第1話 ②
「ーーて、起きてよ、サブロクぅ……」
V5-100の小さな手がG5-36の身体を小刻みにゆする。
「…………ん」
G5-36が目を覚ますとV5-100がパァァっと光が灯ったかのように笑顔になる。
「ここは…………ッッッッ!」
G5-36が起きあがろうとした瞬間、激痛がはしる。
「今は起きちゃダメだよ、安静にしてなきゃ」とV5-100は言う。
V5-100が脱出させてくれたのだろう。天地がひっくり返ったスポーツカーからG5-36の足元まで、血の軌跡が描かれている。
医療キットの中身を使い切ったのだろう。血まみれになったガーゼや包帯が一箇所に置かれ、新しいガーゼや包帯が、G5-36の傷口を塞ぐ。塗り薬が傷口に染みて痛い。
「アイツは?」
「あそこでくたばってる。……襲ってこないのが不気味なくらいよ」
V5-100が指を刺した方向にG5-36は目をやる。アイツーー
「連絡はしたのか?」
「一応
そう言いながらV5-100はポーチから魔石を取り出す。月明かりの如く白く輝くそれは彼女の小さな手では覆い隠せないほどの大きさだった。
魔石の美しさに言葉を失う。G5-36の開いた口が塞がらない。
時間を忘れて鑑賞していたかったがそれよりも先にやらなければならないことがある。
「ひとまず死骸を処理しよう。この空洞を触媒にダンジョンが形成されたら俺たち人類に打つ手がなくなる」
「それなんだけど……」
「ん?」
「魔法が効かなくて…………」
「内側から焼こう。口の中に燃やせそうなものを突っ込むんだ」
ランクE
2人は燃やせそうなものを探した。スポーツカーからは取り扱い説明書、どこかのコンビニかスーパー、デパートのレシートが数十枚、足マット、青少年には刺激が強い雑誌が数冊、シートの内側にあるスポンジのようなもの、ガソリンが手に入った。ガソリンに関しては、爆発しないよう慎重に給油タンクに穴を開け、適当な容器にガソリンを移し替えた。本来であればガソリンは“ガソリン携行缶”に入れて持ち運ばなくてはならないが、今回だけは致し方ない。
ガソリンを移し替えるのに思った以上に時間がかかる。時折、死骸の方に目をやるが動く様子はない。
可燃物が一通り揃った。後は怪物の口の中に入れ、火をつけるだけ。
「「
2人は詠唱し、火を放つ。死骸はみるみるうちに燃え上がる。
「これで一安心だな……にしても、随分と深いところまで落ちものだな。生きているのが不思議なくらいだ」
2人の運が良かったのか、もしくは1000万のスポーツカーの安全装置が正常に作動したためか。どちらとせよ、生きているのが不思議であるのには変わらない。
2人は当たりを見回す。白く巨大なコンクリートの柱が数十本、天井を支えている。それはまるで歴史書で見た神殿のようだった。
G5-36が目の前の空間を上から下に軽くなぞるかのように動かす。すると、パソコンのウィンドウめいたものが浮かび上がる。
「残りの魔力を確認しよう。……俺はあと1」
「ボクはあと17。ボクの勝ちだね……でも、
「熊助相手に撃ちまくった」
「何やってんのよ! サブロクぅ!!」
V5-100の怒号めいた叫びが空間内に響き渡る。
怪物蔓延る終末学園で、天使を拾う(旧題:天使と怪物の二重奏) 銀茶ラテ @gincya_tea
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