第10話 空・テトラト
「イリアを傷つける奴は何者だろうと殺す。」
空は威風堂々、そう言い放った。
「姿が変わったからなんだと言うのだ。すぐに殺してやろう。」
と荒暫は空を嘲笑う。
しかし、その余裕も一瞬で崩れ去ることとなる。
猛は空の動きに驚いていた。
(なんだあれは?速すぎる……)
先ほどまでの空では考えられないほどの速さで荒暫の目の前に移動していた。
そして、空は目にも留まらぬ速さで連撃を繰り出す。
「ぐはっ……」
荒暫は反応しきれず攻撃を受けてしまう。
空は追い打ちをかけるようにさらなる連撃を荒暫に浴びせる。
「調子に乗るなよ!人間!」
と荒暫は咆哮で空を吹き飛ばす。
空は空中で1回転し地面へ着地する。
「我はこんなところで負けるわけにいかないのだ!」
荒暫が怒りを露わにする。
「髄狼様、我のこの行いにどうかお許しを!この戦いに勝利し必ずやあなた様を復活させてみます!ですから今だけそのお力をお借りいたします!」
と言って右手にゆらゆらとうごめく火の玉のようなものが出現する。
そして荒暫はそれを喰らった。
「う、ぐぅ……ぐあああ!」
荒暫が苦しみだし悶えはじめる。
そして禍々しいマナの量がどんどん上昇していくのが分かる。
煙を上げ体は小さくなり獣の姿が人へと変わる。
「髄狼様の力をお借りした我に殺されるがいい。」
荒暫がそう宣言し、空に向かって突進してくる。
荒暫は突進の勢いのまま攻撃してくる。
空はそれを難なく避ける。
だが、荒暫は攻撃の手を緩めない。
激しい攻撃を繰り返す。
だが空はそれをも難なく受け流していく。
「まだだ!」
荒暫は攻撃の手をさらに速めていく。
だが、空はそれを躱し続ける。
そして空は一瞬の隙を逃さず膝蹴りで荒暫が宙に浮くと回し蹴りを食らわせる。
荒暫は壁まで吹き飛び、壁に激突する。
「ば……かな……」
荒暫はもう動けそうになかった。
そして、空がゆっくりと歩み寄る。
「ま……待て。取引をしようじゃないか。イリア・イリシアスは返す。だから見逃してくれ!」
荒暫は苦し紛れにそう提案する。
「お前、何を言ってるんだ。」
空が冷めた声で返す。
「お前は死ぬしかないんだ。イリアを傷つけた理由はこれだけで十分だ。」
空はそう言い放ち拳を握りしめた。
「待ってくれ!頼む!何でもするから……だから……」
空は何も答えない。
そして拳を振りかざす。
次の瞬間、空は力が抜けた感覚に陥る。
「あれ?僕は何を…」
空の姿は元に戻っていた。
それと同時に頭痛が押し寄せる。
まるで脳が焼き切れそうなほどに。
「う……あ、ああ……」
(なんだこれ…記憶?でも僕が知らない景色、それに誰だ…イリアに似てる…)
「どうやら時間切れのようだな。」
荒暫がそう言いながらボロボロの体で近づいてくる。
「空、避けろ!」
猛の叫び声が響く。
しかし、空は頭痛が収まらず動けない。
荒暫が空の首を片手で掴み持ち上げる。
「ぐっ……」
空の口から呻き声が漏れる。
「小僧、我をコケにしたことを後悔しながら死ぬがいい。」
と荒暫が言い、空いている方の手で空を刺そうとする。
だが、
「そこまでですわ。」
と現れた女性が荒暫の腕を掴み止める。
そして、いつの間にか空は解放されていた。
「お前は…⁉ならばこの小僧はまさか!そんな馬鹿な。」
と荒暫は慌てふためく。
「荒暫、あなたを裏界法に従い死刑とします。これまでの暴挙は目に余りますわ。」
と女性が告げる。
「ふざけるな!たかが天使の分際でその行いが許されると!…」
黙れと言わんばかりに女性はどこからか取り出した剣を振ると荒暫の頭が転げ落ち絶命した。
荒暫が死んだことで動けるようになった猛が気絶した空を抱える女性のもとに近寄る。
「まずはありがとう助かった。」
「それほどでもありませんわ。わたくしは主をお守りしただけでございます。」
「そ、そうか。ところで名前は?」
「わたくしは名乗るほどのもではないただの天使ですわ。」
と女性は答えた。
「元の世界に戻りたいのでしょう?わたくしが帰してさしあげます。」
「そうか。それは助かるよ。」
「ただ、しばし空様をお借りいたしますわ。あなた様はイリア様を連れてお戻りなって。必ず空様もそちらにお返しいたします。」
と言いながら女性は不思議な力でイリアを開放すると猛に託す。
猛は頷きイリアを背負うと女性が創り出した空間へと入り消えていった。
____________
「イ、イリア…」
空が目を覚ます。
視界が段々とはっきりすると自分が仰向けだったことに気づく。
見たことのない天井に不思議さを感じながら状態を起こすと体の痛みが消えていることに混乱する。
「あれ、傷がない。」
空は体の状態を確認しながら、周囲を見渡す。
ふかふかのベッド、きれいな部屋、後ろに真っ裸の女の人。
「……⁉」
空は驚きで飛び上がるようにベッドから降りる。
「あら、わたくしの膝枕はご不満でしたか?」
「聞くことそれじゃないでしょ。いい眠りだったけど。ここはどこなんだ、君は誰なんだ。」
と空は問いかける。
「あゝわたくしにわたくしの名を名乗る権利をくださるなんて、なんて慈悲深いお方。」
女性はベッドから降りると。
「わたくしは裏界第2区界 天庭 座天使階級 セフィエルにございますわ。」
薄い肌色の肌、澄んだ紫色の瞳、薄い黄色のミディアムヘアー。何といっても頭に浮かぶ特徴的な六芒星の天使の輪。セフィエルと名乗る天使は深々と礼をした。
「またこうして再びあなた様にお会いできたこと感激の頂点ですわ。我ら天使を統べる神の子であり次期天使神王の候補神。空・バーリエル・テトラト様。」
セフィエルは恍惚の表情で空を熱っぽく見つめながらそう言った。
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