第2話 白銀の少女Ⅱ

「ただいまー」

玄関で靴を脱ぎ捨て買い物袋を置くと少女をリビングのソファーに寝かせる。

(まずは傷の手当かな……)

救急箱から消毒液とガーゼを取り出すと傷を手当し始める。

(1週間は安静にさせなきゃな……)

傷の手当が終わり少女を空がいつも使っているベッドに寝かせると空はようやく夕飯にありつけた。

(やっぱり鍋は美味いなー)

少女のことが気になって仕方がないが今は腹を満たすことにした。

食事を済ませた空は少女の様子をみる。

傷の手当をした後も目を覚ます様子は無くずっと眠っている。

(……そろそろ風呂入るかな)

******

 空が風呂から上がると少女は目覚めていた。

「お、目覚めたんだ。」

空が少女に声を掛けると少女は周りを見渡す。

「ここは……」

空は少女の声に答える。

「ここは僕の家だよ」

と答えると空は少女のいるベッドの脇に座る。

「……ぁ……」

掠れたような小さい声で少女は話す。

(まだ、声がかすれてるのかな……)

そう考えていると少女が質問をしてくる。

「あの……あなたが私を助けてくれたの?」

「うん、そうだよ。」

「ありがとう。」

と少女はお礼を言うがすぐに何かに気づいたように少女は問う。

「えっと……その……あなたのお名前は……」

(あっ!名前教えてなかったか!)

空は自分の名前を教える。

「僕の名前は空・テトラト。空って呼んでくれていいよ。」

すると少女も自分の名前を口にする。

「私の名前は……イリア……」

「イリアって言うんだね。よろしく。」

空はイリアに手を出して握手を求める。

イリアも空の手を握ってきた。

(手ちっちゃいな~)

「それで……なんであんなところに倒れていたの?」

空は一番気になっていたことを聞いた。

「えっと……その……」

イリアが話そうとした時、お腹が鳴る音がした。

 「あっ……」

イリアの顔はみるみる赤くなっていく。

「お腹空いたのかな。お粥なら食べれる?」

と空はイリアに尋ねる。

「うん……」

空はキッチンへ向かうとお粥を作り始めた。

******

「お粥できたよ~」

お粥を作り終えた空はイリアに声をかける。

リビングには夕飯の残りの鍋が置いてある。

(流石にあの鍋は食べれないよな……)

空がテーブルへ器を運ぶとお粥をテーブルに並べる。

お粥を見るとイリアはとても嬉しそうな表情をしている。

(よっぽどお腹空いてたんだな……)

「食べて良い?」

イリアは尋ねる。

「いいよ。」

「いただきます。」

イリアはスプーンを持つと一口お粥を食べる。

「おいしい……」

お粥を口へ運ぶ手が止まらないのかどんどん食べていく。

「お代わりもあるからいっぱい食べてね」

(こんなに喜んでくれるなら作った甲斐があるな……)

2杯目を食べ終わり3杯目のお代わりを食べ終わった時、イリアが口を開く。

「あの……空さん……」

「ん?」

空はおかわりを入れて渡すための器を持って戻ってきてイリアに顔を向ける。

「いろいろご迷惑をお掛けしました…。」

器を受け取るとイリアは頭を下げる。

(律儀だなぁ)

「気にしないで良いよ。困ったときはお互い様だし、それに今はゆっくり休んでて」

(まだ体調が万全ではないし)

空が言うとイリアはスプーンを器に置く。

「あの……私……今何も持っていないんです……」

(だろうな……服1枚だもんなぁ……)

「お粥も食べさせてもらって……何かお礼をしたいんですけど……」

「お礼ねぇ……」

(そんなに気にしなくても良いんだけどなぁ……)

そんなことを考えていると空はふと思いついた。

「なら、一つ聞いてもいいかな?お母さんやお父さんは?何であんなところで倒れてたの?」

空が尋ねるとイリアは顔を暗くする。

 (聞かないほうが良かったか…)

空はイリアの顔色を見て少し焦る。

「……」

(イリアには酷なことを聞いてしまったのかもしれない……)

そんなことを考えているとイリアは口を開く。

「記憶が無くて。自分の名前と…自分の名前しかわからないんです。」

「そう……なんだ。」

(記憶がなくて名前がわかるってよく考えたらすごいな……)

とイリアは俯く。

「イリア、休んだほうがいい。僕が悪いこと聞いちゃったね。」

空は器を持って立ち上がるとキッチンに向かおうとした時、イリアが空の服を掴む。

「行かないで……」

(うっ……そんな顔されたら断れないじゃん……)

「わかったよ……」

空はイリアの横に椅子を持ってくると座る。

空は改めてイリアを見る。

長い白銀色の髪、幼さの残る顔、幼い体に似つかわない綺麗な肌、そして空を見つめる青色の澄んだ瞳。

空が見惚れているとイリアは口を開く。

「あ、あの……あんまり見られると恥ずかしい……」

(はっ!)

空はイリアから目をそらす。

「ご、ごめん!」

(まじまじ見てしまった……)

「その……空さんは優しいね……」

(え?どこが?)

思いもよらない言葉に空は困惑する。

すると、突然眠気が襲ってきてあくびをする。

(やっべ、安心したら眠たくなってきたな。)

「ごめん、僕もう寝るね。イリアは僕のいつも使ってるベッドで寝てくれていいよ。」

空が立ち上がろうとするとイリアは空の手を握る。

「あ、あの……私、記憶がなくて不安なんです……」

(うーん、子供とは言え異性だしな~)

「まぁいっか」

空はクローゼットから毛布を取り出すと毛布を持っていく。

「僕寝るときはいつも毛布使ってるんだ。一緒に寝る?」

空は冗談っぽく言うがイリアは頷く。

(…仕方ないか)

空がベッドに入るとイリアも毛布に入ってくる。

空は目を開けて隣を見るとイリアは空の服をしっかり掴んでいる。

(これは朝まで寝れないやつだな……)

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