ブックタワーを攻略せよ!
夢月七海
一段目 絵本
神様お願い!
ぼくがそう思いながら回したガラガラだったけれど、中から出てきたのは、白い玉だった。
「あー、残念だったねぇ」
ガラガラの担当だった、高校生くらいのお姉さんは、そう言いながら参加賞のティッシュ箱をくれた。ぼくはそれをもらいながら、ガックシしている。
この商店街の抽選で、最新ゲーム機が一等だと聞いてから、少ないお小遣いから五百円も使って、やっと抽選権をゲットできたのに……。一回分しか券を持っていないので、もうあきらめて帰ろうとした。
「ねえ、ちょっと待って」
すると、抽選のお姉さんが話しかけてきた。なぜかにやにやしている。エプロンの名札には「常深」とあって……読み方は分かんないけれど、あっちにあった靴屋さんと同じ名前だ。
ぼくは、お姉さんがぼくのことをかわいそうに思って、もう一度、こっそりチャンスをくれるんだと思った。だけど、お姉さんは、自分の前のずっと先の方を指さす。
「あそこに、本棚のモニュメントがあるの、見える?」
「うん。ある」
「モニュメント」の意味は分からないけれど、この商店街の真ん中より南側には、確かに本棚があった。五つの四角い箱が積み重なったような形で、アスレチックの滑り棒みたいな銀の棒が、右側にくっついている。
今日、初めてこの商店街に来た時に、珍しくて近寄って、見てみた。本棚の隣には、コーヒーミルみたいな取っ手付きの台があって、そこに説明がある。これは「ブックタワー」と言って、ここに来た人は好きなように本を読んでいいこと、取っ手を回すと、箱の一番下が銀の棒を通って一番上に行って、下から二番目が一番下に動くのだと書かれていた。
「あそこにある本を全部読んだら、願いが一つだけ叶うんだよ」
「え、ほんとに?」
「うん。でも、誰かを生き返らせたいとか、戦争が無くなってほしいとか、大きすぎる願いは無理だけど。あと、一か月で、新しい本と古い本が入れ替わったりするから、期限は今月の末までだね」
「分かった。お姉さん、教えてくれて、ありがとう」
「いえいえ。頑張ってね」
ニコニコしながら手を振るお姉さんに背中を向けて、ぼくはブックタワーの方へ向かった。
正直、小学四年生のぼくは、教科書以外の本を読んだことがない。読書が苦手だけど、あそこにある本を読むだけで願いが叶う——欲しかったゲーム機が手に入るんだったら、楽勝だと思っていた。
〇
ブックタワーの箱は、好きなように入れ替えられるけれど、一応順番がついている。で、一番下にあるのが、絵本の棚だと、説明文には書いてあった。
ぼくも、最初に絵本の棚から読み始めた。絵本は、他の棚の本より数が多くて、二十冊もあったけれど、一冊一冊が薄いから、楽勝だ。
「君、ここに来るのは初めてだよね?」
「わぁっ!」
赤ちゃん用の、猫や犬がいないいないばあする絵本を読んでいたら、ぼくの座っているベンチの隣から、そう話しかけられた。びっくりして顔を上げると、ぼくのすぐ隣に、同い年くらいの男の子が座っていた。その子も、絵本を一冊、膝に置いている。
「ごめんごめん。見ない顔だったからさ」
「う、うん……」
謝っているのに笑いながら、眼鏡をかけたその子が言った。なんとなーくだけど、この子は本が好きなように見える。
ぼくはその子に、みんなが持っているゲーム機が欲しいけれど、うちは貧乏だから無理だとお母さんから言われたこと、今日の商店街の抽選でもらえるかもって思ったけれど、外れたこと、でも、お姉さんからこのブックタワーで願いを叶える方法を教えてもらったことを話した。
「じゃあ、
「渡りに舟?」
「超絶ビックチャンスってこと」
男の子は、見たとおりに知らない言葉を使うけれど、分かりやすい言い方に直してくれた。あと、年上のお姉ちゃんのことを呼び捨てにしている。だから、ぼくも質問してみた。
「君は、この辺の子なの?」
「この辺っていうか、ここだね。そっちは?」
「ぼくは、あっちの用水路の、向こうの向こうの道のアパートだよ」
「ちょっと遠いな。これからは、ここに通ってくれるのかな?」
「そうだねぇ。あと三十日くらいで全部読まないといけないから、そうなるかも」
ぼくは、男の子との言葉に変な感じがしながらも、全部正直に話した。すると、その子は「そっかそっか」と嬉しそうに笑っている。
ぼくは、その子は本ばかり読んでいて、友達がいないから、ほんとは寂しいのかな、とか考えていた。
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