第3話  白銀の少女Ⅲ

1月15日

翌朝空はベッドの上で朝を迎える。

(今日は依頼あるし早く準備しないとな~)

起きようとした時、ベッドに重みを感じて起き上がることができないことに気づく。

(なんで重みが……)

恐る恐る視線を横にするとそこにはイリアが空の腕を枕にして眠っていた。

空はイリアを起こさないようにそっと腕を抜こうとするが、がっちり掴まれていて抜けない。

(起きてる?)

空はイリアを起こさないように頭を撫でると気持ち良さそうに頬笑む。

(可愛いな……)

しかし、いつまでもこうしている訳にはいかないのでイリアを起こすことにする。

「イリア起きて~」

空は小声で呼びかけるとイリアは目を開く。

「あ、起きたね。」

空が声を掛けると寝ぼけた顔で空を見つめる。

そして状況を理解したのか顔を赤らめて急いで起き上がる。

「ご、ごめんなさい!」

「いや、大丈夫だよ……」

昨日、お風呂に入れてあげることを忘れていた空はイリアに朝風呂を入れてあげる。

その後、朝食を食べ終え、身支度を整えると空は玄関で靴を履いていた。

「それじゃあイリア、僕仕事行くからここで休んでてね。」

 空はドアを開けようとするとイリアは空の服の袖を掴む。

「どうかした?」

空は屈んでイリアに視線を合わせるとイリアは口を開く。

「空さん……私と一緒にいてくれませんか?」

「え?」

突然の頼みに空は固まってしまう。

「私、一人は不安…」

(そうだよな……かと言って依頼があるし…)

「わかった。でも、僕も仕事があるからついてくる?」

空がそう言うとイリアは嬉しそうな表情を浮かべる。

「ありがとう。」

(まぁ、家に1人置いていくのも心配だしな)

「それじゃあ、行こっか。」

空はイリアに手を差し出すとイリアはその手を取る。

(流石に服1枚は寒いよな。服屋でイリアの為に何か買うか)

空はイリアの手を引いて歩き始めた。

「ここがこの街で一番大きい服屋だよ。何か欲しいものがあったら言ってね。」

 空はイリアに服屋の中に入るよう促す。

「は、はい。」

イリアは返事をした後、空と店の中に入る。

服屋の中に入った空とイリアは服選びを始めていた。

「イリアどれが似合うかな~」

空はイリアに似合いそうな服をいくつか持ってきてはイリアに尋ねる。

「これなんかどうかな?」

空は黒い長袖のシャツを見せる。

すると、イリアは気に入ったのか頷く。

「じゃあ、これと……」

(喜んでくれるなら良いんだけど)

空は服を何着か持ってくると試着室に入って着替えてもらう。

「どう?苦しくない?」

「うん、大丈夫です。」

試着室のカーテンからイリアの声が聞こえる。

(少しサイズが大きかったかな?)

空のコーディネートは全てがサイズが大きい服になってしまった。

 (まぁいっか、服のセンスはそんなに無いし……)

そんなことを考えていると着替え終わったのかイリアが出てくる。

(おぉ、似合ってるな。)

黒のシャツの上に着る白のパーカーはイリアにとっては少し大きくズボンが隠れている。

「気に入った?」

「うん。」

イリアは嬉しそうに返事をすると空は近くにあったTシャツを数枚買うことにした。

(買い物って楽しいな~)

そんなことを考えているとイリアが話しかけてくる。

「これ、ありがとう……」

イリアが空の服の裾を掴む。

「どういたしまして」

(喜んでくれて何よりだ)

会計を済ませて洋服屋を出るとイリアは空に話しかける。

「あ、あの……ありがとうございます。」

「気にしなくて良いよ。それじゃあ僕の仕事に取り掛かるわけだけど1日かかると思うけど大丈夫?」

空が尋ねるとイリアは頷く。

「うん。」

 空はイリアを連れて本来の目的の飯塚沙織さんの依頼である、沙織さんの飼い猫『おこげ』の捜索に取り掛かった。

「うーん……いないなぁ……」

地図で目星をつけたあたりを2時間ほど探し回ってもおこげは見つからなかった。

「ここじゃないか…」

空は辺りを見渡して肩を落としている。

(さて、どうしようか……)

空は腕を組んで考える。

「空さん。」

空が悩んでいるとイリアが話しかけてくる。

「ん?どうしたの?」

「そろそろお昼の時間。」

(あ、もうそんな時間か……)

空がイリアに言われて空を見ると太陽は真上まで昇っていた。

(確かに腹減ったな……)

「そうだね。どこで食べようか……」

と、考えていると丁度良いところにパン屋があった。

「あそこで買って公園で食べよっか!」

空はイリアの手を引いてパン屋に入る。

パンを買うと空はイリアと一緒にベンチに座ってパンを食べ始める。

「美味しいね。」

空はパンを食べながらイリアに尋ねる。

「どう?」

イリアは頷いてパンを一口食べると幸せそうな表情を浮かべる。

(気に入ってくれたみたいでよかった~)

昼食を終えイリアと話しながら地図と写真を見返す。

(目星をつけたところにはいなかったな…)

空はため息をつく。

「さて、どうしよう……」

空が考えているとイリアは空の服を引っ張る。

「ん?どうかした?」

空はイリアに問いかける。

「あそこ…」

イリアが指をさす先には木の上で寝ている猫の姿があった。

(あの色、模様…おこげだ!色が似てて気づかなかった。)

「ありがと!助かったよ!」

空はイリアに礼を言うと地図と写真をベンチに置くと木に登り始める。

「よいしょっと……」

空はおこげの近くに行くと、おこげの横に降り立つ。

(さて、どうやって捕まえようかな……)

すると、眠っていたはずのおこげが立ち上がり威嚇し始める。

空が少し近づくと更に威嚇を強める。

「怖がらなくて大丈夫、こっちにおいで。」

空は両手を広げておこげに話しかける。

しかし、おこげは威嚇を辞めない。

(どうしようか……)

するとイリアがいつの間にか木の上に登っていておこげの目の前に来ていた。

(いつの間に!?)

イリアはおこげの頭を撫でながら話しかける。

「怖がらなくて良いよ……」

すると、おこげはゆっくりと警戒を解き始めて空の元まで歩いてくると丸くなって寝始めた。

空はそっと抱き上げるとイリアに声をかける。

「ありがとう!」

(イリアがいなかったらどうなっていたことか……)

空はおこげを抱いたままベンチに戻り、おこげを膝の上に乗せて頭を撫でる。

「さて、そろそろ戻ろうか。」

「うん。」

 空はおこげを抱きかかえるとイリアと手を繋いで何でも屋へ戻った。

空はその日のうちに沙織さんへ電話をかけ報告をする。

「はい、飯塚沙織です。」

電話口から女性の声が聞こえる。

「依頼されたおこげのことなんですが、無事保護することができました。」

空がそう言うと電話の向こうから喜びの声が聞こえてくる。

「それはよかったです!本当にありがとうございました!」

その声色から本当に喜んでいることが伝わり空は頬を緩ませる。

「いえいえ、それでは僕はこれで失礼しますね。」

そう言って空は電話を切った。

(ふぅー……とりあえず仕事完了だな。)

空は天井を仰ぎ見る。

「今日は本当にありがとう、イリア。」

空は隣に立っているイリアに礼を言うとイリアは首を横に振る。

「困った時はお互い様何ですよね?空さんが言ってた。」

(いい子だな~)

「イリア、楽に話してくれていいし僕のことは空って言ってくれていいよ。昨日出会ったばっかりだけどイリアのお母さんとお父さん見つかるまでは面倒見てあげるんだし。」

 と空が言うとイリアは少し間をおいてから

「わ、わかった。そ、空。」

空はイリアの頭に手を置いて撫でた。 

後日、飯塚沙織さんがおこげを迎えに来たので依頼は無事完了した。

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