Day17「これは、大変だ!」

「ご無理を聞いていただき、ありがとうございます」

 ケーキの箱を手にした若い紳士は、何度も頭を下げた。上流階級の割にはまともな態度で、これなら娘も立派に育つことだろう。

「いえ。たまたまキャンセルが出たもので。それでは」

 お辞儀して、ビネットは踵を返して店へ戻ろうとした。その時。


 目の前が、真っ暗になった。驚いて立ちすくんだ彼女は、何が起きたのかをすぐに察知した。

 例の停電が発生したのだ。それも、高度集積地区コア・エリアの全域に及ぶほどの大規模なやつが。超々高層ビル群の窓が全て真っ暗になっていて、動揺のざわめきが辺りを満たしていた。


「これは、大変だ!」

 緊張した声を残して、紳士は飛行艇へと帰って行った。巨大なその艇は、暗闇となった一帯でただ一人、無数の窓を煌々と輝かせていた。


 幸いにも、店内はいくつものキャンドルランタンの光で、ぼんやりと明るい。

 店先に残された不安げな人々にとって、その光は拠り所のような役目を果たしているようだった。

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