唯一の光
そして迎えた文化祭当日。
えるまだかな。早く会いたい。やること残っててすぐには来れないって言ってたけど……早くえるに見せたいのに。はぁ……なんでこんなに人がいるんだろう。このままじゃえるが来てもすぐに入れない。早く捌かないと。
……えるの気配がする。えるの匂いも近づいてる。えるの足音が聞こえる──────。
「おーめっちゃ混んでるっぽいよ?綴未のクラス」
「わ、ほんとだ。入れるかな……」
「あーでもなんか急にめっちゃ人出てきたから大丈夫じゃない?早く行こ!」
「うん」
また混んでしまわないうちに早足でさとみくんのクラスへ向かった。
そういえばさとみくん何やるのか全然教えてくれなかったけど─────
「おかえりなさいませ。ご主人様」
到着してすぐ出迎えてくれたのは知っているようで知らないような
「さとみ、くん…?」
キリッとしてとってもキラキラなオーラを纏ったさとみくんだった。……多分さとみくん、だと思う…。
気づけばさとみくんを見続けてしまっていた私の手をそっと取り、さとみくんは本物の執事さんみたいに丁寧に私を席へと案内してくれた。
その間もずっとさとみくんから目が離せなくて呆然と見つめてしまった。
「えっと…さとみくん、だよね?」
目の前にいるさとみくんが私の知らない彼になったように感じられてついそんなことを聞いてしまう。
「オレだよえる」
さっきまでのキリッとした表情から普段通りのどこかふわふわしてるさとみくんに変わる。
……わ、ほんとにさとみくんだ。
「…オレなんか変?」
「ううん。すっごくかっこいいからびっくりしちゃった」
ほんとにびっくりした…。今もまだドキドキしてるかも……。
「オレかっこいい?」
「うん!すっごくかっこいいよ」
そう言いながら改めて執事姿のさとみくんを見つめる。つい顔ばかりを見てしまっていたけれど髪型もいつもとは全然違っていて、綺麗にセットされた髪は燕尾服に似合っているし、前髪上げてるさとみくんってなんだか新鮮。普段はずっと下ろしてるからこうしてしっかり顔が見れる機会ってそういえばあんまりなかったかも。
「その髪も自分でやったの?」
「勉強した」
さとみくんがこの日のために……。なんだか泣いちゃいそうだけどそれよりも今は。
「ふふっ、えらいえらい。 …………」
いつものように頭に手を伸ばしたけれど。
「撫でないの?」
「だってせっかくかっこいいのに崩しちゃうかもしれないから……」
さとみくんの頑張りを壊したくなくて手を止める。一瞬悲しそうな表情をしたさとみくんだったけど、すぐに嬉しそうな表情へと変わった。
つい癖で撫でようとしちゃったけど……せっかくさとみくんが頑張ってセットしたんだから崩しちゃうのは良くないよね。撫でることならいつでも出来るし。
「それよりさとみくん、接客しなくていいの?ずっと私のところにいるけど……」
「オレのご主人様はえるだけだから」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……。それにいいのかな…。こんなにかっこいいさとみくんを独り占めしても……。
「綴未くんそろそろ休憩していいよ」
そう言われてえると二人だけの文化祭が始まった。える、オレのことずっと見てた。見惚れてたって感じだった。あんなに見つめてかっこいいって言ってくれるならこれからもちゃんと髪の毛セットしよう。
「さとみくんどこか見たいところある?」
「……どこでもいい」
「そっか。……ところでさとみくん、ずっとその服着てるけど……着替えなくていいの?」
「今日はオレえるの執事だから。……ご主人様お手をどうぞ」
「……! う、うん……」
えるのほっぺ赤くなってる。このままずっと照れてるえるを堪能したい。どこにも行かず二人になれる場所探そうかな。
「えっと、さとみんくん。とりあえず色々見て回ろう?」
二人になれる場所……はダメだ今は。今のオレはえるの執事でえるの言うことが絶対だから。えるがそうしたいなら。
「……仰せのままに。ご主人様」
「………ねぇ、さとみくん。ご、ご主人様呼びはちょっと…その、恥ずかしい……かも……」
「……それなら。──────お嬢様」
「えぇ…!?あんまり変わってない気がするけど……うーん、ご主人様よりはいい…のかな?」
「オレはどっちでもいいけど、えるは嫌?オレにお嬢様って呼ばれるの」
かっこいいって思ったのは見た目だけ?オレがご主人様って呼ぶ度にほっぺが赤くなってのは嫌だったから怒ってた……とか。
「ううん、嫌とかじゃなくて…その、呼ばれ慣れてないからそわそわしちゃって……。だって今のさとみくんホントにかっこよくて本物の執事みたいだから、ドキドキしすぎちゃうみたいで……」
……そんなにオレのことかっこいいって思ってるんだ。さっきからずっと直視してくれないのも、視線があちこちいってるのも全部、オレにドキドキしちゃうから。
──────今日はホントにいい日だ。えるがずっとオレにドキドキしてる。呼びかける度に頬を染めて、顔もちゃんと見れなくなってる。幸せ、とはまた違う。気をつけてないとこの姿に似合わない笑みがこぼれてしまう。そんな喜び。
でも、ダメだよえる。ちゃんとオレを見て。えるにかっこいいって沢山言われたくて頑張ったから。じゃないと全部無意味だ。もっともっとオレに夢中になって。かっこよくてドキドキして、壊れるくらいオレを見て。
「お嬢様」
「えっ……わ、さとみくん…!ち、近いよ…!それに、ほら!人がたくさんいるから……」
「逸らさないで。ちゃんと見てオレのこと」
えるの視線を釘付けに。独り占めして離れないように腕を掴み抱き寄せた。逃げられないように顔を近づけて。
「……!! ちゃ、ちゃんと見る…!から……こんなに近いと、なんにもできなくなっちゃうよ………」
初めて見るえるの困った顔だった。今にも泣きそうなくらい目を潤ませて、耳まで赤くしながらオレを見上げている。この顔ならいくらでも見たい。
でも今はオレのお嬢様だから。ちゃんと見てくれるならそれでいい。
「参りましょうか。お嬢様」
えるのお願い通りそっと離れて、手を差し出す。
「……う、うん」
そう言いながら一息ついたえるがそっと手を置き、ようやくオレ達は歩き出した。
えるの手、熱い。まだドキドキしてるんだオレに。
もっともっとドキドキしてオレ以外全部忘れてくれたらいいのに。そしたら……そしたらきっと、ほんの少しの別れもなくなるはずだ。
「それじゃあ私そろそろ行くね」
一通り見て回ったオレたちに、別れの時間がやってきた。えるがクラスの出し物の準備に行ってしまったから。そういえば何するのか聞いてない。髪の勉強に熱注ぎすぎた。確か演劇で、えるの役はお姫様。お姫様ってことは王子もいるのかな。そんなの許さない。えるの隣はオレだけだから。
幕があがり、劇が始まる。
綺麗なドレスを着て現れたえるは紛うことなきお姫様。そんなお姫様が主役の話。お姫様だけを見ていられたらそれでいいのに邪魔なやつが沢山いる。触れる者、近づく者みんな消えて無くなればいい。全部真っ黒に塗りつぶして存在を消して、いないものにすればいい。
舞台に注がれる光が段々と消えていく。周囲の人の気配や雑音それら全ても消えていく。
スポットライトがえるだけに当たり、オレとえるだけの最も幸福な空間に変わる。
近づいていいのも触れていいのも、オレだけだから。
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