ストーリー・テイル

風宮 翠霞

泥沼のストーリー・テイル

ずっと、生きる意味が欲しかった。


ずっと、死んでも責められない理由が欲しかった。


望まずにイノチを与えられ、そのモノを使い切ることを強要される。


そんな嫌な世界に、自ら終止符を打つ権利が欲しかった。


死ぬ理由がないから、生きているだけ。

死ぬ度胸がないから、生きているだけ。

死ぬ意味がないから、生きているだけ。


生きる理由など、何一つとして無かった。


もしも、終止符を打つことが出来ないのなら。

生きないといけないのならば。

生きろというのであれば。

そう命ずるのであれば。


生きるから。

ちゃんと、貴方達の言う通りにするから。


だから、理由が欲しかった。

だから、意味が欲しかった。

だから、意義が欲しかった。

だから、アイが欲しかった。


せめて、ココロの空白を埋めて欲しかった。

せめて、ボロボロのココロを修理して欲しかった。


ただ、生きて良いよと言ってもらいたかった。

ただ、自分の価値を認めて欲しかった。

ただ、愛して欲しかった。

ただ、誰かに救われたかった。


助けてなんて頼んでも、誰も手を伸ばしてなんてくれない。

意味をくれと頼んでも、誰も手を取ってなんてくれない。


実際には、ただ迷惑そうにして離れていくだけだ。


そんな、泥沼で僕を助けてくれたのは。

そんな、箱庭で僕に束の間の生きる訳をくれたのは。


僕を救ってくれたのは、物語だった。

僕を救ってくれたのは、空想の世界だった。


だから、自分を救う物語を創りたくなった。

だから、自分を救う世界を創りたくなった。


だから、誰かを救う物語を創りたくなった。

だから、誰かを救う世界を創りたくなった。


想像は、得意だった。


汚い自分が生きている世界が、大嫌いだったから。

そこから逃れるには、想像するしかなかったから。


自分の中からあふれてくる世界を、何一つこぼさないように書き留めた。

でも……凡人ぼんじんが書いた言葉は、そのどれもが凡庸ぼんようだ。


想像は得意でも、創造は得意じゃなかった。


汚い僕が紡ぐ物語は。

あまりに、汚くて気持ちの悪い物語だった。


僕は、救われなかった。


自分を、救えなかった。

自分すら、救えなかった。


……なら、僕は誰を救えるのだろう。


厨二病?

そんなの、自分がいちばんわかってる。


でも、書くのをやめられないんだ。


溢れる世界が、僕の見る世界の邪魔をするから。


面白くない?

そんなの、自分がいちばんよくわかってる。


でも、お前には言われたくないんだ。


僕の世界を、お前は分かってないから。


僕はただ、自分を救いたかっただけだ。


その行為が、どれほど難しいかも知らずに。


そう在ることを、望んだだけだ。


自分を、救いたかった。

その物語で、僕のように救われる人がいてくれれば良いと願った。


そして、書いた。


書き続けた。


プロになりたいなんて思ってない。


ただ、誰か一人でいい。


僕が救われたように。

僕が、違う誰かを救いたかった。


支えたかった。

応援したかった。


その一心で、言葉を紡いでいた……はずなのに。


なのに、僕は何故……今、苦しいのだろうか。


まるで麻薬のようだ。


知らなければ、何もない。


知らないということは、見ないということだから。


でも、一度知って仕舞えば……もうやめられない。


書かないと……。


世界を、書き留めないと。

じゃないと……壊れてしまう。


現実に戻されて、ばらばらに。


こころが、こわれてしまう、から。


書かないと。


書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。

書かないと。


くるしい。


いたい。


かなしい。


たすけて。


誰か、たすけて、ください。


……でも、やめたくないのです。


生きる意味が、欲しいのです。


大事な夢が、欲しいのです。


生きた証を、残したいのです。


たった一人で良い。


誰かを救える、ストーリー・テイラーになりたかった。

誰かを救える、作家になりたかった。

誰かを救える、人になりたかった。

誰かを救える、ヒトでありたかった。

誰かを救える、モノを作りたかった。


どうか、僕に……生きる理由を、下さい。


誰か僕を……救って、下さい。


僕はずっと、貴方を救うことを夢見て……物語を、書き続けるから。


「シアワセ」なんて言葉を夢見て……世界をつづり続けるから。


またいつか、このゴミのような世界のどこかで……いましょうね。

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