二段目 児童書


 「つづく」という文字まで読んで、ぼくは、ふうとため息を出した。

 コンピュータ探偵団。学校とかで、読んでいる子を見たことはあったけれど、こんなにおもしろい本だったなんて。読んだのは一巻だけだけど、主人公のアツト君や仲間たちのことが、ものすごく好きになっていた。


 二巻も読みたいけれど……ブックタワーの箱の中には無かった。図書室に行ったらあるのかなー。でも、児童書の棚の本はまだまだ読んでいかないといけないし……。


「面白かった?」

「わぁっ!」


 ブックタワーの二段目の本を指でなぞっていたら、また急に隣から話しかけられた。そっちを見ると、昨日と同じ、眼鏡の男の子が、ぼくを見てくすくす笑っている。


「ごめんごめん。でも、また同じリアクションとは」

「もう。おどろかせないでよ」

「いやー、今日も来てくれたのが嬉しくて、ついつい」


 ぼくが怒っても、その子はあんまり効いていないみたいだ。でも、急にじっとこっちを見つめる。


「そんなに、本を読むのが楽しかったんだな」

「ま、まあね」

「昨日で二十冊の絵本を全部読んだからな。こっちが呆気にとられるようなハイペースだ」

「そうかな?」


 ぼくは、まだゲームのために本を読んでいるのが悪い気がして、また難しいことを言っているその子に合わせた。本当は、簡単なところはさっさとやってしまうのがRTAのコツだと、昔見たゲーム動画で言っていたのを、ブックタワーでも試しただけなのに。

 ぼくが、コンピュータ探偵団の隣にあった本を抜き出して、ベンチに戻ると、その子もぼくとは別の本を持って、ぼくの隣に座った。


「あのシリーズ、二十年近く続いている児童書なんだけど、彰次あきつぐは初めてなんだ」

「うん。二十年も続いているっていうのも、初めて知った」

「最近完結したんだよな。今度、二巻以降も読んでみなよ」

「うーん、気になるけど、また今度だね。まずは、ブックタワーの本を全部読まないと」

「あー、そうだよな」


 ぼくがそういうと、その子は初めて寂しそうな顔をした。だから慌てて、「二巻も必ず読むよ」と、簡単に約束しちゃった。


「それがいいよ。続きは図書室か、図書館にもあるから」

「うん」

「本は今のところ、唯一無料で楽しめる娯楽だぜ。どんどん活用しないとな」

「え? テレビもネットも無料だよ?」

「いや、電気代とか通信料とかかるだろ」

「そっか。お母さんもよく、ネットを使いすぎると怒るからね」


 お母さんの月末の口癖「通信代がー」を思い出していると、「あ、待って」と、その子が急に上を向いた。


「よくよく考えたら、市民の税金を使っているから、厳密には無料じゃないな。まあ、まだ子供、未成年だったら、還元率は高い方だろうけど」

「そんな難しいこと言って、言い直さなくてもいいのに」

「彰次が大丈夫って言っても、俺が気にするんだ。あと、図書館には、DVDやCDとかも置いているから、本だけっていうのも間違っているな」

「えっ! DVDもあるの⁉」

「あるある。と言っても、学校で見るようなものばかりで、彰次が想像しているような、アニメのDVDはあんまりないけど」

「そっかぁ」


 ちょっとがっかりしたけれど、でも、図書館への期待は大きくなっていった。ぼくが行ったことのない、あのブックタワーよりもたくさんの本が入っている図書館。いったいどんな場所なんだろう……。

 もう一冊の本も読み終えたら、夕方になっていた。それもとても楽しかったので、あの子が、なぜかぼくの名前を知っていたことに、家に帰って夕食を食べているときまで、気付かなかった。




















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