隙間のない二人
幕がおり、える以外暗闇の劇が終わった。
早くオレのお姫様を迎えに行かないと。
「えるーおつかれ〜。めっちゃ良かったじゃんお姫様」
「澄乃おつかれ」
「二人ともお疲れ様。とっても素敵な劇になったね」
……見つけた。オレのお姫様。
「える」
「…! さとみくん!どうしてここに─────……わっ」
舞台袖にいたえるの腕を引き、二人きりになれる場所まで連れ出した。ここまで来れば誰も邪魔しない。
「さとみくん?」
「オレを、ひとりにしないで」
こう言えばえるは離れない。ぎゅって抱きしめたら
「…うん、一人にしないよ。大丈夫、そばにいるからね」
抱きしめ返してくれる。
えるの匂い…えるのぬくもり…えるの全部、ほしい……。
「劇見に来てくれてありがとう。舞台の上からさとみくんが見えたんだよ」
「…………」
オレがえるだけを見てたみたいに、えるもオレだけを見てたんだ。
「よかった。お姫様」
「ほんと?さとみくんにそう言ってもらえて嬉しいな」
えるだけをずっと見てたから。宇宙で一番の、オレだけのお姫様。
「さとみくん。私そろそろ着替えないと」
小さな手がオレの胸にあてられる。上目遣いのえるは服装も相まって愛らしい。けど
「……………」
えると離れるのは嫌だ。そう思って、えるの言葉が耳に入ってきた途端、抱きしめていた腕に力を入れた。抱きしめて落ち着いたはずの心が少しづつ荒波へと変わっていく。
「…さとみくんも着替えないと、ね?」
「オレも行く」
「いいの?着替え終わるまで待っててもらうことになるけど……」
申し訳なさそうにオレを見つめるえる。そういう所も可愛くて────。
「その格好で歩くの大変でしょ。─────参りましょうか、お姫様」
「……!! じゃあお言葉に甘えて。ふふっ、お嬢様からお姫様になっちゃった」
はにかみながら笑う姿は今日見たどんな顔よりも愛おしく、愛らしい。
お姫様の隣にいるのは王子でも騎士でもない。お姫様を愛してやまない執事だけ。
「じゃあ着替えてくるね」
オレに手を振ってえるは行ってしまった。少しの間でも離れるのはやっぱり嫌だ。
……お姫様のえるかわいかった。どんな姿でもえるはかわいいけど、ああいうのは特別ってやつだから。頭の中にえるのお姫様姿を浮かべ、最後に見せてくれた笑顔を思い出す。緩くなった頬は
「あ」
「………」
一瞬で無になった。
あいつが現れたから。
「急にやってきて連れ出したと思ったらなにしてんだよ。こんなとこで」
「えるを待ってる」
「あっそ。……あのさ、お前ってさ昔からその感じなん?」
「は?」
「澄乃の優しさ利用して甘えまくってどんなわがまま言ってもどんな態度とっても離れないし許される、そう思ってんだろ。そういうのきめぇ」
目障りな上に耳障り。知ったように言葉を並べどこまでも鬱陶しい。
「うるさい。お前には関係ない」
「関係あるんだよ」
「は?」
「俺、澄乃が好きだから」
は?
「えるはオレの。えるにはオレ以外いらないオレにもえる以外いらない。────お前邪魔」
頭の中が真っ黒に塗りつぶされる。全身に力が入って
「いいのかよ、こんなことして。澄乃に見られたらお前終わりだろ」
目の前にいるこいつを
「黙れ」
今ここで───────。
着替えるの少し時間かかっちゃった。早くさとみくんのところに戻らないと。そう思ってドアの方へと向かおうとした時外から大きな音がした。
「さとみくん…!大丈夫……?!すごい音がしたけど───」
さとみくんに何かあったのかと急いで外へ出ると、今にも喧嘩が始まってしまいそうなほどの剣幕で三浦くんを睨みながら胸ぐらを掴んでいるさとみくんがいた。
「さとみ…くん……?」
初めて見る彼の怒った姿。纏う空気だって全然知らない初めての表情に戸惑っていると
「える……」
私に気がついたさとみくんは瞳を揺らしながら焦ったような顔をして走り去ってしまった。
「さとみくん待って───!」
急いで彼を追いかけようとしたけれど
「いっ……た……」
そう言いながら頭を押さえる三浦くんを見て足を止めた。さとみくんに胸ぐらを掴まれてそれで……。
「大丈夫じゃ、ないよね…。一緒に保健室行こう」
さとみくんも心配だけど三浦くんが怪我をしてたら大変だし、早く手当しなくちゃ……。そう思いながら動かしているはずの足はいつものように歩けている感覚がなくて。目の前にいる三浦くんのことも心配なはずなのに、走り去る前のさとみくんの表情が忘れられなかった。頭の中からずっと離れない初めて見たさとみくんの姿が胸を締めつけた。
すぐにあいつのところに行かなかった。すげー愉悦。
そんなものに浸っているといつの間にか保健室に着いていた。
「どうしよう…先生探しに行こうかな……」
「いいよそこまでしなくて。ちょっと寝たら治るでしょ」
「でも……」
心配そうに俺を見つめる澄乃の心を何とか落ち着かせようと平静を装った。実際そこまで痛みがあるわけじゃない。ただ今は澄乃といられるこの時間を少しでも長く続かせようとそれだけを考えた。
誰の許可も取ることなくベッドに寝っ転がる。そんな俺の姿を見て駆け寄ってきた澄乃の表情から心配は消えていない。
「痛いなら冷やした方がいいよ…?」
そんな顔させるために二人きりになったわけじゃない。
「いいって。それより聞きたいことあんだけど」
意識を逸らせるようにずっと聞きたかったことを口にした。
「なんであいつといつもいんのかって話でさ、幼馴染とはいえあんなベタベタされて嫌とか思わねーの?傍から見てるとわがまますぎるっつーか、澄乃が優しすぎるように見えるからさ。そんなに優しくしたり、一緒にいるのはなんでなのかなって」
それなりに言葉を選んで言ったつもりだったが、傷つけてたらと澄乃の様子が気になり顔を見れば表情は暗く、その瞳には苦しさと悲しみが浮かんでいた。
「…さとみくんを、放っておきたくないから……」
初めて見るその表情にこっちまで苦しくなってくる。それと同時に、そんな顔させる奴なのにほっときたくないってなんだよ。そんな怒りなのか分からない感情まで湧いてくる。その後に浮かんできたのは、
「…心配なら探しにいけよ。あいつのこと」
自分の中にあった感情をできる限り押し殺して
「え…でも……」
「俺なら、寝れば治るし。早く行きなよ」
澄乃が一番笑顔になる方を選んだ。けど
「…! うん!ありがとう。…三浦くんが早く良くなりますように」
俺の手を握り祈るように言う姿
「またね」
笑顔で手を振り、去っていく姿。そんなものを見せられて完全には殺せなかった感情が一気に押し寄せてきた。
あーあ…せっかく二人きりで、あいつより俺を選んでくれたと思ったのに、結局これかよ。嘘をつこうと思えばいくらでも言えたはずだ。けど…あんな顔見せられてどんな嘘がつけんだよ。他の誰も入る余地のない二人の世界は今までだって見せつけられてきた。だけど、澄乃から見せられたのは初めてだった。どんなことがあればあんな顔をするのか、知らねぇし、知りたくもない。あー、俺…いらねぇーじゃん。
「くそっ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます