第3話 全員いなくなれば

久しぶりに足を踏み入れた場所は騒がしくて落ち着かない。早くえるだけ見て出よう。今の時間は休み時間かな。えるは………​─────誰だアイツ。


「……?」

「澄乃どうした?」

「ううん。なんでもない」

今さとみくんっぽい人がいた気がしたけど……気のせい、かな…。

もう一度見ても、談笑している子達しか見えなかった。やっぱり気のせいだったんだよね…きっと。

「あ、今度二人でどっか行かね?」

「え?」

どこかぼんやりしてた澄乃をこっちに向かせたくて、ダメ元でデートに誘った。

「あーほら、買い物したりとか、…甘いもの食いに行くとか」

甘いもんは正直あんま食えないけど、澄乃が食いたいなら耐えれるだろ。多分。

「うん。いいよ」

可愛い笑顔と意外な言葉が返ってきて、嬉しさと驚きが混じる。

「まじ?いいの?」

すげー嬉しいのに出てきた言葉は不意をつかれたように気が抜けてて、ちょっとだけかっこ悪かった。

「うん」

それでも目の前にいる彼女は明るく笑いかけてくれた。

あーかわい、好きだわマジで。

反射的に出そうになった言葉を奥にしまって席に着く。

秒でこんな感想が出てくる子が初めてで、自分でもたまに訳が分からなくなる。だけど、幼馴染とかいう奴に負けたくないって気持ちは日に日に強まっていった。

幼馴染ってだけで付き合ってはないんだな。それって俺にもチャンスあるってことじゃん。絶対負けねぇし。


いつものように学校から帰ると家の前にはさとみくんがいた。今日はメッセージも電話もなかったからいないのかと思っていたけれど、さとみくんの様子はどこか変だった。

「さとみくん…!」

私が声をかけると

「今日話してたアイツ誰?」

さとみくんの瞳がまっすぐ私に向けられる。どこか冷たく感じるその表情は少しだけ怒っているようにも見えた。

「…クラスメイトだよ。この前少し話したから」

「この前?いつ?」

「弟と出かけた時に会って、それから話すようになったの」

「そう」

私の答えに淡々と返事をするさとみくん。

やっぱり…いつもと違う……。なにか、怒ってる……?

瞳も表情も、そして声色も。そのどれもがいつもと違くて、髪の間から少しだけ見えるさとみくんの瞳に吸い込まれそうになる。なにも悪いことはしていないのに、何かを咎められてるような感覚に襲われて、それを振り払うために

「…さとみくん学校来てたの?」

少しだけ話を逸らした。

「暇だったから」

「そう、だったんだね。…今度、行く時は言ってね。前みたいに一緒に行こう。あ、一緒に帰るだけでもいいし、一緒にお昼ご飯食べるとかだけでもいいから……。ね?」

「……​───────ヤダ」

ただをこねる子供みたいにそっぽを向いてそのままどこかへ行こうとするさとみくん。私は慌てて彼を呼び止めた。

「さとみくん……!今日は家に入らないの?私の部屋で寝ないの?」

少しだけ歩くのを止めたさとみくんは、そのまま何も言わずに行ってしまった。

私……怒らせちゃったのかな…………。

どんどん遠くに行ってしまうさとみくんの姿を、沈む夕陽と共に見ていることしか出来なかった。


『一緒に、一緒に、一緒に』

オレが思ってる"一緒に"は朝から晩までそばにいるってこと。えるは四六時中離れずにいてくれんの?それが出来ないなら軽々しく一緒にって言うな。

​─────お前の言う"一緒に"はオレとお前以外全員、死んでからがいい。

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