第8話 獣変黙示録 其之壱
夜になり、空とイリアは蒼の部屋にお邪魔していた。
「2人とも今日はお疲れ様。」
と蒼は言う。
「いえいえ、蒼さんのおかげです。」
空は答える。
「ありがとうございます。」
イリアも続けてお礼を言う。
「いいのよ。気にしないで。」
蒼は笑顔で答える。
「さて、明日からは本格的に調査を始めましょう。そのためにも今日はしっかりと休みなさい。」
蒼が切り出す。
「はい。」「わかりました」
2人は答え仮部屋に戻り就寝した。
______
1月25日
名古屋:空、イリア、蒼視点。
翌日、猛主導のもと本格的に解決にいそしむ。
猛の指示で空、イリア、蒼は先日新たに襲撃された場所の調査を行う。
猛と律那は別の場所で調査を行っている。
「被害者は平田誠也さん(54)と妻の平田多恵子さん(52)。」
と蒼は詳細を話す。
「2人とも死亡が確認されています。死因は頭と体を切断されて即死だったようね。被害者の血液から微量なマナを検出しました。被害者とは違うマナだったから獣人族のマナね。」
と蒼は続ける。
「ん?なんで被害者と違うマナってわかったんですか?」
と空は聞く。
「あぁ、それはね……」
蒼が説明しようとしたその時だった。
「やめて!離して!」
先ほどまで空の隣にいたはずのイリアの助けを求める声がする。
空は咄嗟にイリアの声がする方へ視線が向く。
そこには捕らわれたイリアと全身が赤い獣のような体毛に覆われた二足歩行の生物、獣人だと2人は確信した。
「イリア!」
空は獣人の方へ向かおうとする。
「動くな。」
と獣人は空と蒼に向かって言う。
「動いたら、殺す。動かなくても殺すがな。」
獣人は2人を牽制するように言う。
「……っ!」
空は獣のような目に睨まれ一瞬萎縮してしまう。
「あなたの目的は?」
と蒼は動じていない様子を見せる。
「それを言う必要はない。」
「なら、イリアを離せ」
空は叫ぶ。
「断る。」
獣人は淡々と答える。
「なら力ずくで聞くわ。」
蒼はそう言って臨戦態勢をとる。
「人間風情が威勢がいいことだ。」
と獣のような目をさらに鋭くし、2人を威圧する。
「さあ、かかってこい。」
獣人は不敵な笑みを浮かべ手招きする。
蒼は一瞬の硬直を見逃さなかった。
すぐに獣人の背後に回り蹴りを入れる。
だが、獣人は蒼の蹴りを片手で受け止め、そのまま蒼の足を掴み投げ飛ばした。
「っ!」
蒼は受け身を取りすぐに体勢を整える。
「人間にしてはやるようだな。」
と獣人は笑う。
すかさず空も獣人に〈霊豪〉で強化した拳を繰り出すがそれも片手で受け止められる。
「ふん、この程度か。」
獣人は余裕そうに鼻で笑うと空の拳をつかみ引き寄せると蹴りを入れる。
「ぐあっ」
空は飛ばされ地面を転がる。
「空!離して!」
イリアは必死に獣人の腕の中で暴れ抜け出そうとする。
「騒ぐな鬱陶しい。今ここで殺されるのがお望みのようだ。」
と言って獣人は鋭い爪を振り上げる。
「だめっ、やめて!」
イリアが必死に抵抗して獣人を止めようとするがその程度で獣人が止まるはずがない。
そして無情にも獣人の爪はイリアめがけて振り下ろされようとしていたその時だった。
突如イリアの周りに発生した電流がその手をはじく。
獣人は驚くがすぐに冷静になる。
「〈霊重〉の結界か。なかなかのものだな。だが荒暫様ならものともしないだろう。」
そう言って獣人はイリアを見据える。
「貴様たちと戯れるのはここまでだ。この小娘は連れていく。」
獣人の後ろに異空間が出現する。
獣人はイリアを連れてそこに入る。
「待て!」
(霊豪を足に集中させろ!)
空は走り出し閉じていく異空間へ飛び込んだ。
「待ちなさい!」
静止する蒼の声は間に合わず、空は異空間へと消え去った。
______
「ここは…」
空が飛び込んだ異空間の先には見たことのない空間が広がっていた。
踝まであるだろう鮮血に染まる水が広がり獣臭さと血生臭い臭いが鼻につく。
空は辺りを見回すがイリアとあの獣人はいない。
代わりに空を囲うように獣人が3体いた。
「イリアはどこだ。」
空は獣人たちに問いかける。
「これから死ぬ貴様が知る必要はない。」
獣人はニヤっと笑いながら答える。
「なら力ずくだ!」
空はそう宣言する。
すると、獣人たちは空へ襲いかかる。
だが空は落ち着いて対処していく。
相手の動き、足の運び方を観察していく。
(獣人は身体能力が高いな。だけど、対応できないほどじゃない!)
空は冷静に判断すると殴りかかってくる獣人の鳩尾を狙い拳を突き入れる。
「ぐ……がぁ……」
獣人はうめき声をあげその場に倒れる。
空はそのまま別の獣人にも殴りかかる。
しかし、その攻撃は横にいた獣人に受け止められる。
(速い!)
空は驚きつつもすぐに後ろに飛び退くと距離を取る。
すると、先ほどまで立っていた場所に獣のような爪が振り下ろされる。
間一髪で避けるも避けられたことに苛立ったのかもう一人の獣人が牙をむきだし向かってくる。
2体の鋭い一撃を交わし反撃の蹴りを入れる。
「ぐぅ……」
1体目と同じ箇所に命中し2体目もその場に倒れる。
残るは1体。
「ひ、ひぃ」
獣人は怯えて後ずさる。
空は逃がすまいと詰め寄り蹴り倒し足で押さえつける。
「逃げられると思うな。イリアをどこに連れて行った!」
と空は問いかける。
「そ……それは言えない」
と獣人は震える声で答える。
「そうか…」
空は力を込めて踏みつける。
「が……ああああ」
獣人は悶え苦しむ。
空は無視してさらに力を込める。
「ああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
という悲痛な叫びと共に獣人の胸骨が砕ける音がする。
空は普段からは考えられないほどの怒りが溢れている。
「イリアはまだ知らないことが多いのに怖い目に合わせやがって…」
空はそう呟きさらに体重をかけ骨を砕く。
「あ……あぁ」
獣人は呻き声をあげ動かなくなった。
「死にやがって。まあいい、早くイリアを見つけてここから出ないとな……」
空はイリアを探そうと異空間を歩き出そうとしたときだった。
「空!」
突然の声に空は臨戦態勢をとる。だがそれもつかの間、空は臨戦態勢を解いた。
「隊長どうしてここに。」
空の前に現れたのは長野で渾亡律那と調査中のはずの天紋路猛だった。
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