一生愛してほしい人

えるが追いかけてこない。オレよりあいつを選んだ。

えるに嫌われた。見捨てられた。見放された。えるがいなくなった。えるに…会えない​……一人は、嫌だ​。えるがいないとオレは​……える……会いたい​──────。


「さとみくん…!!よかった、ここにいたんだね」

声がして顔を上げる。そこにはえるがいて。

「える……」

「電話もメッセージも全然返事がないから心配してたんだよ。見つけられてよかった…」

座り込んだオレに視線を合わせるようにしゃがんだえるは安心したように微笑んだ。

「…なんで……あいつのところ、行ってたのに…」

「それは、怪我してたみたいだから……。保健室まで一緒に行ったの。怪我は大丈夫そうで、だからさとみくんのこと探してたんだよ。さとみくんのことも心配だったから」

「オレの…ことも……」

よかった、オレ捨てられたわけじゃなかった。

「うん。……ねぇさとみくん。何があったのか聞かせてくれる?」

オレの隣に座ったえるが様子をうかがうように首を傾げる。

えるの問いにどう答えたらいいのか分からず視線を逸らして黙り込んだ。

「…さとみくん。前にした手の話覚えてる?」

「……うん」

「私の手は、誰かを思う手……さとみくんを大切に思う手だよ」

オレの手にえるの手が触れ、小さな手がオレの手と重なる。

「だから教えてほしいな。さとみくんが思ってること、考えてること。さとみくんのことちゃんと知りたいから。幼馴染だけどまだまだ知らないところが沢山あって……なにかに苦しんでるなら、さとみくんの力になりたい。教えてくれる?さとみくんのこと」

ちゃんと、知りたい……それがえるのお願いなら、オレは​───────。

「オレの手は、えるのための手。えるを大切に想う手。えるに触れるための手。えるを​────愛する手」

重なったえるの手に指を絡めて、ぎゅっと力を込める。顔を上げてえるの顔をしっかり見つめた。えるにオレの全部が伝わるように。

「私を…愛する……?」

「えるが…オレを救ってくれたから。だから……離れないで」

「​─────!」

「オレのそばにいて、オレをずっと想って。ひとりにしないで。​─────オレだけを愛して」

「……! さとみくん​────?」

「オレ以外考えないで。オレとだけいて。オレ以外いらない、オレだけがいればいい言って。他に何もいらない…オレとえるだけの二人きりの世界で生きて。​────ずっとオレと一緒にいて、オレから離れないで……オレを、嫌わないで。捨てないで。​─────一生愛してよ」

わがままでひとりよがりでもオレにはえるしかいないから。いつもみたいに"そばにいる"って笑ってよ。

───────お願い。オレを捨てないで。



瞳を潤ませながら縋るように言われた言葉は一度も考えたことのないものだった。さとみくんがそんなこと思ってたなんて、私…全然知らなかった。

これはきっと、いつもみたいに幼馴染として、友達として"そばにいるよ"って言ったらダメなんだよね…。…だって、さとみくんの言ってることは……私の中にあるこの気持ちとは違くて、さとみくんは……ずっと全然違くて……それなのに、私……あんなに簡単にそばにいるよって言って……。全然違うのに、幼馴染じゃなくて、全然違うのがよかったはずなのに……私…ずっとさとみくんを苦しめてたかも知れなくて……でも、早く答えないと……さとみくんをまた傷つけちゃうかもしれなくて……。私、どうしたら​──────。



絡めた指を少しつづ解きえるの手をそっと離す。……えるを困らせた。そんな顔…させたくなかった。ごめん……える………。

「…! まって、さとみくん……!」

離したはずの手をえるに掴まれる。

「える…?」

わけも分からずえるを見つめた。えるになんて言われるのかすごく怖い。そんなオレの不安に気づいたのか分からなけどえるはもう一度オレの手を握ってくれた。

「あのね…その、上手く言えないけど……私の中にある好きって気持ちととさとみくんの好きは違くて……でも…それでも、さとみくんのそばにいたいって…おもうの。まだ自分の気持ちは分からないけど…それでも、これまでと変わらず一緒にいたい。このまま離れるのは嫌だから……。……さとみくんがいいなら、だけど……同じじゃなくても一緒にいていいかな…?」

同じじゃなくても、オレは

「えるがいてくれるならそれでいい」

「ほんとに、いいの…?」

「…別にいい。変わらずそばにいてくれるならそれで」

「……ありがとう、さとみくん。…ちゃんと答えてあげられなくてごめんね」

申し訳なさそうに眉を下げオレを見つめるえる。オレが見たいのはその顔じゃない。

「答えは今じゃなくていい。……その代わり、オレの隣でずっと笑ってて」

えるを少しでも笑顔にしたくて空いている手をえるの頭に乗せた。一瞬驚いたように目を見開いたえるは

「……! ……ありがとう、さとみくん」

そう言って笑ってくれた。目尻に少しだけ零れそうな水滴があったけど、そっと手で拭いもう一度えるの頭を撫でる。

えるの笑ってる顔、すげーかわいい。その顔…もっと見たい。オレにだけ笑いかけてほしい。独り占めするには、どうしたらいいんだろう。今までのままじゃきっとダメだ。えるだけが……オレの名前を呼んで手を握って笑いかけてくれたから。

えるは…特別で大切で、誰にも渡したくなくてどこにも行ってほしくない。同じじゃなくてもえるがいてくれるならって思ってた。けど…オレ、えるに好きって言われたい。えるだけに愛されたい。この気持ちをえるにも抱いてほしい。オレにだけ向けて欲しい。

えるのお願いを拒否する選択肢は無かった。それでもえるのことを考えれば考えるほど、見つめれば見つめるほど心の中で色んな感情が混ざり合い上手く処理しきれない。いっそこんな気持ちを、えるを困らせるものを捨てられたら​、と。そんな考えまで過ってしまう。それでも、捨てたくない。……この気持ちはえるがくれたものだから。……えるがオレにくれたのならオレもあげれるはず。同じじゃないなら同じにすればいい。そしたらきっと笑顔も独り占めできる。そっか。そんな簡単なことなんで気づかなかったんだろ。あ、けど……同じにするには…えるに好かれて愛されるには……?

ようやくはっきりとしてきた思考はそこで止まる。

そんなの、オレには​────わかんないや。

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