第1話 ①
白銀の月明かりが廃墟を照らす。
黒を基調とした武装を纏った少年は、瓦礫をどかしながらゆっくりと立ち上がる。
「ぃッてぇ……」
熱で溶けた武装は少年の肌を所々露出させる。折れて言うことを聞かない左腕を右手で押し当て、おぼつかない足取りで肉片に近づく。
熊に鎧を着せたかのような姿をしたソレは、舗装された道路を引っ掻き、小さなクレーターを作った。時折、レーザービームのようなものを口から放ち、ビルの壁に穴を開けた。
少年が短刀を怪物の心臓部に突き刺す。死肉を削ぎ落としては正八面体の結晶を取り出す。
「CP、こちらG5-36。ランクE、
『こちらCP、了解。ご苦労さまでした』
耳元に着けられたインカムに囁くと耳骨を直接震わせて返事が返ってくる。
月光に照らされた怪物の死因は爆死。レーザービームめいたブレスを放つ直前、開いた口に少年ーーG5-36が手榴弾を投げ込み、五秒後、爆発し割れた水風船のように血と臓物は撒き散らされた。
ソレらーー魔物は、どこから来たのかはわからない。しかし、魔物はゾンビ映画の如く人や家畜を襲い、犯し、数を増やしている。
「いてぇよちきしょう……あの《*学園スラング》、俺の自慢の双剣を消し飛ばしやがって……」
撃破されて間もない怪物は腐敗し、分解されていく。そのまま放っておくと、腐敗臭と疫病が蔓延する。報告では死骸が地下を侵食し、ダンジョンを形成するそうなので燃やして処理するのが、学園都市で定められたルールである。
「
G5-36は詠唱し、火球を放つ。死骸は徐々に燃え上がり、そして灰となる。
死骸が完全に焼失したことを確認し、G5-36は「さてどうやって帰ろうか」と考えていたところ。
「おーい、サブロクジューハチ、無事か?」
声がする方に振り向く。すると、スポーツカーらしき乗り物に乗った少女が手を振りながらこちらに近づいてきた。
「……V5-100、無事とは言いにくいが、熊助を斃した。後、勝手に掛けるな」
「別にいいだろぅ? キミとボクの仲なんだしさ。それよりすごいだろ〜コレ! 1000万はくだらない代物だぜぇ?」
V5-100と呼ばれる少女は車から降り、両手を広げ、ドヤ顔で自慢する。
「……お前、MT車運転できたんだな」
「まあな。何回かエンストしたけどね」
「心配になってきた」
「まあ乗れって。トランクに医療キットがあるからさ」
トランクから医療キットを取り出し、傷を手当する。折れた左腕はV5-100に手伝ってもらった。
「任務完了。これより帰還すーー」
その時である。地を揺らす足音が一歩、また一歩とG5-36達に近づいてくる。
“ソレ”の影は2人を飲み込む。振り返り、上を向くと、太古に絶滅した肉食恐竜を思わせるような魔物が鼻息を荒げ2人を見下ろす。
「「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!」」
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
2人の悲鳴めいた叫びは魔物ーーランクAA
※※※
「もっとスピード出せないのか、これは⁉︎」
「今やってる!」
咆哮の如きエンジン音が廃墟に響き渡る。右へ左へ、瓦礫を躱しながら颯爽と進む姿はまるでアクション映画さながらのドライブテクニックだ。
平時であればさぞ気持ちがいいドライブになったであろう。しかし、足音と共に近づく
魔物は廃墟を駆るスポーツカー目掛けて火球を放つ。V5-100は巧みなドライブテクニックで火球を躱す。G5-36は窓から顔を覗かせ、人差し指からエネルギー弾めいた弾丸を数発、魔物に命中させるが、効果がない。
「やはりダメか」
「何やってるんだ、サブロク! そんな豆鉄砲アイツに効くわけないじゃん! それと頭引っ込めて! 危ないから!」
V5-100に言われるがまま、G5-36は窓から顔や手を亀のように引っ込める。その間にも絶えず魔物は口から火球を放つ。
「これからどうするんだよ」
「知らないわよ、そんなこと! ……この先に立体駐車場があるからそこで
「うまく行くのかよ。第一、お前の作戦がうまく行ったこと一度もねぇぞ」
「今度こそ成功させるからーーーー見えてきた」
そうこうしているうちに立体駐車場が見えてくる。V5-100はアクセルを目一杯踏み込み、スピードを上げる。魔物が放った火球は2人の頭上を通り過ぎ……。
「あの《*学園スラング》どこ狙って……あ、まずい! ブレーキ! ブレーキ!!」
立体駐車場に着弾。数秒後、音と砂煙を巻き上げながら立体駐車場は崩れ落ちる。もし、あのまま突っ込んでいたら下敷きになっていたであろう。
「まずいまずいまずいまずい! おい、何をやっている⁉︎ はやくだせよ!」
「わかってるよ!」
V5-100が何回もスイッチを押す。しかし、エンジンがうまく掛からない。
さっきのブレーキでエンストしたらしい。本来であればブレーキとクラッチペダルを両方を踏み、スイッチを押すことでエンジンがかかる。しかし、この車の前のオーナーはあまり車のメンテナンスをしていなかったようで…………。
「動け! 動けっつってんだろこの《*学園スラング》!!!!」
罵声と共にダッシュボードを叩くV5-100。古い車ではあるがブラウン管テレビのように叩いて直る訳でない。
そうこうしているうちにズシン、ズシンと重い足音が近づく。魔物は口を使って車の天井を肉を引きちぎるかのように喰らう。魔物は獲物を追い詰めたと悦び、頭上でニタリと不気味な笑みを浮かべる。
「ーーーーーーーーぁ」
恐怖のあまり声が出ない。G5-36達の頭上にはランクAA
「喰われるーーーーッ!」そう思ったそのとき、音を立て、地盤が崩れる。
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