朝露の夢
玄緑澄
朝露の夢 完
朝露の夢 星が姿を見せる紺碧の空の下、一人歩いている者がいる。彼は当てもなく歩き、彼の歩く一歩が彼の足跡を一つまた一つ頼りない一線に換えていた。夜は明ける様子を見せないが、明けない夜がないとするならば、その時はすぐ目の前まで近づいているはずだった。それにしても空は深い紺に染まり、月の光が影を作るほど濃くふりそそいでいるではないか。彼は思わずその場にふさぎこむようにかがみこむと祈るように膝をおり両手を握りしめただただ時が過ぎ去るのを待った。がしかし空はどこまでも澄んで、紺、澄んで紺であった。風が吹く。立ち止まった彼には触れる空気が冷たく感じられ、もう一度立ち上がるか、さらに深く闇を抱え込むかの選択をせまってくるように感じられた。どこまでも紺碧の空間を自分の形に切り取ってどこまでも暗く、黒く染める、眠りの誘い。甘く、温かな夢の心地。迷いなどないように思えた。しかし足にたまる血液から感じるかすかな体温にはまだすこし朝日を夢見る気概があるようにも思われた。彼は立ち上がることにした。まず立ち上がる。そして踏み出す。一歩、また一歩。小さな歩みで体は温まることはない。しかし寒さにみをさらけ出した時こそ、心臓で熱く燃える血の誇りが全身を駆け巡るのはなぜだろうか。朝露の夢。まだ見ぬ地平線。高々数キロ先の明日。そこにいくばくの価値があるかと問われると。この夜と何が違うかわからない。すべてを等しく闇に落とし右も左もなくなる世界と。すべてを等しく照らしいやおうなくその違いを距離を生み出す世界。それでもあるくあるく。あるく。あるくんだよ。
朝露の夢 玄緑澄 @gennryoku
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