答える。
「ひゃ、100億歳って……」
空は絶句するしかなかった。
「そ、そうだ!イリア!イリアのことは知ってるのか?イリアは自分が何者なのか記憶が無いんだ。長く生きているセフィエルなら何か知らないか?」
と空はイリアのことを思い出し、セフィエルに尋ねる。
(あの時の頭痛と共に見えた景色、あれがもし旧世の僕の記憶だとしたら、あのイリアに似た子がもしイリア本人だとしたら、セフィエルなら何か知ってるはず。)
「それはあの少女のことですか?それともイリア・イリシアス様のことでございますか?」
とセフィエルは答える。
「知ってるのか?」
空が身を乗り出す。
「イリア・イリシアス様。旧世の書庫の管理人という旧世の世界そのものの記憶を書庫として管理していた神よりも上位の存在ですわ。ですが旧世が滅びたと同時にその命を失われましたわ。ですので空様の言っているイリアという少女についてはわかりませんわ。」
「でも荒暫ってやつはイリアのことをイリア・イリシアスって呼んでた。」
「容姿が酷似していましたから見間違ったのではないかしら。あの獣人も旧世から生きている存在ですから。」
とセフィエルが答える。
「そうか…」
と空は肩を落とす。
(セフィエルの言うことはおそらく本当だろう。だとすればイリアが何者なのか、それはまだわからないってことか)
「本題に移ろう。僕はどうしたらいい?次期天使神王候補として生きればいいのか?それともまた別の何かか?」
空が質問する。
「わたくしとしては次期天使神王候補として力を取り戻して欲しいですわ。ですけれど、決定権は空様にございます。わたくしは空様の意向に従いますわ。」
とセフィエルは答える。
空は数十分考えると、
「わかった。セフィエルの提案にのるよ。でもイリアのことが優先だ。イリアの記憶を取り戻すのが先だ。」
空が力強く宣言する。
「あゝなんて勇ましい♡素敵ですわ♡」
とセフィエルは悶えるのだった。
(この天使……ちょっと怖いな)
空は心の中で思ったのであった。
夜、1泊だけさせてもらうことにした空はぐっすりと眠っていた。
(あの時、とっさにイリア・イリシアスと言ってしまった。でもあのマナ間違いない、イリア・イリシアスのもの。何故生きているの何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?)
「あゝ妬ましい憎たらしい恨ましい!あの泥棒猫…許さない。」
この時の空はこの出会いがこの先起こりうる事態を知る由もなかった。
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