第2話 心配でおかしくなっても

さとみくん、今日も学校に来てないのかな…。

中学生の時からたまに来なくなって、高校生になってからはほとんど来なくなった。一緒に学校に行って帰って…私は楽しかったけど、さとみくんは嫌だったのかな。それともクラスで何かあった…とか。

……さとみくんと同じクラスだったらよかったのに。

考えても仕方の無いことを気づけば毎日に考えている。

だって最近は​────

「えるーおはよー」

「おはよう」

「ねー聞いてよー。私の友達がね昨日…ほら!最近よく聞く綴未って奴に捨てられたんだって。しかもそいつ、彼氏持ちにも手出てるらしくてさ。ひどくない!?」

「……うん。それは…ひどい、ね…………」

綴未。その名前をよく聞くから。苗字だけじゃさとみくんだって判断はできない。同姓同名の知らない人の可能性だってある。けど​────

『さとみくん。最近、学校で綴未って名前をよく聞くの。……色んな女の子と遊んでるって…。さとみくんじゃないよね?』

『……』

もしかしたらって思ってしまう。さとみくんが何も言ってくれないから。

それでも私は、噂の人がさとみくんだって信じてない。だって……私の知ってるさとみくんはそんなことしないから。

「澄乃ーおはよ」

「…! 三浦くん。おはよう」

ぼんやりとさとみくんのことを考えていると、昨日偶然会ったクラスメイトの三浦くんに声をかけられた。

「昨日はごめんね。話してる途中で抜けちゃって…」

「あー、全然気にしてないから。てか幼馴染だっけ?呼び出したの」

「え、うん…。なんで知ってるの?」

「弟くんから聞いた」

「そうなんだ。あ…三浦くんの弟さんにも謝りたいんだけど……」

「あーあいつは気にしてないよ」

「そうなの?それならいいんだけど……」

「あ、そろそろホームルーム始まる。じゃまた」

「うん。またね」

三浦くんと話終えるとホームルームが始まった。そこからはあっという間に過ぎていった。帰る支度をしながら少しだけスマホを見てみると、まだ読めていないメッセージと、出られなかった電話の通知が沢山表示されていた。見慣れたその通知の数に、急いで帰らなきゃと自然に体が動いていた。

「える一緒に帰んないの?」

「ごめん!用事があって…また明日!」

「んー。ばいばーい。……でた。えるのたまにある爆速帰宅」

「澄乃っていつもあんな感じ?」

あの子とよく話してる奴に話しかけて、あの子の情報を聞き出そうとした。

「え…?まぁ、たまにあーやって早く帰るけど…なに三浦。もしかしてえるに興味ある感じ?」

「うん。あるよ」

自然と出た言葉に自分でも驚きつつ、目の前にいる相手も同じように驚いていた。

「え…まじ?あんたそういうの言うタイプなんだ」

「まあそれなりに。可愛いじゃんあの子」

だから気になるんだよ。幼馴染ってどんなやつなのか。


「さとみくん……!」

「……える遅い」

「ごめんね。​───!さとみくん怪我してる…!」

いつもと同じく家の前で待っていたさとみくんの顔には傷がついていて、少しだけ血が出ていた。

急いで鍵を開けてさとみくんを部屋に入れ、ソファに座ってもらった。救急箱を探すためにさとみくんから離れて

「えっとこの辺に救急箱置いたはず……あ、あった!」

救急箱を持って急いでさとみくんの元へ戻った。

「――お待たせさとみくん。ちょっと染みるかもしれないけど少しだけ我慢してね」

「ん…」

もう何度目か分からないさとみくんの手当。手や顔、あちこちに傷をつけているさとみくんを見るのがどんどん苦しくなっていった。

「また喧嘩したの?」

「…………」

この質問にはいつも答えてくれない。目を逸らしてそっぽを向いてしまう。

それでも私は――。

「なにしてんの。える」

「お願いごとしてるの。いつかこの手が、自分や誰かを思ったり、大切にできる手になりますようにって」

絆創膏をつけたばかりの大きな手をそっと包み込んだ。私の手じゃこの大きな手を全部包み込むことはできないけれど……少しでもあったかいって思ってくれたら…いいな……。

「無駄な時間」

それでも​──────。

「私は信じてるから。いつかきっとそうなるって」

「…好きにすれば」

「うん、好きにする。…あ、これ片付けなきゃ。ちょっと待っててねさとみくん」

片付けるために離れてから飲み物を何も出していなかったことに気がついた。

「さとみくん、なにか飲みたいもの​​───あれ?さとみくん?」

ソファに座っていたはずのさとみくんの姿がどこにも見当たらなかった。もしかして――

「さとみくん……?」

急いで自分の部屋へ行くと思った通りさとみくんが寝ていた。

「さとみくん寝てるの?」

……返事がないからきっと、寝てるんだよね。

「​───さとみくん、あんまり危ない人と関わったり、危ないことしたりしないでね。心配でおかしくなっちゃいそうだから」

眠っているさとみくんを見て自然と出てしまった言葉はきっとさとみくんには届いていない。そうだって分かってても今日は​────胸が締め付けられそうに苦しかったんだよ。ねえさとみくん。もっとちゃんと話したいよ​────。

「…おやすみ。さとみくん」

少しだけゆっくり扉を閉めて、そっと部屋を出た。

「…………」

​ねえ────える。おかしくなったらオレ一筋になる?

それならもっとおかしくなってもらわないと。えるにはオレ以外いらないし。オレにもお前以外いらない。

もっとおかしくなって狂って壊れたら…オレ達ずっと"一緒"にいられる。オレらの世界に誰もいらない。

​──────運命も偶然も必然もなにもかも全部えるだけだから。

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モンスターは綴れない ぺんなす @feka

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